odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

経済学

ハロルド・ウィンター「人でなしの経済理論」(バジリコ) 「正義の対立」はトレードオフで解決可能(でも功利主義は万能ではない)

原著は2005年で邦訳は2009年。複数のステークホルダーがいて、解決の調停や交渉が難しい時、それぞれの費用と便益を数値化して(下にあるようにデータにバイアスがあるとか、統計がとりにくいとか問題はあるが)、トレードオフを考慮することを推奨する。な…

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。右翼や右派宗教の大衆運動が世論形成に大きく働いた

1927年から1931年にかけての時代。テーマは大不況・軍縮・金解禁。不況に対して国債発行で乗り切ろうとしたが、赤字財政が増大することを恐れ公債発行を漸減しようとする。これが軍事費削減になる軍部が反発する。 昭和の開幕~はじめに~ ・・・ 大正天皇の…

中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-2 日本の金解禁とアメリカのニューディールを比較。満州事変からの戦争状態が日本をファシズムを伸長する。

2023/01/19 中村政則「昭和の恐慌 昭和の歴史2」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1920年からの日本の不況をいかにして克服するか。他国の不況対策と比較すると日本の対策の特長はどういうものか。その問いに答えるために、金解禁とアメリカのニューディール…

堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-1

アダム・スミスは1727-90の生涯で、「道徳感情論」と「国富論」だけを出版し、繰り返し改定した。通常は「国富論」の「神の見えざる手」にばかり注目するが、彼の自由市場は放任ではなく、市場の参加者が一般的諸規則を守り正義を実現する「同感(エンパシー…

堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-2

2021/12/16 堂目卓生「アダム・スミス」(中公新書)-1 2008年の続き エントリーの2番目は「国富論」について。ここでスミスの経済学を詳述しても、現代の経済学のおさらいにはならない。それは別の新書や文庫でフォローしてもらおう。気になるところを箇条…

エルンスト・F・シューマッハー「スモール イズ  ビューティフル」(講談社学術文庫) 経済学にしては内容が薄く、哲学にしては粗雑だが、不安を持っている人々の気分と行くべき方向を示してベストセラーになった警世の署。

10年前の初読では経済学にしては分析が甘いし、哲学にしては考えが粗雑で保守的だし、どこがベストセラーになったのか不思議に思ったものだ。今回の再読では、ある程度理由が分かった。 シューマッハは1911年ドイツのボン生まれ。経済学を学び、のちにケイン…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-1 20世紀初めの市場の失敗、後半の政府の失敗の経験を通じて、市場と国家の線引きや関係を考え直す。

スミスやマルクスの経済学には国家が(ほとんど)登場しないが、20世紀以降、国家は市場に介入するようになる。1930年代の世界不況で市場が失敗してから。市場では利益のでない事業を国家が行うようになり、国家は福祉サービスを提供した。これは自由主義経…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-2 アメリカと西ヨーロッパ以外の国。戦争による荒廃と不況から脱出するには、国家の指導と支援が必要だった

2020/11/17 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-1 1998年続き 上巻の後半は、アメリカと西ヨーロッパ以外の国々をみる。WW2以前から資本に乏しく、金融制度が不十分で、自国内の技術革新が見込めない国々は、戦争による荒廃と不況…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-1 計画経済から市場経済に移行するにあたって、政治体制の変化が起きた国を概観する。

2020/11/16 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-2 1998年の続き 下巻の前半の章は、計画経済から市場経済に移行するにあたって、政治体制の変化が起きた国を概観する。変革、改革、革命などさまざまな手法によって政治体制が変化し…

ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-2 福祉国家や社会民主主義、あるいは資本主義は、国家によって形態が様々。21世紀に経済はグローバル化し、国家は閉鎖的になる。

2020/11/13 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-1 1998年の続き 福祉国家や社会民主主義、あるいは資本主義は、国家によって形態が様々。本書だけをみても、どの産業を国家が所有するかはとても違いがある。イギリスでは炭鉱が、フ…

ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-1 「覆面経済学者」が市場で人々が行う行動を観察して、経済学の知識で解釈する。

原題は「Undercover Economist」で作中では「覆面経済学者」と訳される。市場(マーケットだけではなく金融市場も)を訪れて、人々が行う行動をみて、それを経済学者の知識で解釈する。もちろん個々人の行動や選択は千差万別でランダムであるが、ある程度の…

ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-2 先進国の豊かな社会で成功した人なので、論調も市場経済を擁護する保守的なもの。

2020/11/10 ティム・ハーフォード「まっとうな経済学」(ランダムハウス講談社)-1 2006年の続き 後半は雑多なテーマ。大きくみると、市場の失敗の克服というところか。 第6章 合理的な狂気 ・・・ 予測可能な情報を収集して合理的に思考すると、予測不可能…

田中素香「ユーロ」(岩波新書) 移行期間をへて2002年に運用開始された統一通貨ユーロの歴史。

長年の準備期間を経て導入されたユーロの歴史と現状をまとめる。それまでは西ドイツのマルクが基軸通貨になっていたが、ドイツはそのように使われるのを拒み、フランスなどはドイツがヨーロッパ経済に中心になることに抵抗していた。 1章 ユーロの歩みー一…

ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)-2

前回の読みから10年後の再読。その間に、経済学の本はいろいろ読んできたので、どのくらい自分の読みが深まったかを確認してみよう。 前回の読み。2013/05/23 ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫) 理論と歴史 ・・・ 通常歴史は…

ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)-3

2019/02/1 ジョン・リチャード・ヒックス「経済史の理論」(講談社学術文庫)-2 1969年 続いて古代・中世から近世に入ってからの変化(なお、古代・中世・近世の区分は評者である自分の区分であって、ヒックスの区分ではないことに注意)。 農業の商業化 ・…

片岡剛士「円のゆくえを問いなおす」(ちくま新書) デフレと円高を止めるためにインフレターゲットをやろうというアベノミクス礼賛本。

1990年代初頭の「バブル経済」崩壊から20年(初出当時)。この国の経済は円高とリフレでにっちもさっちもいかない。どちらも経済に悪影響を及ぼし、産業の空洞化につながる。なんとかしなければ、ということで「円」を考える。 第1章 円の暴騰と日本経済 ・…

岩井克人「二十一世紀の資本主義論」(ちくま学芸文庫) グローバル市場経済はハイパーインフレによる市場経済と資本主義の危機を内包している。

初出は2000年。ただ、最初の論文を除くと、すでに雑誌や新聞などに掲載されたエッセー。過去の著作に「貨幣論」があって、その内容が前提になっているから(あるいは抽象的な内容を具体例で説明しているから)、「貨幣論」を読んでおいた方がよい。最初の論…

岩井克人「資本主義を語る」(ちくま学芸文庫) 西洋人には「ニッポン人」がどうみえているか。

著者は、「不均衡動学」の経済学で賞を取り、そこで有名になった。いい加減な記憶で書くと、古典派や新古典派の経済学では市場と労働は均衡する自動調節が働き、現実がそうならないのは別の問題があるからと説明されていたが、数理モデルを使って均衡するこ…

岩井克人「貨幣論」(ちくま学芸文庫) マルクスの価値形態論をベースにして、貨幣とは何かを説明しようとする試み。

マルクスの価値形態論をベースにして、貨幣とは何かを説明しようとする試み。すると、説明は「貨幣は貨幣として使われるものである」という身もふたもなくなってしまうが、これがトートロジーでもなく、こけおどしでもないことがわかる。()内は自分の勝手…

スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー「ヤバい経済学」(東洋経済新報社)

以前からネット情報で気になっていた上に、タイトルが素敵なので購入。「ヤバい経済学」の原題は「FreaKonomics」。FreakとEconomicsの合体語という、これもステキなネーミング。 序 章 あらゆるものの裏側 ・・・ ここでは経済学の定義をちょっと変える。世…

中村隆英「昭和恐慌と経済政策」(講談社学術文庫) 長期戦争の軍事負担と金融政策の失敗が日本をファシズムに傾斜させた。

昭和恐慌の時代は別の本の感想でまとめてきた。 徳川直「太陽のない街」(新潮文庫) ・・・ 同時代の不況と労働争議の様子をみるのによい。 高橋亀吉/森垣淑「昭和金融恐慌史」(講談社学術文庫) ・・・ 高橋亀吉は井上準之助の向うを張って、金解禁反対論…

長幸男「昭和恐慌」(岩波現代文庫) WW1後の不況、関東大震災、世界恐慌、金解禁が「失われた20年」の大不況の原因。

昭和恐慌のうち、1930年に実施された金解禁に焦点をあてる。昭和恐慌の原因を探ると、それこそ日露戦争くらいまでさかのぼることになるのだが、そこまではみない。またここでは1923年の関東大震災および震災手形、あるいは蔵相の失言から発した1927年の取り…

佐和隆光「文化としての技術」(岩波同時代ライブラリ) 1945~1990までの日本経済を科学技術からみる。西洋に追いつき追い越せ政策が産んだ「倫理的空白」。

もとは1987年。1991年に文庫化されたので改訂した。読み返すと、このあとの著作の基本的な考えがほぼ出そろっている。一方、80年代は進行中のできごとであったので、彼の予測通りに進行しなかったことが多々ある。 1 近代化と技術革新 ・・・ 1945年以降のこ…

伊藤修「日本の経済」(中公新書)-2

2015/03/11 伊藤修「日本の経済」(中公新書)-1 後半は、経済の制度についての現在(2007年)のまとめ。1945年に終わった戦争で、この国の仕組みのかなりがゼロベースで構築しなおすことになった。そのとき、この国は小資源・生産財の不足・投資の不足・過剰…

伊藤修「日本の経済」(中公新書)-1

著者の師匠は中村隆英だそうで、中村隆英の著作では「昭和恐慌と経済政策」「昭和経済史」講談社学術文庫でお世話になりました。 この本は2007年時点でのこの国の経済を振り返るという意図をもつ。前半は経済史、後半は各論(同時にさまざまな経済学分野の紹…

真野俊樹「入門 医療経済学」(中公新書)  医療は経済行為でもあるし、経済外行為でもある。市場原理や国家統制では対応できない領域。

医療はサービスに対して対価を払うのであって経済行為とみなすことができるが、一方でサービスの内容や提供者による価格の差異がないなど経済外行為にもみなすことができる。なんでそんなことになるのかということと、医療費が増大していて国や自治体の財政…

神野直彦「地域再生の経済学」(中公新書)

「人間回復の経済学」(岩波新書)とおなじく2002年の初出。 ここでは地域自治体の自立を検討する。その前提になる社会、経済分析は、「人間回復の経済学」と同じなので繰り返さない。 さて地方の問題とその解決提案は以下のようになる。 1.地方自治体の公…

神野直彦「人間回復の経済学」(岩波新書)

2002年の出版。 失われた20年(当時は10年か)を取り戻すために「構造改革」というけれど、新自由主義の改革では競争が激しくなってみんな疲弊し少数の勝者以外は敗者になって格差が拡大するよ、ケインズ主義の社会民主主義は重化学工業の経済成長右肩上がり…

小野善康「景気と国際金融」(岩波新書)

前著「景気と経済政策」は総論と国内の経済にフォーカスしていたので、こちらでは国際経済を取り上げることになる。 第1章 国際金融 ・・・ 国際金融にはモノやサービスを販売・購入するフローと、株券や債券を投資・購入するストックがある。この二つは区…

小野善康「景気と経済政策」(岩波新書)

どうもこの人の考えは自分にはよくわからないところがある。そのことを告白したうえで、もう一回読んでみる。 第1章 景気に対する二つの考え方 ・・・ 経済事象をみるときには、<供給側>と<需要側>のふたつの立場がある。供給側だと、技術革新で需要を…