odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2024-01-01から1年間の記事一覧

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている

これまでの経済学では市場・企業・家庭を一人格に扱い、中にいる個人を取りあげることはなかった。また自然を無限とみなして収奪してきたが(同時に農村の「余剰」人口を労働者に吸収し続けてきた)、再生産も無限とみなして対価をはらわずに再生産の場であ…

上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-2 を変えないと、女性問題は解決しないし、男も資本制や家父長制から解放されない。

2024/04/19 上野千鶴子「家父長制と資本制」(岩波現代文庫)-1 家父長制と資本制は市場とそれ以外の空間を支配する構造としてできている 1990年の続き 1の理論編は家父長制と資本制の二元論を共時的にみた。2の分析篇は二元論を通時的にみる。大賞は日本…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。

自分が感じる生きにくさは、不安定で暴力的な社会に理由はあるが、同時に「男らしく」を深く内面化している自分自身にあるのではないか。そういう問いが老年になって生まれたので、勉強する。まず「ジェンダー」を理解することから。 ジェンダーは「社会的に…

伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-2 男性優位社会のジェンダー観は社会のしくみの隅々まで浸透している。転換が必要。

2024/04/16 伊藤公雄「ジェンダーの社会学〔新訂〕」(放送大学教材)-1 「社会的に作られた性別」であるジェンダーの刷り込みは個人の生きにくさになり、差別や貧困などの原因になる。 2008年の続き 個人の問題からシーン別のジェンダーや「女性問題」につ…

トーマス・ペイン「コモン・センス 他三篇」(岩波文庫) 独立に当たって重要なのは、自分自身の法律を作ること。これに参加した記憶が国家統合の象徴になる。

前回読んだときは、アダム・スミスのアメリカ分離論も、アーレントの「革命について」も深くは知らなかった。再読では彼らの考えを参考にする。前回の感想。 odd-hatch.hatenablog.jp イギリスは7年戦争(1754-1763)で疲弊していた。ヨーロッパのほとんどの…

ギュスターヴ・ル・ボン「群衆心理」(講談社学術文庫) 群衆心理に巻き込まれないことにどう注意するかよりも、やってはいけないことをしっかり覚えることが先。

この古典をそのまま読むのは危険。なにしろ1895年の著書。今と同じ前提で書かれていると思うと誤りになる。まず、19世紀末の心理学は20世紀後半の実験や観察、アンケートなどを使った実証的なものではなく、哲学の一分野だった。ニーチェがいう「心理学」み…

デイヴィッド・ミラー「はじめての政治哲学」(岩波現代文庫) イギリス上流階級向けの教科書。

イギリス・オックスフォード大学所属の研究者が2003年に書いた政治哲学の入門書。章立てを見ればわかるように、政治哲学の大問題をわかりやすく解説したもの。日本で政治哲学の入門書を書くと、ソクラテス、プラトン、アリストテレスからカントやヘーゲ…

保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-1 キリスト教とイスラームの場合

著者は比較宗教学者。 日本では、政教は分離されているとたいていの人が認識しているが、政教分離は普遍原理ではない。日本そのものが神権政治の国だった。その精神は日本国憲法施行以後も消えていない。他の国では政治と宗教が一体化しているところがあるし…

保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-2 仏教と神道の場合

2024/04/08 保坂俊司「国家と宗教」(光文社新書)-1 キリスト教とイスラームの場合 2006年の続き 後半は通常政治的ではないとされる宗教が政治に関与しているという話。アジアの政教分離はヨーロッパとはかなり違う。 第3章 仏教と政治 ・・・ 仏教には政…

工藤庸子「宗教vs国家」(講談社現代新書) 第三共和政のフランスは公共空間から宗教を排除した

政教分離は近代の国民国家の前提になっているが、国によってありかたは異なる。たとえば、アメリカでは議員が宗教団体の集会に出ることは承認されている。イギリスでは国教会があり、聖職者には一定数の上院議員の割り当てがある。ドイツでは聖職者は国から…

内藤正典「ヨーロッパとイスラーム」(岩波新書)-1 難民受入を進めるドイツと多文化主義のオランダの場合

21世紀になってから、ヨーロッパに居住するイスラムが増えた。2004年(本書初出)現在で1500万人ともいわれる。彼らの受け入れ国社会では摩擦が起きて(彼らを規制する動きとそれに対する反発)、イスラムへのヘイトクライムが発生している。民主主義、平等…

内藤正典「ヨーロッパとイスラーム」(岩波新書)-2 ライシテ(政教分離)を徹底したフランスの場合

2024/04/02 内藤正典「ヨーロッパとイスラーム」(岩波新書)-1 難民受入を進めるドイツと多文化主義のオランダの場合 2004年の続き 「ヨーロッパとイスラーム」を考えるときに、イスラムのひとたちがどのような信仰や社会帰属意識や「個人」観などを持って…

田中克彦「ことばと国家」(岩波新書) 国家は言葉を管理し同化と民族差別を助長する

ナショナリズムと言語についての解説書。35年前に読んだときはさっぱりだったが、ナショナリズムと差別のことを勉強するようになると本書はがぜんとして精彩を放つ。40年前(1981年刊)の本だが、今でも新しい。とはいえ、多くは常識になった(ということは…

鈴木孝夫「ことばと文化」(岩波新書) 日本は同一・同質という思い込みは外国人との交流を妨げる

外国語を習得するにあたり、日本人は様々な困難に直面する。大きな理由は、その言語が置かれているコンテクストを理解しないところにある。すなわち、ことばが社会や文化の中にあり、個々の項目はほかの項目との間で相対的に価値が決まることを無視するため…

渡辺靖「アメリカン・デモクラシーの逆説」(岩波新書) オバマに期待したアメリカ民主主義の修正力

著者はアメリカ研究者。購入後に気づいたが、以下の本の編著者だった。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jp その彼が8年の共和党政権(子ブッシュ)のあと民主党政権(オバマ)になってからのアメリカをみる。2010年初出。 第1章 アメリカン・…

佐藤百合「経済大国インドネシア」(中公新書) いずれ日本のGDPを抜く東南アジアの大国。

最後の章で、日本人はインドネシアの見方を変えろと主張する。そのとおりであって、インドネシアを観光国、資源供給国とみるのは1930年代の南進論以来の思考。そこにあるアジア人差別は1940年代の占領にあり、抗日の激しい反発を招いた。戦後はODA供与先とし…

高橋和巳 INDEX

2024/03/21 高橋和巳「捨子物語」(新潮文庫) 自意識過剰な子供が何もしない言い訳と他人の悪口を延々と描き続ける。 1968年2024/03/19 高橋和巳「悲の器」(新潮文庫) 法科系エリートは労働はできても、生活ができない無能なミソジニー男性。 1962年2024/…

高橋和巳「捨子物語」(新潮文庫) 自意識過剰な子供が何もしない言い訳と他人の悪口を延々と描き続ける。

高橋和巳は1931年生まれ-1971年没。享年39歳。60年代から70年代半ばころまでの政治の季節にはよく読まれた。俺も一時期集中的に読んだことがある。でもしばらく忘れていたので、読み直すことにした。前に読んだときは年上の作家だったが、今回の再読では…

高橋和巳「悲の器」(新潮文庫) 法科系エリートは労働はできても、生活ができない無能なミソジニー男性。本書は筒井康隆「文学部唯野教授」のシリアス版。

正木典膳という中高年の法学者がいる。彼の法理論は世界的な名声を得ていて、都内の国立大学で法学部長を務めている。学内や学界だけでなく、折からの警職法改正問題で国会から参考人として招致されたりもしている。そのような栄達をした人物が突然スキャン…

高橋和巳「散華」(新潮文庫) 初期短編集。テーマは脱出への希求とそれが不可能なあきらめ。

高橋和巳は長編を主に書いていて、短編は極めて少ない。たぶんこの一冊だけ。解説には発表場所と年が書いていない。いつどういう状況書かれたものかはとても重要な情報なのに、そこに触れない解説や評論は無用。おそらく「悲の器」の前に書かれた習作だろう…

高橋和巳「憂鬱なる党派 上」(新潮文庫) 六全協で挫折した活動家たち。大島渚「日本の夜と霧」と同じ主題。

28から30歳くらいの元教師・西村がいる。彼は結婚し子供もいるが、この5年間熱中していたのは、父母らが入居していた長屋の住人36人の伝記を書くこと。出生も仕事も年齢も共通していない36人であるが、共通しているのは1945年8月6日8時15分に広島で死亡した…

高橋和巳「憂鬱なる党派 下」(新潮文庫)-1 日本の教養主義者の没落過程を描いた大長編。

2024/03/15 高橋和巳「憂鬱なる党派 上」(新潮文庫) 六全協で挫折した活動家たち。大島渚「日本の夜と霧」と同じ主題。 1965年の続き 20世紀にはこの小説は社会運動や革命運動のやりかたについての議論をどう評価するかで読んできただろう。革命家になる…

高橋和巳「憂鬱なる党派 下」(新潮文庫)-2 ドストエフスキー「罪と罰」「悪霊」のパスティーシュ。日本を舞台にすることは困難。

なんとも辛気臭い話がだらだらと続くなあと読んでいたが、下巻に入って疑問氷解。これはドストエフスキーの「罪と罰」を日本で再演しようとした小説なのだ。松本健一「ドストエフスキーと日本人」に高橋和巳の名がなかったので、注意していなかった。松本の…

高橋和巳「現代の青春」(旺文社文庫) 勉強家の知的エリートはマジョリティの立場で引用と観念論で具体を論じ、共感に乏しい。

個人的な思い出から。最初に小遣いで買った文庫本は「路傍の石」と「二十四の瞳」だったが、大人びた文庫として本書を買ったのは12歳の中学一年生のとき。学校に持ちこんで読んでいた。あいにく級友で関心を示すものはなく、孤独な読書だった(担任の女性教…

高橋和巳「孤立無援の思想」(旺文社文庫)「人間にとって」(新潮文庫) 民衆との運動でも孤立無援を感じるエリート知識人。

大学教員をしながら大長編を書き、そこに大量の随筆・随想を書いていたから、高橋和巳は忙しすぎたのだよなあ。資料を読むこむ時間も、題材を深く考える時間もなくて、どのレポートも不十分なのだ。たとえば、「人間にとって」には「現代思想と文学」「戦後…

高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第1部-1 皇国イデオロギーに抵触する新興宗教集団は「憂鬱なる党派」であり破滅することが定められている。

明治の半ばに、神懸かりになった中年女性が救霊の啓示を受け、人救いの道に入る。彼女の人柄に惹かれた人々が入信し、ある被差別部落が部落を上げたりして参加した。そしてやりての中年男性が教組に拾われ、幅広い信仰運動を始める。最初は(たぶん)奈良県…

高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第1部-2 人に言えない秘密を持つ少年は常に苦労を背負うように、罰せられるように行動を選択する。

2024/03/07 高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第1部-1 皇国イデオロギーに抵触する新興宗教集団は「憂鬱なる党派」であり破滅することが定められている。 1966年の続き 前の要約は、教団の第1から第2世代の大人たちの物語。組織にがんじがらめになって、…

高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第2部 挙国一致の翼賛体制で大衆・庶民は政治参加する楽しみを得る。窮乏による不満と不安はマイノリティにぶつけられる。

2024/03/07 高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第1部-1 皇国イデオロギーに抵触する新興宗教集団は「憂鬱なる党派」であり破滅することが定められている。 1966年2024/03/05 高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第1部-2 人に言えない秘密を持つ少年は常に苦労…

高橋和巳「邪宗門 下」(新潮文庫)第3部 大日本帝国の罰と責任を引き受ける宗教集団による「本土決戦」。

2024/03/04 高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第2部 挙国一致の翼賛体制で大衆・庶民は政治参加する楽しみを得る。窮乏による不満と不安はマイノリティにぶつけられる。 1966年2024/03/04 高橋和巳「邪宗門 上」(新潮文庫)第2部 挙国一致の翼賛体制で大衆…

高橋和巳「我が心は石にあらず」(新潮文庫) 地方エリートはホモソーシャル社会の競争で勝ち続けようとして威張り、脱落すると女性に依存する。

前作「悲の器」で法科系エリートを虚仮にした作家、今度は組合活動家を虚仮にする。という方向で読んだ。 特攻隊になったが一命を永らえた学生は機械工学の技術を得て、地元の機械製造会社の研究員となっている。欧米の高額な特許料を払うのも片腹痛いという…