odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

コリン・ウィルソン「迷宮の神」(サンリオSF文庫) 「意識の拡大」論者が性的遍歴をしながら異端宗教「不死鳥教団」を発見する。追放された精神分析医ヴィルヘルム・ライヒの主張の小説化。

作家ジェラード・ソームはある出版社から18世紀後半の貴族エズマンド・ダンリイについて書くように求められる。エズマンドは1748年生まれ1832年死去の放蕩者。性的遍歴をポルノチックにつづった日記によってのみ知られていたとされる。18世紀後半には無名氏…

ブライアン・オールディス「兵士は立てり」(サンリオSF文庫) 1944年インパール作戦に参加したイギリス兵士の回顧談。軍隊内部の暴力がないイギリス軍は日本軍を圧倒する。

ニューウェーブの担い手としての作品ではなく、自伝的なホレイショ・スタブス3部作の第2作。第1作「手で育てられた少年」第3作「突然の目覚め」もサンリオSF文庫で出版されたが、そちらは未入手・未読。なのでこの一作だけを取り上げることになる。 1971年に…

ブライアン・オールディス「世界Aの報告書」(サンリオSF文庫) 誰かがだれかを監視している多層構造。のぞきと引用は読書することの比喩。

イギリスとおぼしき国の郊外に館がある。マリイ氏とその妻が住んでいるらしい。その周囲にはバンガロー、煉瓦の納屋、馬車格納庫などがあり、G(元庭師)、S(元秘書)、C(元運転手)がこもっている。彼らの目的はマリイ氏を監視すること。望遠鏡や双眼鏡を使…

C.H.B.キッチン「伯母の死」(ハヤカワポケットミステリ) 目撃者がいる前でどうやって毒をもったのか、謎はすべて解けたが、証拠がないので犯人はあかせないのをどうしよう。

本を開くと、登場人物表はなくて、かわりにカートライトとデニスの一家の家系図が乗っている。総数30人くらいで、こんなにたくさんの人物を読み分けないといけないのかと重い気持ちになったが、会話のある人物はほんの数人。肩透かしをくらったけど、こうい…

マージェリー・アリンガム「判事への花束」(ハヤカワポケットミステリ)

故ジャコビイ・バーナビスの創立したロンドンの出版社は老舗で、(書いていないけど)大戦の影響も受けずに安定していた。この会社はジャコビイの親族(いとこばっかり)で経営されている。本来は、トムという甥が後を継ぐべきだったのに、なぜか20年ほど前に…

H・G・ウェルズ「宇宙戦争」(ハヤカワ文庫) パンデミックと総力戦において、力を持たない市民・庶民は暴力に対して徹底的に無力だという悲観主義SF。

19世紀末の火星大接近のあった夜、火星の表面で爆発が観測された。それから数日後、ロンドン南西部の郊外に円筒形のロケットが着弾した。その中からおぞましい三脚台に円盤のついたような歩行機械が現れ、高熱ビームと毒ガスで人類を襲撃する。どうやら、寒…

ライダー・ハガード「ソロモン王の洞窟」(創元推理文庫) 英国紳士は植民地の秘境を探検する。

映画「リーグ・オブ・レジェンド」はさほど面白いストーリーではなかったが、登場人物が19世紀の大衆小説のヒーロー、ヒロインたちというのが気に入った。コミックの原作があるそうだが、原作者だけでなく映画の製作者、関係者もみな「わかっている」。ジキ…

司馬遼太郎「空海の風景 下」(中公文庫) 宗教者であり、思索家であり、詩作家であり、書家であり、経営者であり、教師であり、技術者であり、起業家であり、一体いくつの顔をもっているのやら

下巻は恵果から密教の法を伝授され、帰国後、密教の指導者になるまで。多くのページでは最澄との関係が描かれる。 自分もよく知らない時代なので、年表を形式で空海の後半生をまとめておくことにするか。 805年: 最澄帰朝。最澄高雄山寺でわが国最初の灌頂…

司馬遼太郎「空海の風景 上」(中公文庫) 思想家としては、ほとんど唯一世界的なところに立つことのできる日本生まれの巨人。その前半生。

思想家としてみると、ほとんど唯一世界的なところに立つことのできる巨人。華麗な漢文を書かせると唐人を驚かせ、書を書かせると本邦最大の達人。治水工事の技術者、巨大プロジェクトのリーダー、組織の執行者、当代最高の呪術者。これだけのことを一身に背…

森安達也「近代国家とキリスト教」(平凡社ライブラリ) 宗教の世俗化が教会の影響を小さくした。20世紀後半から目立つ宗教の不寛容。

初出が1994年。例のオウム事件が起きる前の年。 宗教とはなにか ・・・ この問題を考える切り口に宗教と社会の関係や、宗教組織などを見る。なぜなら教義は宗教と社会の関係にほとんど関わらないから。多くの宗教戦争も宗教の教義をめぐる争いではなく、経済…

高橋保行「ギリシャ正教」(講談社学術文庫) 東のキリスト教の歴史と教え。ロシア文学読解の参考書。

ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は、アリョーシャとゾシマ長老の関係が主題のひとつ。とはいえ、ゾシマ長老の思想はよくわからない。というのは、この国にはロシア正教会の紹介がほとんどないから(とはいえ、明治維新後いち早く東京文京区に教会…

弓削達「世界の歴史05 ローマ帝国とキリスト教」(河出文庫) イエスの時代をユダヤの側だけから見るだけではなく、ローマの側からもみる

イエスの時代をユダヤの側だけから見るだけではなく、ローマの側からもみるためにこの本を読む。どうやら河出の「世界の歴史」シリーズは歴史学で認められる事実だけではなく、当時の人々が事実と考えていたことも歴史に書いてよいというスタンスらしい。福…

ケン・スミス「誰も教えてくれない聖書の読み方」(晶文社) 「適当に面白くて、適当につまらなくて、どこから読んでもよくて、いつまでたっても読み終わらない本」を注釈なしで読んでみよう。

こうやって聖書の解説書(のうち学術傾向の強いもの)を読んでいると、細部にこだわりすぎてしまう。要するに、聖書の本を読むと、次の3種類になるのだ。 一つは、これまで読んできたような専門研究者による学術書。ここでは聖書を読んでいることは前提のひ…

遠藤周作「沈黙」(新潮社) 西洋人が戦国時代の日本に来て、日本的なものに挫折していく。日本に幻滅・憎悪を感じる人もいる。

これも約30年ぶりの再読(2007年当時)。かつては、フェレーリに導かれて、踏絵を行うロドリゴに痛切なほどの感情移入があって、文字とおり体が震えるほどの感動を得たものだった。とりわけ、深夜の踏み絵のシーン。ロドリゴが「痛い」というとき、その痛みを…

遠藤周作「聖書のなかの女性たち」(講談社文庫) 敗戦後の経済成長前の時代だと聖書に出てくる「良妻賢母」や「縁の下の力持ち」になることを女性に推奨する。

聖書というが取り上げられるのは、新約聖書のおもにイエスとなんらかの関係のあった人たちに限られる。取り上げられたのは、 ・名無しの娼婦 (ルカ7-36) ・ヴェロニカ: 十字架を背負うイエスの汗を拭いた女性 ・病める女: 長血を患った女(マタイ9-20) …

「新約聖書外伝」(講談社文芸文庫) 2~6世紀に作られた正典に収録されなかった大衆文学と異端思想の文学表現

キリスト教の教義を書いた文書は紀元60年ころからできて、教団ごと・言語ごとに多数できた。そこにはキリストや弟子の名を使って、ユダヤ教やグノーシス主義などほかの宗教の思想が語られるものがあった。そのようなキリスト教と異なるが似た言葉を使う集団…

荒井献「トマスによる福音書」(講談社学術文庫) 原典に基づくグノーシス派の解説。

一般にはイエスの死と復活は歴史の果てで実現する最後の審判から「神の国」への入来までを準備するものとされるが、別の解釈ではイエスの死と復活によってそれまでの悪霊・罪・死の力が取り払われて、彼を信じることによって死後直ちにキリストのもとに赴く…

荒井献「イエス・キリスト 下」(講談社学術文庫)

2015/01/05 荒井献「イエス・キリスト 上」(講談社学術文庫)の続き 教団ではなくイエスに遡ろうとしても、それは難しい。すなわちイエス本人は記録を残していないし、同時代の施政官であるローマ側の資料にも、イエスの批判したユダヤ教文書にもイエスの活…

荒井献「イエス・キリスト 上」(講談社学術文庫)

小学校3年生のときに「ヨハネによる福音書」をもらって読んでから、イエスは気になる人だった。折に触れて福音書を読み直しているが、謎めいているのには変わりない。この人がとても重要であるのはわかるのだが、自分とのかかわりをどのようにまとめていけば…