odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

ドイツ文学

ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-1 仕事につかないでいい人が暇や退屈の中から〈この私〉という自我を発見する

初読は男子校の高校生だったので、ウェルテルの苦悩などわからないも同じだったなあ。と往時を懐かしむ。 1774年ゲーテ25歳の時の出世作。1784年に改稿(新潮文庫は改稿後の版を翻訳したとのこと)。 第1部 ・・・ 1771年5月。この世に飽きているウェルテル…

ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-2 「嫉妬するわたしは四度苦しむ。(ロラン・バルト)」

2023/05/30 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」(新潮文庫)-1 仕事につかないでいい人が暇や退屈の中から〈この私〉という自我を発見する 1774年の続き 第2部 ・・・ ウェルテルくんは実家に帰って、公爵の仕事をするようになる。失恋の痛みは強く、「つまらな…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-2

2018/11/08 フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1 2008年の続き 1949年の物語も同時に語られる。1940年、ポーランド出身の青年(主人公)たちがナチス隆盛期のドイツを逃れて。パリの社交界に入り込む。サロンがまだ残っていて…

フレドゥン・キアンプール「幽霊ピアニスト事件」(創元推理文庫)-1

1999年、ある青年がドイツ・ハノーファーのカフェで目覚める。自分は1949年に死んだはずなのに。金は持っているので安心したが、50年で起きたインフレは途方もない。自分のできることであるピアノを弾くと、古めかしいテクニックと解釈(コルトーに似ている…

アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-1

説明にドイツ・ミステリーとあったので、即座に購入。自分が読んできたドイツ文学は1945年までだった(エンデの童話を除く)。19世紀ドイツのことは多少は知っているのに、現代ドイツをほとんど知らない。そこにフォーカスした読書になった。 笠井潔の矢吹駆…

アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-2

2017/12/12 アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-1 1998年 フランクフルトに自動車で一時間先にある田舎町。広告代理店に勤めていた男パウル・ブルーマーが妻と離婚し、田舎暮らしを始めた。業界暴露本を準備しているが、昼間は自転車…

作者不詳「ペピの体験」(富士見ロマン文庫) WW1前に匿名者が書いた官能小説。ハプスブルク王朝最盛期を懐かしむ追憶の書。

1908年にウィーンで作者不詳で私家出版された好色文学。タイトルを直訳すると、「ヨゼフィーネ・ムッチェンバッヒュル――あるウィーンの娼婦の身の上話」となる。ペピはヨゼフやヨゼフィーネを呼ぶときの愛称とのこと。 まえがきには、ペピは1852年2月20日生…

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-2

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-1の続き 続けて、作家論や作品論。19世紀末の評論は読むのが困難。なにしろ対象の作品を読んでいない。読むことができない。アルテンベルク、グリルパルツァー、ジャン・パウ…

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール「選集3 論文・エッセイ」(河出書房新社)-1

ホーフマンスタールはリヒャルト・シュトラウスの歌劇の台本を書いたことくらいでしか知らない。ドイツ-オーストリアの19世紀末には興味はあるが、おもに音楽に対してであって、文学評論にはむかっていない。そのうえ、最近、詩が読めなくなった。「理系」の…

エリヒ・レマルク「西部戦線異状なし」(新潮文庫)

19歳の少年ポウル・ボイメルはのちに第一次世界大戦と名付けられた戦争に動員される。10週間(短い!)の軍事訓練で、西部戦線に派遣され、フランスやベルギー軍と戦うことになった。同じクラスから数十人も招集されていて、すでに数名は戦死している。そこ…

トーマス・マン「詐欺師フェーリクス・クルルの告白」(新潮文庫) 19世紀に郷愁を感じる教養市民による「仮面の告白」

詐欺師フェーリクス・クルルの告白 ・・・ 2012年には光文社文庫で上下2巻の巨大な長編で翻訳されているが、1951年初版の新潮文庫では第1部と第2部(未定稿)だけが訳出されている。トーマス・マンは1875年6月6日生まれ、1955年8月12日没。ということなので、…

トーマス・マン「マリオと魔術師」(角川文庫) 1920年代北イタリアの避暑地はファシズムの胎動地

表題作ともう一作がはいった短編集。いずれも1920年代の不安と不況を反映した時代の物語。 マリオと魔術師1930 ・・・ 北イタリアの避暑地を訪れたドイツ人作家の一家。ある夜、魔術師が町の劇場で公演をするというので、一家総出で見に出かけた。この魔術師…

トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫)

高校生の時に「トニオ・クレーゲル」と併録された新潮文庫で読んだが、なんだかよくわからなかった。それ以来なので四半世紀ぶりということになる。一時期はマンの作品をよく読んだが、その緻密さに驚かされる一方で、なかなか作品世界の中に入っていけない…

フランツ・カフカ「城」(角川文庫)

いやあ、読了するのに時間がかかった。購入は1993年で、手をつけてから100ページに行かないうちに読むことができなくなり、その後数十ページごとに挫折を繰り返した。ようやく残り250ページをここ数日のうちに読むことができたのだ。同じような体験は「審判…

ベルトルト・ブレヒト「三文オペラ」(岩波文庫)

「ドイツの劇作家ブレヒト(1898-1956)が音楽家クルト・ワイルと組んで、オペラの革新、戯曲と音楽との新しい融合を試みた作品。ロンドンの警視総監と結んだ盗賊の首領マクヒィスが、多くの冒険ののち、絞首台に上がるかわりに爵位と褒章を授けられるという…

フランク・ヴェデキント「地霊・パンドラの箱」(岩波文庫)

1890年代に書かれた。「パンドラの箱」はわいせつ文書として摘発され、改稿を余儀なくされる。この戯曲そのものよりもアルバン・ベルクのオペラで有名になったと思う。ちなみに、ベルクはこの戯曲とハウプトマン「そしてピッパは踊る」のいずれを取り上げる…

ゲルハルト・ハウプトマン「沈鐘」(岩波文庫)

これまでの自然主義的な作風、社会の矛盾の摘出を目指していた劇がここで一変する。「織工」から2年後の1894年、作者36歳の作品。 登場するのは、鐘の鋳造家。よい音を作ることに執着した芸術家肌の職人ハインリッヒだ。かれが制作に絶望したとき、出会うの…

ゲルハルト・ハウプトマン「織工」(岩波文庫)

1844年に起きた機械破戒運動を参照して1892年にハウプトマンが作った戯曲。この国では1933年に築地小劇場で上演された(訳者久保栄はこの劇場の関係者)。 簡単に背景のおさらい。西欧の綿織物はインドの綿花をオランダ・ベルギーあたりが輸入し綿糸に加工。…

ゲルハルト・ハウプトマン「日の出前」(岩波文庫)

ごく簡単に紹介すると、1862年生まれの劇作家。デビュー当時は、自然主義的作風で社会批判を行うものであったが、次第にロマン主義や象徴主義が作品に反映されていく。とりあえず「日の出前」「織工」が前期の自然主義を代表するもので、「沈鐘」が象徴主義…

ゴートフリート・ケラー「村のロメオとユリア」(岩波文庫)

以前聞いたオペラ(フレデリック・ディーリアス作曲)の原作を持っていたことを思い出して読んだ。130ページほどの小品。あいにく絶賛品切れ中(2003年当時)。概要は次のとおり。 風光明媚な南ドイツの山村に、マンツとマルチという農夫がいた。二人は村の…

フーケー「水妖記」(岩波文庫)

中世ドイツの湖に面した岬に住む老夫婦。15年ほど前に洪水にあって、幼い娘を亡くした。その数日後、美しい女の子が彼らの前に現れる。夫婦は彼女を自分の娘として育てる。周りに人のいないためか、彼女はきわめて自由奔放、天真爛漫、無邪気でいたずら好…

E.T.A.ホフマン「黄金の壺」(岩波文庫)

1814年の作。 どじな大学生アンゼルムスは復活祭の日にもうっかり市場の果物売りにぶつかって、売り物を台無しにしてしまう。醜い婆さんが罵倒とともに、クリスタルの壷に閉じ込めると呪いをつぶやく。さて、パイルマン教授の計らいで記録管理官リントホルス…

E.T.A.ホフマン「ホフマン物語」(新潮文庫)

この文庫が出版されたのは昭和27年で、オッフェンバック「ホフマン物語」をまともに聞くことはできなかった。まだLPレコードもでていないし。まして、「顧問官クレスペル」に名前の出る古典派の作曲家は録音すらなかったのではないかな(タルティーニ「悪魔…

E.T.A.ホフマン「牡猫ムルの人生観」(岩波文庫)

上下巻を読むのに2年がかりになった。 ホフマンはクラシック音楽に深いかかわりがあって、没後数十年もしてから、チャイコフスキー「くるみ割り人形」やオッフェンバッハ「ホフマン物語」の原作になっている。シューマン「クライスレリアーナ」は、この小説…

ほらふき男爵の冒険」(岩波文庫)

ほらふき男爵、ミュンヒハウゼン男爵の愉快な冒険は、子供のころから読んでいて詳細は良く知っているに違いない。あるいはテリー・ギリアム監督の映画「バロン」を見ているに違いない。なので、サマリーを書くこともないだろう。老年を迎えての読み直しをして…

「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」(岩波文庫)

この中世民衆本の成立はなかなかおもしろい。もともとは1515年版がもっとも古かったのだが、編集がずさんで低地と高地のドイツ語がごっちゃになっていた。そこで、1515年版のまえに低地ドイツ語の版があったと仮定されていたが、それが1970年代にそれより古…

ドイツ民衆本の世界6「トリストラントとイザルデ」(国書刊行会)

「偶然の悪戯から媚薬を飲んでしまった若きトリストラントとイザルデは、道ならぬ恋に陥り、あらゆる制約を超越して、日夜愛の饗宴に酔いしれる。ケルト起源の伝承がフランスを経てドイツ語に移され、ワーグナーのオペラでも知られるこの物語は、中世キリス…

ドイツ民衆本の世界(国書刊行会) 

馴染みの古本屋にいったところ、この全集がおいてあったので、即座に購入。きちんとした記録を取らない時期の読書なので、内容紹介は簡単でごめんなさい。 民衆本を非常に簡単に説明すると、14世紀に活版印刷が発明されて、最初は聖書や教義文書が作られてい…

ミヒャエル・エンデ「オリーブの森で語りあう」(岩波書店)

1982年春、南イタリアにあるエンデの別荘に3人が集まる。小説家エンデ、政治家エプラー、演劇人テヒル。彼ら3人は2日に渡って語りあう。主題はファンタジー、文化、政治(隠れテーマで経済)。自分の感想を交えながらまとめてみよう。参加者はそれぞれ発言し…

ヘルマン・ヘッセ「世界文学をどう読むか」(新潮文庫)

古本屋で入手。高校生のときに読んだ。読み始めたばかりの文学世界を一覧できるような本を探していたから。世界文学ではこの本に、モームの「読書案内」(岩波新書)を読んだけど、参考にはならなかったな。上下2冊であるのがあたりまえの大作ばかりで歯が立…