odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

近代戦争

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 教科書の図式的な説明を止め、同時代の文書を読み直してなぜ国と国民は戦争を選んできたのかを明らかにする。

井上勝生「幕末・維新」(岩波新書)で1840-70年ころまでの日本をみてきた。このときに攘夷運動に基づく帝国主義国家が成立した、というのが自分の見立て。その後、この国はほぼ10年おきに対外戦争を繰り返した。兵員と軍事費の増加は国の経済を成長するおお…

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-2 日露戦争とWW1の「勝利」。世界史に登場した日本は挫折し、世界情勢と戦略の見直しを迫られる。

2023/01/27 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 2009年の続き 日本の「国防」思想は、恐らく孝明天皇の攘夷と焦土を辞さない戦争の意志から始まる。外国からの危機が迫っているという恐怖がもとにあるのだ。なので、政策は彼ら…

加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-3 昭和の戦争。列強は植民地支配を不効率なので止めようとするが、日本だけは安全保障戦略に固執して直接統治の植民地を持とうとする。

2023/01/27 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-1 2009年2023/01/26 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-2 2009年の続き 20世紀前半の朝鮮と満蒙をめぐる国際関係が奇々怪々なのは、同盟と敵の関係が…

大江志乃夫「天皇の軍隊 昭和の歴史3」(小学館文庫) 軍隊の中から昭和史を見る。日本の将校団は「世界中で最も専門職業的精神に欠けた主要な軍人集団」。

著者は陸軍士官学校第60期生。最後の士官候補生で敗戦時の肩書もそうだった。なので、知り合いのなかには8/14のクーデターに参加したものがいる。そのような経歴があるためか、本書の記述は軍隊の中から昭和史を見たものになっている。軍事史研究としては重…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間。国民は軍縮を否定し、海外の市場を失って困窮する。

1931年の柳条湖事件から1936年の226事件までの5年間を扱う。1920年代の不況が慢性化し、さまざまな政策が打ち出されるが、はかばかしくない。後付けでいえば、多額の軍事費と植民地経営が負担になっていた。しかし軍を縮小する政府の運動は、軍ととりわけ国…

江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-2 農村問題と不況に手をつけず「自己責任」のように放置している議会と政党に国民は愛想をつかし、軍の横暴に目をつぶり支持する。

2023/01/13 江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)-1 1988年の続き 加藤陽子「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」(朝日出版社)-3を意識して読む。軍は政治的に先走っていく。戦略的な動きをするが、軍の思惑とは別に世界の列強は日…

莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-1

中国との15年戦争はおもに日本人側の記録を読むことになるのであるが、そうすると被害者がどのような人であり、どのような生活を送り、どのような生涯であったのかがすっぽりと抜けてしまう。兵士や記者、あるいは一旗揚げようといった者たちは中国の生活…

莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-2

2023/01/10 莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-1 1987年の続き 第2部 高粱の酒 1939年8月10日の鬼子待ち伏せは凄惨な結果になる。祖父と父だけが生き残り、ほかのパルチザンは全員が死亡した。呆然とする祖父を励まし、村に帰る。 途中で思い出すのは、祖母…

藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-2 次の首相を決めるシステムが働かなくなり、天皇は自分の意志を政治に反映するようになる。

2022/12/23 藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)-1 1988年の続き 1939年になると、次の首相を決めるシステムが働かなくなる。昭和天皇は元老や宮内庁などが根回しして決めたことを後追いすればよかったが、この時期になると自分で判断すること…

木坂順一郎「太平洋戦争 昭和の歴史7」(小学館文庫) 1941~1945年。軍や民間人が占領地や植民地で残虐行為や強奪を繰り返す。

この時代(1941~1945年)はおもに戦史を読んでいて、陸海軍の各地の戦闘はそれなりに知っていた(日本の側から戦史分析をすると見方が偏る/見えないものがあるので、相手国からの戦史も参照するべき。マッカーサーのみならず毛沢東や朱徳の立場から見ること…

森村誠一「ミッドウェイ」(講談社文庫) IFを重ねて歴史を捏造しようとしても日本海軍は勝てない

1976年のジャック・スマイト監督の映画「ミッドウェイ」は、海戦・空戦のシーンになる後半になると、ドラマがなくなる。どうにかして戦争や戦闘の全体を伝えたいという意欲があるものの、カメラの眼は目前のシーンに注目してしまう。なにしろ、戦闘の帰趨を…

鴻上尚志「不死身の特攻兵」(講談社現代新書) 9回以上出撃して生還した特攻兵からみる軍隊のでたらめと兵士への暴力。

日本海軍の特攻兵のなかに、1944年10月から翌年3月までに9回以上出撃して生還した下士官がいた。生還したのは、体当たりのかわりに爆弾を投下(固定された爆弾を取り外せるように修理)したり、天候不充分で敵艦を見つけられなかったり、整備不良で帰投した…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 命令には忠実だが将校(指揮者)がいなくなると死を恐れ、仲間内の私情(メンツや恥)で結合し、親分子分的関係にあるので他の集団には冷淡。

今まで日本軍、とくに15年戦争時代の日本軍、には紋切り型の説明がなされてきた。曰く精神主義、曰く非合理、曰く戦略・戦術なしなど。20世紀の軍批判はその線にそって行われてきたが、それは正しいのか、という問い。21世紀には、日本軍が残した資料をつか…

一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-2 戦闘で被害を受けたはずの日本人が占領軍に従順だったのは時刻の政府と軍隊を信用しなかったため。

2022/12/12 一ノ瀬俊也「日本軍と日本兵」(講談社現代新書)-1 2014年の続き 太平洋戦線での日本軍は、奇襲と集団突撃か陣地とたこつぼによる防御かの同じ戦法を繰り返した。米軍との戦いで創意したのではなく、中国戦線での成功体験を繰り返していたとみた…

佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書) 終戦の“世界標準”からすれば8/14か9/2が妥当。世界の視線・国外からの視線・被害者からの視線で戦争を考えることが少なくなるように8/15にした。

8月15日正午はとても暑く、校庭や工場などに集まってラジオから流れる「玉音放送」を聞き、その後嗚咽する者がいたりしたが、多くのものは虚脱した(ちかくに朝鮮人部落があるものはそこから流れる祭りの音に驚いたりもする)。以来、8月15日は慰霊の日とし…

吉見義明「従軍慰安婦」(岩波新書)

1945-70年にかけてのこの国の文学や映画には従軍慰安婦が登場することがあった。野間宏「真空地帯」、大岡昇平「俘虜記」、野村芳太郎「拝啓天皇陛下様」、岡本喜八「独立愚連隊、西へ」「肉弾」「血と砂」などが思いつく。慰安婦の実態を知らないでいたので…

小林英夫「日本軍政下のアジア」(岩波新書)

1931-1945年の「アジア太平洋戦争」のおもに非戦闘地や期間における軍政の被害状況をまとめる。戦闘期における日本軍の残虐行為はよく知られているが、非戦闘期になると情報が少ない。軍人、民間人が現地人を暴力的差別的に扱ったというのが断片的に書かれる…

高木健一「今なぜ戦後補償か」(講談社現代新書) 強制移住や収容などに補償する西洋と強制労働や性奴隷などに補償しない日本。

20世紀の15年戦争は、周辺諸国および交戦国に多大な被害を及ぼしたわけだが、この国にいると1952年のサンフランシスコ条約で全部清算されたと考える。しかし、1990年以降に韓国、中国、台湾の戦争被害者が日本や現地の日本法人を相手に補償を請求する裁判が…

井上清「天皇の戦争責任」(岩波現代文庫) 開戦から終戦までの政府首脳の動きを詳述。リーダーシップをあいまいにするこの国の〈システム〉が責任をあいまいにする。

これは半藤一利「日本の一番長い日」とあわせて読むのがよいな。「日本の…」では、8月14日から15日までのクーデター未遂が主に下級士官視点で書かれているが、こちらは開戦から終戦までの政府首脳の動きが書かれている。その資料は、「木戸日記」「杉山メモ…

日本戦没学生記念会「きけわだつみのこえ 第1集」(光文社) エリート出身の戦没学生の手記。非エリートの勤労者や農民兵士は見えなくされた。

1949年昭和24年に東大協同組合出版部が刊行したもの。そのまえに東大生のみの戦没学生の手記「はるかなる山河に」を出版していて、それを母体にして、ほかの全国の大学高等専門学校出身者の遺稿を集めた。集まったもののうち、75名分をこの題名で出版した。 …

荒俣宏「決戦下のユートピア」(文春文庫) 政府や軍部は戦時に食糧に衣料に消耗品を取り上げ、ヒステリックで非合理的な思考とアジテーションを与える。

目の付け所が違うなあ。「あの戦争」を語るとなると、切り口はいろいろあれど、被害者か兵士であった日本人というところに落ち着く。空襲や機銃射撃、空腹、いじめ、買い出し、インフレ、物資不足、教練の記憶か、新兵訓練に外地派遣、死地、飢餓、収容所体…

浅野裕一「孫子」(講談社学術文庫) 戦争の暗黙のルールを共有していない「敵」との戦略や戦術立案に有効かどうかは疑問

テキストクリティークの話から。もともとは紀元前500年ころに成立したといわれるが、自著ないし当時の本はもちろん残っていない。孫子の稿本は遡っても宋の時代(960-1279)まで。その写本は限りない人の手を経ていて、本文と注釈の区別がつかなくなっている…

木下順二「木下順二戯曲選 III」(岩波文庫)「オットーと呼ばれる日本人」「神と人とのあいだ」 インテリはどのように状況にコミットするのかという問題

オットーと呼ばれる日本人 ・・・ 1930年代の上海。ドイツのナチスに席を置くジョンソンと呼ばれるドイツ人を首魁を中心にしたアメリカ人、中国人、日本人たちの国際共産主義スパイ活動。その一員である「男(とだけ呼ばれるので「オットー」)」が主人公。…

沼田多稼蔵「日露陸戦新史」(岩波新書) 無味乾燥で欠陥だらけの巨大プロジェクトの報告書

そう簡単には入手できない一冊。自分の手元にあるのは昭和15年初版のもの。新規開店した古本屋にいったらこれが300円で売られていた。1990年ころの話。数年を経ずしてつぶれてしまった。 内容を例によってまとめてみるが、今回は超訳をところどころで採用。 …

野村實「日本海海戦の真実」(講談社現代新書) 帝国海軍の栄光の完成と没落の始まり

1905年5月25日の日本海海戦のことは、ノビコフ・プリボイ「ツシマ」によってロシア側のことを知ることができるとはいえ、この国の多くの人は司馬遼太郎「坂の上の雲」で知ることになるだろう。ここには、1968年ころの連載中、まだ存命中だった日本海海戦経験…

ノビコフ・プリボイ「バルチック艦隊の潰滅」(原書房)現在は「ツシマ」で出版 長期間の航海の裏では、純朴な青年が社会正義に目覚めるまでの教育物語が進行している

1933年に発表され、同年にスターリン賞を受賞した小説。この国には1930年代に翻訳され、現在でも原題「ツシマ」のタイトルで上下2巻で販売されているらしい。自分が読んだのは、「バルチック艦隊の潰滅」というタイトルの一冊本。なにしろ9ポか10ポの細か…

家永三郎「太平洋戦争」(岩波現代文庫) この戦争は1932年の柳条湖事件から1945年の敗戦まで15年間継続した戦争である。

文字から炎が湧き上がるかのような熱い文章。1913年生まれ。学生時代の1932年にマルクス主義と出会い、圧倒的な体験になった。その後、高校の教師になるが戦前・戦中は時局批判の活動ができない。戦後、その体験から現代史を講義するとともに、政治批判を活…

森本忠夫「マクロ経営学から見た太平洋戦争」(PHP新書) 組織的に腐敗していた日本軍は国家を破綻させ、国民を大規模に殺した。

「あの」戦争について書かれた本は多岐にのぼる。小学生のころに手にした太平洋戦記を皮切りに多くの本を読んできた。最近の問題意識は、「あの」戦争の個々の局面における決断や戦局推移にではなく、どうすれば「あの」戦争を回避することができたのか、ど…

大江志乃夫「徴兵制」(岩波新書) 軍隊や徴兵制は社会の不公正を助長し、生産性を下げ、社会的な不適応者を生む。

書かれたのは1981年。レーガンがアメリカ大統領になり、新たな冷戦の開始を意図した。共産圏の周辺国家に核兵器を配備しようとして、反核運動をおこす原因になった。日本には核兵器を配備することはできなかったが、大幅な防衛費の負担増加を求めた。そのた…

平岡正明「日本人は中国で何をしたか」(潮文庫) 略奪・強姦・虐殺などが当たり前になっていた中国本土での戦闘と占領政策を掘り起こす

だいたい3つの区分で旧日本軍の行った残虐行為を紹介し、その背景を分析する。その際に、国民党軍や八路軍の戦略、政略も検討対象にする。そのことは、残虐行為の背景を理解する助けになる。 いつものように著者の主張をまとめよう。 ・1931年の柳条湖事件…