odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

国枝史郎

国枝史郎「ベストセレクション」(学研M文庫)「レモンの花の咲く丘へ」「大鵬のゆくえ」  日本のロマン主義者は、世界変革を志さず、運命や業に逆らわない徹底的な宿命論をとる。

本書には「八ケ岳の魔人」が収録されているが、別エントリーにした。なお、文庫はすでに処分してしまったので、今回は青空文庫で読み直した。 妖虫奇譚高島異誌 ・・・ 青空文庫にないので割愛。 弓道中祖伝 1932 ・・・ 時は応仁の乱の直後。荒れた京の都で…

国枝史郎「八ヶ嶽の魔神」(講談社文庫) 予告編だけを読んでいるようだが、細部の迫力は比類ない。

筋のつじつまはあわないし、盛り上がりを乗り越えて一息つくところで容赦なくぶった切り、突然新たな人物が現れて別の話を始める。物語冒頭の設定は忘れられて、数十ページを過ぎて現れた時には別の意味をもたされている。およそ近代的な物語ではないのだが…

国枝史郎「蔦葛木曽桟 下」(講談社文庫) この世の悪を懲らしめ世界をまき直す知恵と力を求める旅はエスカレーションし、いつまでも上のレベルが現れ続け、家に帰りつけなくなる。

2022/2/28 国枝史郎「蔦葛木曽桟 上」(講談社文庫) 1922年の続き さて下巻。 父の仇木曽義明の寵姫になりすまし、義明を翻弄する美女鳰鳥(におどり)だが、俗界に失望して城外へ脱出する。そして彼女は人外の世界に迷いこみ、不思議な体験をする。一方、…

国枝史郎「沙漠の古都」(青空文庫) パリに怪獣現るがロブ湖の秘宝探しになり、ボルネオの有尾人と怪獣調査になって、探検隊は存在を忘れられる。

パリに怪獣現る! その報はレザール探偵のもとに届き、もう一人の高名な探偵ラシイヌとともに調査を開始する。最近冒険から帰還した市長はあおざめて口を閉ざし、もう一人の相棒動物園長はついに怪獣の襲撃を受ける。という具合に、ルブランか「ジゴマ」あた…

国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-1 永禄元年(1558年)、恐怖の源泉・纐纈城と富士教団神秘境を半人前の青年がうろつき、追いかける人が騒動を起こす。

「纐纈(こうけつ)」は耳慣れない言葉であるが、由来は「慈覚大師纐纈城に入り給ふ事(「 宇治拾遺物語」巻第十三)」にある。作品中に全文引用されているが、読みにくいかもしれないので、リンク先の現代語訳を読んでおこう。聞くだに恐ろしい話。近世より…

国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-2 善と悪の理念の対立はうやむやになり、己の肉体を嫌悪するものは克服が可能か。というところで永遠に中断した。

2022/02/23 国枝史郎「神州纐纈城」(講談社文庫)-1 1925年の続き 今ある分の後半(第12回以降)を読む。 ここで大きな設定が覆される。悪の巣窟・総本山ともいうべき纐纈城の城主は、甲府への憧れが募って城を飛び出し甲府の城下をさまようのである。世界…

国枝史郎「神秘昆虫館」(青空文庫) 「永世の蝶」をめぐる物語のようだが、永世の蝶はついに現れず、それが不在であってもかまわない。それをめぐる欲望こそが物語で重要なのだ。

古来、永世の蝶なるものがあり、雌雄二体をそろえた者は覇者となる力が備わるという。この事実は知られていなかったが、天保十年(1831年)、武士・一式小一郎が深夜その話をささやく老人と娘とすれ違った時から話が転がりだす。小一郎は覇者になるつもりな…