odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1

若い時に海兵隊員で硫黄島の戦闘に参加していたサミュエル・ライアン。ニンジュツに興味があって日本に修行にきていた(!)。父の友人という老人から、ニンジュツのマキモノが盗難にあったので、おまえ調べてみないか、どうせ暇だろうと手付金をもらう。イ…

都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-2

2021/07/30 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1 1964年の続き サミュエル・ライマンのスパイアクションの物語を中断するかのように、滝口正雄(都筑道夫が使っていたペンネームのひとつ)の楽屋話が挿入される。滝口はS・B・クランストンが書いた「三重露…

都筑道夫「暗殺教程」(光文社文庫)

「TULIP (「チューリップ」、The Undercover Line of International Police) はニューヨークに本部を置き、世界各地に支部を持つ腕利きの対謀略組織である。そこで働くエージェントは、スパイキャッチャーと呼ばれている。国際謀略叛乱グループ TIGER (「タ…

都筑道夫「哀愁新宿円舞曲」(光文社文庫) 「猫の舌に釘を打て」に併録。新宿は戦前は畑と林だったのが、戦後に開けたので歴史がない。戦争の記憶を持たない。センセーにはあわない町。

光文社文庫の都筑道夫コレクション「青春篇」に収録されている版で読んだ。併録は「猫の舌に釘をうて」。 初出がかいていないので、このサイトに載っている年月をいれた。単行本になったのは1974年。都筑道夫 短篇リスト(一段落版) www7b.biglobe.ne.jp 娼…

都筑道夫「魔海風雲録」(光文社文庫)「善亭武升なぞ解き控 」「西郷星」

光文社文庫の「魔海風雲録」に収録された短編。 善亭武升なぞ解き控 以下の短編のまえに「湯もじ千両(1984)」があるが、収録された「悪夢録画機」を未入手なので内容はわからない。以下の三篇は本書が初書籍化らしい。柳剛流(実在する剣法なんだって!)…

ヤコブセン「サボテンの花ひらく」(プロジェクト杉田玄白) 娘への求愛物語で語られる諦念と悲嘆、運命への呪詛。

杉田玄白プロジェクトによって、ヤコブセンの「サボテンの花ひらく」が翻訳されているので読む。ここには、シェーンベルクの「グレの歌」の歌詞が収録されているので前から気になっていた。 blaalig.a.la9.jp 訳者の解説によると、「サボテンの花ひらく」は1…

ニコライ・レスコーフ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」(青空文庫) 殺人にかかわったカテリーナはロシアに生まれつつあった肉体と他人を嫌悪するモッブ(@アーレント)の先駆者。

カテリーナは、クルスク育ちの貧乏人、器量よしだったのでムツェンスクのイズマイロフ家に嫁いだ。不幸なのはカテリーナは20代前半なのに相手は50代のジノーヴィ。そのうえボリス爺さんという好色な舅がいる。ムツェンスクは小都市とはいえ、大きな商家にひ…

フョードル・ドストエフスキー「白夜」(角川文庫) 失恋した26歳の「空想家」は希望や人との関係を持っているので地下室にこもらないでいられそう。

今回は角川文庫の小沼文彦訳。昭和33年1958年初版なので、前回読んだ米川正夫訳よりも新しい。たとえば以下の言葉が注釈なしに使われる。「デート」「ランデブー」「ハート」「(好きな人の)タイプ」など。これらは当時の若者言葉。昭和30年代の日本の青春…

埴谷雄高 INDEX

2021/07/12 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 1946年 2021/07/09 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」 1948年2021/07/08 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 1948年2021/07/06 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 素人による参考になりそうな本リスト。革命、宇宙、ドストエフスキー、悪魔学などなど

この小説は、敗戦直後の1946年に雑誌「近代文学」に連載された。第4章まで書かれて1948年に中断。それから約20年の時を経て、第5章が1975年に突然発表(このとき、「完本」のタイトルで第5章までの分厚く黒い本が出た。中学生だった俺は卒業直前に都会に出て…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」 一つの形而上学でもある観念小説。方法は「極端化と暖昧化と神秘化」「als obの濫用、反覆の濫用、或る期間までの心理描写の省略、探偵小説的構成等々々」

2021/07/12 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)ガイド 1946年の続き 「序」で、「死霊」の方法と物語の構想が語られる。 序(1948.10) ・・・ 一つの形而上学でもある観念小説。方法は「極端化と暖昧化と神秘化」「als obの濫用、反覆の濫用、或る期間…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 五日間のできごとの第一日午前。人が増えて、部屋がいっぱいになったところで幕が下りるシチュエーションコメディー。

2021/07/09 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「序」 1948年の続き 第一章 癲狂院にて (第一日午前) とても暑かった夏の終わりの午前、永久運動で動く時計台をもっている「✖✖風癲病院」に、黙りがちで長身の三輪与志が、兄・高志の依頼で、高志の友人…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-1 第一日午後。葬儀と結婚話が同時進行し、トリックスターがひっかき回しだす。

2021/07/08 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第一章 癲狂院にて」 1948年の続き 第二章 《死の理論》 (第一日午後) その日の午後は、三輪家の祖母の葬儀が予定されている。「風癲病院」を抜け出した首が向かったのは津田家。彼は出かける前の津田…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-2 存在に不快を感じるとなると、それは必然的に肉体を嫌悪し、肉体を持つ他者の嫌悪につながる。

2021/07/06 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-1 1948年の続き 三輪家と津田家は300年間の付き合いがある古い家。 最近になっての出来事で重要なのは、高志や与志の父である広志と津田康造が子供時代からの知り合いであること。…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-3 独我論だろうが悪魔学だろうが三輪の兄弟は自分のことばかりを考え、トリックスターの首はあらゆるものの最後まで見届けなければならない。

2021/07/05 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-2 1948年の続き 首猛夫は自分の作った喩え話において、墓地をへて平安な場所にいけるのは津田夫人のみであるという。自分のことに思い煩うことがなく、他人の魂のことばかり背負い…

埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-1 第一日の夕方から日没。「屋根裏部屋の思考」は個に徹することで宇宙や無限大に跳躍するのであり、人間を超える存在革命を指向する。

2021/07/02 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第二章 《死の理論》」-3 1948年の続き 第三章 屋根裏部屋(第一日の夕方から日没) 語り手は、この時代を酷しき「紛糾と錯乱の支配する」鉄の時代であるとする。それ以前の金や青銅の時代から衰退・退廃…