odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2010-12-01から1ヶ月間の記事一覧

エラリー・クイーン「ダブル・ダブル」(ハヤカワポケットミステリ) 事象から一貫した内容のメッセージを見つけたら、それは何かの超越的で変更不可能のお告げなのだ。

エラリイ・クイーンの許へ匿名の手紙が届いた。中には最近のライツヴィルのゴシップを知らせる新聞の切り抜きが数枚入っていた----“町の隠者”の病死、“大富豪”の自殺、そして“町の乞食”の失踪。この三つの事件の共通点は? この手紙の主は、不敵にもクイーン…

エラリー・クイーン「顔」(ハヤカワ文庫) 1967年にクイーン風にリアルに描こうとすると、出来上がったものはおとぎ話にようになる。

”自分の声を演奏する”といわれた歌手、グローリーは莫大な財産を築いた後に引退していた。その彼女が何者かに拳銃で射殺されるという事件が発生した。現場には、―― face ――の文字が書き残されていた。エラリイはダイイング・メッセージの謎を解き明かす…

エラリー・クイーン「最後の一撃」(ハヤカワポケットミステリ) ダネイとリーの共作による最後の作品はクイーンのヒットソングメドレーみたいな作品。

事件の発端はいまを去る50年前、1905年の新年に遡る。某大出版社社長夫妻が、ニューヨークからの帰途、折からの雪にあって車は転覆した。懐妊中だった夫人は双生児の男子を産み落として死んだ。残された夫は、妻の死をもたらした二番目の男子を憎むのあまり…

エラリー・クイーン「盤面の敵」(ハヤカワ文庫) 「もう一方の側のプレーヤー」であるのは犯人であり、読者であり、神である。

エラリイは登場すると、現在(書かれたのは1963年)では探偵小説はまことにやりにくくなった。探偵に挑戦しようとする犯人は現実にはいないし、なによりも犯罪捜査の科学化が探偵の推理を必要としなくなった、と慨嘆する。1955年以降のアメリカの経済発展と国…

エラリー・クイーン「アメリカ銃の秘密」(ハヤカワ文庫) 1930年代、トーキーはアメリカの娯楽を一変させた。落ち目の興行は象徴的に殺される。

0人の騎手を従え、2万人の観衆の歓呼の声浴びて、さっそうと躍り出たロデオのスター、たちまち起こる銃声と硝煙の乱舞の中で煙とともに消えた生命。ありあまる凶器の中から真の凶器が発見されない謎を、名探偵エラリー・クイーンはいかにして解くのだろうか…

エラリー・クイーン「クイーン警視自身の事件」(ハヤカワポケットミステリ) ヒーローとヒロインは定年直後の63歳と婚期を逸した50歳。老人たちのハードボイルド小説。

悪徳弁護士がいる。彼は私生児を生もうとする貧しい女に近寄り、出産費用を立て替えるかわりに、私生児を富豪に斡旋する仕事をしている。今回は、クラブのジャズ歌手の息子を富豪に渡した。その直後に、赤ん坊が殺される。富豪の別荘の近くにいたクイーン警…

エラリー・クイーン「第八の日」(ハヤカワ文庫) 法治国家の「現実」と常識が通用しない場所では探偵小説の前提になる合理主義や理性は勝利しない。

ネバダ砂漠の真ん中でエラリイが迷い込んだのは、文明社会から忘れ去られたような共同生活をおくる人々の村だった。独自の宗教と法にしたがう彼らの姿は平和そのものに見えたのだが、エラリイの目前でその「殺人」は起こったのだ……。 不思議な味わいの探偵小…

エラリー・クイーン「ガラスの村」(ハヤカワ文庫) マッカシーズム全盛の時代で、倫理や正義を追求することの困難さ。

ここに書かれた民主主義については評価が難しいなあ。外界と途絶し、没落している村落。しかし、そこには開拓時代の自主独立の民主主義政治が営まれている。形式的には彼らのやり方は正しい。ただし、そこにある種の偏見、ドクサ、思い込みがなければ。村の…

エラリー・クイーン「途中の家」(ハヤカワ文庫)  探偵小説は、登場人物に経済学的な合理性を要請するのだが、被害者と加害者だけにはそれが免除されている。

ニューヨークとフィラデルフィアの中間にあるあばら家で、正体不明の男が殺されていた。男は、いったい、どちらの町の誰として殺されたのか? 二つの町には、それぞれ殺人の動機と機会を持った容疑者がいる。フィラデルフィアの若妻とニューヨークの人妻をま…

エラリー・クイーン「チャイナ・オレンジの謎」(ハヤカワ文庫) パズラーを突き詰めると、被害者の身元がわからなくても、ミステリーが成立する

宝石と切手収集家として著名な出版業者の待合室で殺された、身元不明の男。被害者の着衣をはじめ、あらゆるものが“さかさま”の謎。〈ニューヨーク・タイムズ〉紙が「クイーンの最大傑作」と激賞したが、読者の判定はいかがだろうか? クイーンがつくりあげた…

エラリー・クイーン「クイーンのフルハウス」(ハヤカワポケットミステリ)

1.ドン・ファンの死(The Death of Don Juan) 2.Eの殺人(E=Murder) 3.ライツヴィルの遺産(The Wrightsville Heirs) 4.パラダイスのダイヤモンド(Diamonds in Paradise) 5.キャロル事件(The Case Against Carroll) 1.3はライツヴィル…

エラリー・クイーン「大富豪殺人事件」(ハヤカワポケットミステリ) WW2最中のラジオドラマには国際情勢と民族への偏見が現れる。

オリジナルの小説ではなくて、ラジオドラマと映画のノベライゼーション。いずれも1940年(かその前後)。はなから小説で発表することを前提とした長編と比べると、重厚さも論理の徹底さもなくて、物足りない。・大富豪殺人事件・・・殺されると思い込んだ大…

エラリー・クイーン「緋文字」(ハヤカワ文庫) 十戒に記載された「汝、姦淫するなかれ」に背いたものに探偵は介入するべきか。

探偵小説家ダークと女流演出家のマーサは誰もが羨むおしどり夫婦だったが、いつしか仲が悪くなり、やがてトラブルを起こすようになった。ダークの暴力に耐えかねたマーサから相談を持ち掛けられたエラリイは、自らの秘書ニッキーをダークの秘書として雇わせ…

エラリー・クイーン「神の灯」(嶋中文庫) 真相を見出すには理性よりも神を感じる「直観」「観照」が重要という主張。

書誌が複雑なので、憶測を加えて書くと、1950年代に新潮社でだした訳(一部は新潮文庫で出ていた)を1960年代に中央公論社が使って、推理小説の選集をだした。それを中央公論社の元社長の一族の嶋中文庫が再発行。ややこしや。収録されているのは「神の灯」…

エラリー・クイーン「フォックス家の殺人」(ハヤカワ文庫) 共同体の間で軋みや歪みが起きているとき、外部の介入は避けるべき。エラリーは観察者に徹する。

それはまだ、英語の学習意欲が旺盛だった19歳(大学一年生)のこと。新宿・紀伊国屋書店の3階でペンギンブックスの「The murder is a fox」を買った。歯が立たなかった。3週間ほどかけて2章まで読んだところで挫折。その直後に、この文庫本がでて一度読んで…

エラリー・クイーン「ギリシャ棺の秘密」(ハヤカワ文庫) 章の頭文字を取りだすと小説タイトルと作者名が浮かび上がる。のちのダイイングメッセージや奇妙なプレゼントにつながる。

中学2年か3年かにこの大著を読んで、今よりもずっとページをめくるスピードがなかったから、この複雑な設定と長い尋問が頭に入らず、何人かの容疑者を用意しておいたもののいずれも作中探偵と同様に間違え、つまりは最後に驚愕することになった。あまりにシ…

エラリー・クイーン「エジプト十字架の謎」(ハヤカワ文庫) われわれ読者が小説の物語世界に突然放り込まれ、唖然としむっとし大笑する。

欧米探偵小説の黄金時代を飾る作品。1932年作。もちろん今日の捜査状況から見れば甘いところやいけないところが多々ある(いくら被疑者が鼻持ちならない奴だとしても、私怨で叩きのめしてしまうのはいけないだろう、ヴァーン警視)。にもかかわらず、最後の…

エラリー・クイーン「Yの悲劇」(新潮社) ヴァン・ダイン「グリーン家」の成功に触発された大都会の幽霊屋敷連続殺人事件。

30年ぶりに再読。今回は宇野訳の創元推理文庫版でなく、大久保康夫訳の新潮社版。昭和32年刊行のもの(新潮文庫と同じ)。 1932年発表の高名な小説なので、サマリは略。中学3年の時が初読だが、このとき犯人をあてたぜ、イエー。スゲーだろ。え、そんなこと…

ジョン・ディクスン・カー「疑惑の影」(ハヤカワ文庫)

弁護士パトリック・バトラーはテイラー夫人殺害の容疑で捕われた娘ジョイスの弁護を引き受けた。夫人はジョイスと二人きりの邸内で毒殺されたのだ。絶対不利な状況にもかかわらず、バトラーは見事に無罪判決を勝ち取る。だがその直後、今度は夫人の甥が毒殺…

ジョン・ディクスン・カー「盲目の理髪師」(創元推理文庫) 豪華客船で発生した、二つの盗難事件と殺人事件。すれ違いと酔っぱらいのどんちゃん騒ぎの末に死体が消える。

大西洋をイギリスに向かう豪華客船クィーン・ヴィクトリア号で発生した、二つの盗難事件と殺人事件。すれ違いと酔っぱらいのどんちゃん騒ぎのうちに、消えたはずの宝石は現われ、死体は忽然と消え失せる。笑いとサスペンスが同居する怪事件の真相やいかに? …

カーター・ディクスン「爬虫類館の殺人」(創元推理文庫) 内側から目張りされた部屋で見つかった他殺死体。ロンドン空襲時だから成立するトリック。

第二次大戦下のロンドン、熱帯産の爬虫類、大蛇、毒蛇、蜘蛛などを集めた爬虫類館に、不可思議な密室殺人が発生する。厚いゴム引きの紙で目張りした大部屋の中に死体があり、そのかたわらにはボルネオ産の大蛇が運命をともにしていた。そして殺人手段にはキ…

ジョン・ディクスン・カー「死時計」(創元推理文庫) 「殺人ゲーム」遊びは計画通りに進まず、多すぎる容疑者が事件を複雑にする。

月光が大ロンドンの街を淡く照らしている。数百年の風雨に黒ずんだ赤煉瓦の時計師の家、その屋根の上にうごめく人影。天窓の下の部屋では、完全殺人の計画が無気味に進行している……。死体のそばに、ピストルを手にした男が立っていたが……。奇想天外の凶器! …

ジョン・ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」(創元推理文庫) 殺人を目撃した女がアリバイを主張できないために窮地にたつ巻き込まれ型サスペンス。

向かいの家で、婚約者の父親が殺されるのを寝室の窓から目撃した女性。だが、彼女の部屋には前夫が忍びこんでいたので、容疑者にされた彼女は身の証を立てることができなかった。物理的には完全な状況証拠がそろってしまっているのだ。「このトリックには、…

カーター・ディクスン「貴婦人として死す」(ハヤカワ文庫) 崖からの飛び降りで溺死したはずの二人が射殺体で見つかる。他人の足跡はない。

西洋には「心中」という概念がないそうだが、障害によって恋愛が成就されないとき、二人が同時に自殺するというのはあるのかな。自分の読書の記録を探ってみたけど西洋文学には見当たらなかった。という具合に珍しい発端になる(この国にはいろいろありそう…

ジョン・ディクスン・カー「剣の八」(ハヤカワ文庫) イギリスの幽霊屋敷で起こるポルターガイスト事件。奇行を繰り返す主教とミステリ愛好家が事件をしっちゃかめっちゃかにする。

幽霊屋敷に宿泊中の主教が奇行を繰り返すという訴えがあった。主教は手摺りを滑り下りたり、メイドの髪を引っ掴んだり…さらに彼はとてつもない犯罪がこれから起こると言っているらしい。警察はその言葉を信じていなかったが、主教の言葉を裏付けるように隣家…

ジョン・ディクスン・カー「死の館の謎」(創元推理文庫) 1972年に1920年代のニューオーリンズを回顧する。老いたカーは何事も抑え気味。

歴史小説家ジェフ・コールドウェルは、ひさしぶりに故郷ニュー・オーリンズの地を踏んだ。 彼を出迎えた旧友の住む邸は、二つの点で名を知られていた。 一つは、秘密の隠し部屋にスペインの財宝が眠っているという伝説によって。 もう一つは、謎の怪死事件が…

ジョン・ディクスン・カー「曲った蝶番」(創元推理文庫) 迷路庭園内で起きた準密室殺人事件。「天一坊事件」じみた相続のあらそい。

ケント州の由緒ある家柄のファーンリ家に、突然、一人の男が現われて相続争いが始まった。真偽の鑑別がつかないままに現在の当主が殺され、指紋帳も紛失してしまった。さしもの名探偵フェル博士も悲鳴をあげるほどの不可能犯罪の秘密は? 全編をおおう謎に加…

ジョン・ディクスン・カー「帽子収集狂事件」(創元推理文庫)

夜霧たちこめるロンドン塔逆賊門の階段で、シルクハットをかぶった男の死体が発見され、いっぽうロンドン市内には帽子収集狂が跳梁して、帽子盗難の被害が続出する。終始、帽子の謎につきまとわれたこの事件は、不可能興味において極端をねらう作家カーが、…

ジョン・ディクスン・カー「魔女の隠れ家」(創元推理文庫) フェル博士初登場作。ゴシックロマンスにコメディとロマンスを加えて一味違う作風になった。

チャターハム牢獄の長官をつとめるスタバース家の者は、代々、首の骨を折って死ぬという伝説があった。これを裏づけるかのように、今しも相続をおえた嗣子マルティンが謎の死をとげた。〈魔女の隠れ家〉と呼ばれる絞首台に無気味に漂う苦悩と疑惑と死の影。…