odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

2014-03-01から1ヶ月間の記事一覧

アーシュラ・ル・グィン「天のろくろ」(サンリオSF文庫) 世界を創造管理している超越的な存在に直接つながる男が見た夢。世界をよりよくしたいという個人の野望は全体主義的になってしまう。

タイトルの「天のろくろ」は、まあ運命みたいな、あるいは世界を創造管理している超越的な存在のいいかな。解説によると、作者はこのことば(「The Lathe of Heaven」)を荘子に見つけた(第二十三)というが、あいにく英訳した訳者の誤訳であるとこのこと。…

都筑道夫「妖精悪女解剖図」(角川文庫) 1960年代にかかれたフィルム・ノワール風の悪女もの。

角川文庫の初出は1980年だが、その前の単行本は1974年。内容をみると書かれたのは1960年代後半。 霧をつむぐ指 ・・・ 翻訳の下請けや英語の試験問題作成で食べている佐久間啓子。自称画家の若い沼江(ヌエ)という男と知り合う。ヌエはそのまま啓子のアパー…

都筑道夫「はだか川心中」(剄文社文庫) 1976年に作者自身によって編まれた「自選傑作集」。奇妙で不可思議な状況も描き方でミステリにも怪談にも転げられる。

1976年に作者自身によって編まれた「自選傑作集」。1986年にケイブンシャ文庫になった。 退職刑事「写真うつりのよい女」「四十分間の女」 ・・・ 別に書いたので省略。十七人目の死神「はだか川心中」 ・・・ 山間のひなびた温泉宿で一年前に心中が…

都筑道夫「猫の目が変るように」(集英社文庫) 匿名で雑誌に連載したエロティック・コメディ。作者の文体は、股間を直撃するには上品すぎた。

もともとは匿名で雑誌に連載したエロティック・コメディ。1977年に単行本にしたときに、本名(?)を明かした。この文庫では、匿名の時に使ったペンネームで解説を書いて、本名に文句を言っているという凝った仕掛けになっている。 海からきた女 ・・・ 上野…

都筑道夫「狼は月に吠えるか」(文春文庫)

1979年単行本、1987年文庫化。個々の短編の発表年と初出誌は記載なし。 狼は月に吠えるか ・・・ 身の周りの女性が次々と殺されていく。その夜はぐっすり寝ているはずなのに。自分は狼男ではないかという疑いが消えない。イタリアに旅行にいったときロマの女…

都筑道夫「殺されたい人 この指とまれ」(集英社文庫) 1980年前後に書かれた怪奇、ミステリ、ハードボイルドなどの短編集。恐いのは超常現象ではなく、そこにかかわる男女の機敏、というか情念。

1980年前後に書かれた短編を集めたもの。怪奇、ミステリ、ハードボイルドなど多彩な内容。 見知らぬ妻1982.05 ・・・ テレビで知らない女が「おれ」を探していた。サラ金(このころにはあったのだね)の追い立てで失踪したので戻ってきてくれ、子供が死にそ…

都筑道夫「蓋のとれたビックリ箱」(集英社文庫) 1982-83年にかかれた短編集。「銀座の児雷也」はエラリー・クイーンのパロディ。

元本は1983年で、82-83年にかかれたもの。例外がふたつあるらしい(と解説に書いてあった)。 銀座の児雷也 ・・・ 昭和11年。コロムビアの日本支社はハリウッドの脚本家を招いて、ロケハンをすることになった。案内の哲夫は銀座の縁日で射殺事件に遭遇する…

都筑道夫「証拠写真が三十四枚」(光文社文庫) 1987年に文庫化されたショートショート集。中年男が生き方を変えようとして下世話でありふれて切実な問題に振り回される。

1987年に文庫化されたショートショート集。 収録されたのは以下の通り。気になったのにはいくつか注釈をつけた。★をつけたのは、2分間ミステリのような謎解き。 金平糖の赤い壺/月のある坂道/妄想図/間もなく四時/つめたい先輩/つかい道 ・・・ 結婚詐欺の話…

都筑道夫「秘密箱からくり箱」(光文社文庫) 1980年代半ばの短編と中編。児童向けの「朱いろの闇」は昭和20年5月25日最後の東京大空襲を舞台にする。

1980年代半ばの短編と中編を収録。1987年に単行本になり、1990年にこの文庫になった。タイトルにもなった秘密箱は、簡単には開かない仕掛けをもった仕掛け箱のこと。貴重品の盗難防止目的で18世紀ころから作られたという。からくり箱は、この国の寄木の技法…

都筑道夫「血のスープ」(光文社文庫)

1980年代にはセンセーの文庫がたくさんあったのだが、消費税導入後、急速に姿を消してしまった。21世紀になって、光文社文庫がテーマ別に編集して、10冊の選集を編んだ。その中の怪談編を読む。収録されている「血のスープ」は文庫化されたことがなかった。…

都筑道夫「グロテスクな夜景」(光文社文庫) 昭和の終わりから平成の初めにかけた短編小説とショートショート。作家はワープロを使いだした最初のひとり。

昭和の終わりから平成の初めにかけた短編小説とショートショートを集めたもの。1990年に文庫初出。 五十二枚の幻燈たね板 ・・・ 1988.6.1から1989.6.28まで、「大阪産経新聞」に週一で連載されたショートショート。なのでちょうど52編。ミステリ風、SF風も…

都筑道夫「デスマスク展示会」(光文社文庫) 昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を1991年に集めたもの。探偵小説に近いものを集めているので、「ふしぎ」感覚はそれほど強くない。

昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を集めたもの。1991年に文庫初出。 手のひらの夜1988.秋 ・・・ 見知らぬ女が突然あらわれ、裸体をさらす。そこに恋人が来て、兄からは妻は失踪したと創団がある。恋人によると見知らぬ女は兄嫁だというが、心…

都筑道夫「袋小路」(徳間文庫) 昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を1993年に集めたもの。明快な説明のないのが怖い。

昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を集めたもの。1993年に文庫初出。 袋小路1989.06 ・・・ 「怪談を書いているが霊魂を信じていないだろう」という電話の主が、最近書いた袋小路の話と同じ場所に案内する。そこで怪奇現象を見、部屋に帰ると「…

都筑道夫「骸骨」(徳間文庫) 昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を1994年に集めたもの。いかに読者の予想を裏切るかに、作者は神経を注ぎ、成功するほどに読後に不安を残していく。

昭和の終わりから平成の頭にかけて書かれた短編を集めたもの。1994年に文庫初出。 手首1987.08 ・・・ 自分の一部が切断される夢を夜ごと見る。今度はたぶん首が転がっているのを見るだろう。ただ、手掛かりがあって、夢に出てくるドアとそっくりのスナック…

都筑道夫「目撃者は月」(光文社文庫) 1998年の短編集。主人公は60代くらい、自閉的なモノローグで、いったいどこが夢でどこが現実世界やら、はっきりしたことがまったくわからなくなっていく。

1998年の短編集。文庫オリジナル。作家は、ここに収録されたような小説を「ふしぎ小説」と名付ける。江戸川乱歩の「奇妙な味」とも違う「ふしぎ小説」とはどんなものなのか。 偽家族1994.01 ・・・ 「私」は死んだ友人の息子をマンションに引き取り、面倒を…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-3 19世紀のネーションとステートの誕生。経済のグローバル化はヨーロッパ域外の国民国家を生み、ヨーロッパとの確執になる。

続いて、フランス革命以後の国民国家(ネーション―ステート)の概説。 ・ネーション(国民)は6個の要因が作用して生まれた結果であるとする。 1)住民および外国人の眼に国を体現していると見え、聖化されて忠誠な執着の対象になり、共同体のアイデンティ…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-2 ローマ帝国のあとヨーロッパには強力な帝国や中央集権国家が生まれなかった。ラテン語が文化的統合の共通ツール。

副題は「分裂と統合の1500年」。「ヨーロッパ」という場所は、ローマ帝国以降に生まれたという考え。 ヨーロッパというくくりで1500年の歴史を見るのが斬新なみかた。ヨーロッパをイギリスからポーランドまで、北欧三国からイタリア、スペインまでとみて、そ…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-1 ヨーロッパはどこまでの範囲か。自由に交通できた時期と、民族あるいは国家によって分断された時期を交互に繰り返す。

西洋由来の科学を大学で勉強したり、西洋クラシック音楽を聴いたり、多くの小説を読んでいたりすると、必然的に(自分にとってはという限定付きで)「ヨーロッパ」という場所に興味を持つことになる。とはいうものの、多くの場合はそこに住む人々の集合の差…

杉山博「日本の歴史11 戦国大名」(中公文庫) 戦国大名も中国と貨幣経済の変化に無縁ではない。荘園と地頭の解体が人の垂直的移動を可能にする。

ここでは1470年から1570年にかけての歴史がおもに大名の視点で語られる。このあとの天下統一は次の巻の主題なので、織田・豊臣・徳川の話はほとんど出てこない。かわりに、伊達政宗、武田信玄、上杉謙信、北条早雲、毛利元就などの地方大名が語られる。戦後…

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-2 中世の百姓は農業、運輸・材木業、工業、警備業など多角経営をしていた人たち。国家の制限を受けない女や僧侶などは自由に移動できた。

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-1 後半は「続・日本の歴史をよみなおす」というタイトルで出版されたもの。ちくま学芸文庫版は二つの本の合本。「日本中世の民衆像」(岩波新書)から10年を経ての講義なので、前著の内容を覆す発言も…

網野善彦「日本の歴史をよみなおす」(ちくま学芸文庫)-1 この国は14-15世紀に社会の仕組みから経済のやり方から、人々の思想に至るまでの大転換が起きた。

この国の通史を勉強するのに便利なのは、中央公論社の「日本の歴史」シリーズ。昭和30-40年代にこの国の歴史家を動員して書いたこの浩瀚な大著は読み通すのも大変。とはいえ、その後、この国の歴史の研究の仕方が変わったらしい。単純には過去の歴史書を読ん…

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タイトルの通り。2010年11月に開始してから3年3か月かかった。 この間、よく読まれたページの統計を見ると以下の通り。 1.odd_hatchの読書ノート 2.ScanSnap S1500で消耗品を交換しないで10万枚スキャンしてみた 3.江戸川乱歩「幽霊塔」(創元推理文庫) 4…

ウラジミール・ジャンケレヴィッチ「夜の音楽」(シンフォニア) 夜は夢想、幻視、運命。こういう名づけようのない、生成の場所。それを伝えるのは音楽。

1957年に出版された。3つの論文を収録。共通するテーマはタイトル通りの「夜の音楽」。ここに登場する作曲家をリストアップすると、フォーレ、ショパン、サティの3人を中心に、ドビュッシー、ラヴェル、シャブリエらのフランス人、バラキエフ、リャードフな…