odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

金子光晴

金子光晴「マレー蘭印紀行」(中公文庫) 1930年前後のマレー半島、日本を背負えば文無し根無し草でも安全で傲慢な旅ができる。

これは昭和15年(1940年)に出版された紀行文。もとになった東南アジアの渡航体験は、「どくろ杯」「西ひがし」に書かれた1928-31年のときのこと。行きの話もあれば、帰りの話もあって、それはこの本だけではわからない。どの場所の話がいつごろのものかは、…

金子光晴「西ひがし」(中公文庫) 西洋では都市を歴史と知識で観察できるが、シンガポールやマレー半島ではエロスに誘惑される。

巴里について2年たち、根なし草の生活が板につくようになってきて、詩想も消えていく。それに若くない。妻・三千代は父に預けた子供のことが気になって仕方がない。それにかの国では日本の評判は下がる一方であり、不況はますます肩身を狭くする。ベルギーの…

金子光晴「ねむれ巴里」(中公文庫) 世界不況下のパリを下から覗くと、輝きすら幻滅にみえ、栄光は恥辱にまみれ、非凡が凡庸のきわみにみえる。

前作「どくろ杯」では、森三千代と巴里に抜けようというところ、上海にカウランプールほかで道草を食うところまで書かれていた。ここでは、先に送り出した森三千代を追って、シンガポールからインド洋にでる貨物船に乗船するところから始まる。そして約2年間…

金子光晴「どくろ杯」(中公文庫) 底抜けの不良で詩人が戦前の日本にいられなくなって最貧層の社会を渡り歩く。

不良という言葉には、ひどく人を魅了するところがあるのだが、そこらでオートバイをふかせているような矮小な連中は置いておくとして、金子光晴のスケールになると、もう太刀打ちできないと思い知らされる。なにしろ、旧制中学の頃から素行不良で退学ばかり…