odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

短編集・アンソロジー

赤川次郎・有栖川有栖他「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」(角川文庫) 日本的なあまりに日本的なキャラとパスティーシュ

ときには、古めかしい謎解きものを読みたいと思って(形式がはっきりしているから読んでいて筋に混乱することがないのだ)、アンソロジーを手にする。2002年初出、2014年文庫化。 金田一耕助のパスティーシュ。都築道夫によると、「名探偵のパスティーシュの…

ミステリー文学資料館編「シャーロック・ホームズに愛をこめて」(光文社文庫) たしかにホームズはミソジニストだが21世紀に踏襲することはないでしょう。

日本のホームズパロディは1980年までは低調だったが、その後急速に増えた。一度1980年代に河出文庫でアンソロジーをつくったときは2巻でほぼ全作を網羅できたが、その後多数でてきたので2010年に再度編み直した。本書の続巻「2」も出ている。とのこと(編者…

新潮文庫編集部編「タイム・トラベラー」(新潮文庫) 古典と大家の作品を除外して1980年代に編集した時間SFのアンソロジー。どれも良質な作品ばかり。

20代のなかばのころ、「時間」のことが気になっていくつか本を読んだ。哲学とか宇宙論とか進化論とかその他いろいろ。この本を選んだのは、その興味の一環だったような記憶がある。空間の広がりは、テクノロジーによって圧縮したり拡大したりして、人間が制…

風見潤・安田均編「世界パロディSF傑作選」(講談社文庫) アメリカのSF小説・映画・コミック・TV番組・ファンジンをよく知ってから読みましょう。

1970-80年代の講談社文庫は後発のためか、海外エンタメ部門では既刊の小説を別訳で出していた。差異化を図るためか、いくつものアンソロジーを編んでいた。すでに品切れになって久しいが、ときどき古本屋で見つかる。そうして手に入れた一冊。編者が読みの優…

レイモンド・T・ボンド 編「暗号ミステリ傑作選」(創元推理文庫) 世界には解けないメッセージが満ち溢れ、暗号を解くことが重要。いや19世紀末にイギリスでは暗号解読が大流行していた。

1947年に編まれた暗号を主題にするミステリのアンソロジー。下にも書いたように、テクノロジーの発達は暗号を機智で解くことを不可能にしてしまった。本書は、ポーやドイルのような暗号小説の幸福な時代だったころを思い出すよすがになる。 序 レイモンド・…

風見潤編「SFミステリ傑作選」(講談社文庫) SFであろうとするとミステリーから離れ、ミステリーをやろうとするとSFにならないという苦労。

1970-80年代の講談社文庫は後発のためか、海外エンタメ部門では既刊の小説を別訳で出していた。差異化を図るためか、いくつものアンソロジーを編んでいた。すでに品切れになって久しいが、ときどき古本屋で見つかる。そうして手に入れた一冊。編者が読みに優…

各務三郎編「世界ショートショート傑作選 1・2」(講談社文庫) 1950~60年代に書かれた雑誌の見開き2ページに収まる1000字程度の物語の傑作選。

石川喬司「夢探偵」講談社文庫という文庫があって、ミステリとSFの傑作が紹介されていた。それに載っている小説はもちろん入手可能なものがたくさんあるのだが(「ソラリスの陽のもとに」とか「Yの悲劇」とか、そういう有名作)、ショートショートに関しては…

東雅夫編「ゴシック名訳集成」(学研M文庫) 明治から大正にかけてのゴシック小説翻訳集成。自然主義リアリズムになじめない人たちによるマイナー文学運動の成果。

明治から大正にかけてゴシック小説を翻訳する試みがあり、それを集大成する一冊。 エドガー・アラン・ポオ著 日夏耿之介訳 「大鴉」 エドガー・アラン・ポオ著 日夏耿之介訳 「アッシャア屋形崩るるの記」 ホレス・ウォルポール著 平井呈一訳 「おとらんと城…

中島河太郎編「君らの魂を悪魔に売りつけよ」(角川文庫) 雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジー。好況期に若い人たちが才能をふるった。

「永遠の女囚」新青年 1938.11.木々高太郎 ・・・ 田舎の素封家・雲井家。久衛門には別腹の姉妹がいる。姉が婿を取ってあとを継ぐところを、妹の婿に継がせることにした。この妹、たいしたモガで、結婚式を逃げ出すわ、駆け落ちして一週間でかえるわとやり立…

中島河太郎編「君らの狂気で死を孕ませろ」(角川文庫) 雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジー。探偵小説を好むモダニストは都会と夫婦関係に関心を持つ。

1977年に角川文庫で雑誌「新青年」で発表された短編を集めたアンソロジーが5巻発行された。赤い背表紙で5冊並んでいる姿にあこがれたなあ。すぐさま絶版になり、1990年以降は古本屋で高値をつけていた。そのうちの3冊が2000年に復刻された。しかしすでにこ…

阿刀田高 他「密室殺人事件」(角川文庫) 1980年代の国産密室トリック短編集。

収録されているのは 阿刀田高「天国に一番近いプール」 折原一「不透明な密室」◆ 栗本薫「袋小路の死神」◆ 黒崎緑「洋書騒動」 清水義範「モルグ街の殺人」◆ 法月綸太郎「緑の扉は危険」◆ 羽場博行「虚像の殺意」 連城三城彦「ある東京の扉」 ちょっと古い本…

ドナルド・J・ソボル「2分間ミステリー」(ハヤカワ文庫) 400-500語のなかに2、3語のトリックが仕掛けられている。その語句を探せ。

60−70年代に小学館の出していた「小学○年生」という雑誌では高学年向けになると、ミステリーの問題集を付録にすることがあった。たとえば断片的な目撃証言から容疑者を特定せよというものであったり、理髪店の鏡に映った時計からアリバイをくずせというもの…

アーネスト・ブラマ「マックス・カラドスの事件簿」(創元推理文庫) ホームズのライバルだった盲目探偵の事件簿。あまりにいい人すぎて感情移入できない。

福永武彦の「深夜の散歩」だったか「加田伶太郎全集」の序文だったかで盲目探偵の話があったので、マックス・カラドスを知ってはいたのだが、実作を読む機会はなかった。それ以来だから実に25年ぶりの邂逅ということになる。 1 ディオニュシオスの銀貨 (T…

中島河太郎編「日本ミステリベスト集成1戦前編」(徳間文庫) 乱歩を除いた戦前探偵小説の優秀短編をいいとこどりした入門書(もう入手困難だが)

横溝正史「面影双紙」1933 ・・・ 大阪弁と標準語のちゃんぽんで語られた商家の奇談。商い一筋の夫と若い妻。妻は歌舞伎役者と不倫していて、それが発覚したとき夫は失踪する。語りのあとのあざやかな落しで、恐怖が倍増。久生十蘭「海豹島」1939 ・・・ オ…

押川曠 編纂・翻訳「シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1」(ハヤカワ文庫) 1890~1920ころまでの泡沫名探偵の冒険。

最初にタイトル、次は作者、あとに探偵の名前、最後は発表年。 1 スタッドリー荘園の恐怖 (L・T・ミード)(ハリファックス博士)1893 ・・・ ハリファックス博士の元に若い夫人が訪れる。毎晩幽霊をみて神経衰弱気味の夫を助けてくれというのだ。博士が…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 5」(創元推理文庫) 1960年にみた短編探偵小説の最新作。探偵小説はさらに多様化している。

ベイリー「黄色いなめくじ」1935 ・・・ 小学生低学年の男の子が幼児の妹といっしょに沼に入って死のうとする(日本人だと心中だが、欧米だと心中という概念がないので、殺人と自殺とみなされる)。この子供たちに興味を持ったフォーチュン探偵は、二人の幼…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 4」(創元推理文庫) 30年代の短編探偵小説。謎解きだけからハードボイルドやサスペンスなどに探偵小説が多様化。

ヘミングウェイ「殺人者」1927 ・・・ 放浪者ニック・アダムスの冒険(作者は彼を主人公にした短編を複数書いている)。都会の安い飯屋で働いている。二人の不思議な男がくる。彼は大男のスウェーデン人を探している。ニックたちは監禁されそうになるが男たち…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 3」(創元推理文庫) 20年代の短編探偵小説。デビュー時の乱歩が意識したのはこれらの最新作。

アントニー・ウイン「キプロスの蜂」The Cyprian Bees 1925年 ・・・ 車中で女性が頓死した。猛毒のハチに刺されたあとが見つかる。ヘンリー博士が謎を追う。小説の作法はすぐれていない。最初に「アナフィラキー」が概説されて、そこから逸脱する解釈にはな…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 2」(創元推理文庫) 20世紀ゼロ年代の短編探偵小説。近代化された生活と警察の科学捜査があることが探偵小説の前提。

ルブラン「赤い絹の肩かけ」1907 ・・・ おかしな挙動を示す二人つれ。尾行したガニマール警部はリュパンに不思議な事件の解決を持ちかけられる。果たして、彼のいうとおりに犯人を上げることができたが、決定的な証拠がない。そこで、ガニマール警部はリュ…

江戸川乱歩「世界短編傑作集 1」(創元推理文庫) 19世紀の短編探偵小説アンソロジー。古典こそ探偵小説の醍醐味。

「短編は推理小説の粋である。その中から珠玉の傑作を年代順に集成したアンソロジー。1には、巻頭に編者江戸川乱歩の「序」を配し、まず1860年のコリンズ「人を呪わば」に始まり、チエホフ「安全マッチ」、モリスン「レントン館盗難事件」、グリーン「医師と…

オットー・ペンズラー編「魔術ミステリ傑作選」(創元推理文庫) エリン「決断の時」は大傑作。「アモンティリアードの樽」と読み比べよう。

絶賛、絶版中なのか。所有しているのは初版でしおりひも付き(一時期の創元推理文庫は、初版のみしおり紐を付けていた)。収録作は以下のとおり。 1 この世の外から (クレイトン・ロースン) 2 スドゥーの邸で (ラドヤード・キプリング) ・・「ジャング…

H.S.サンテッスン「密室殺人傑作選」(ハヤカワポケットミステリ) 人の出入りが不可能な状況で起きた犯罪に魅了される人々のための好アンソロジー。

収録作品を備忘のために記しておく。◆は印象深かったもの。どちらかというとパロディ風のほうを好んだらしい。 ある密室(ジョン・ディクスン・カー) クリスマスと人形(エラリイ・クイーン) 世に不可能事なし(クレイトン・ロースン) うぶな心が張り裂け…

ジャック・フットレル「思考機械の事件簿III」(創元推理文庫) マッドサイエンティストみたいな史上最も風采の上がらない探偵。

「思考機械」という詩的なことば(シュールリアリズムかダダの詩人が使いそうじゃないか!)に引かれて、「ブラウン神父」譚のような人工的な短編であるだろうと10代のときに考えていた。そのために、ずっと手を付けていなかった。最近100円で入手。 驚い…