odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

柳広司「贋作『坊っちゃん』殺人事件 」(集英社文庫) 政治的に中立な人が探偵すると権力のスパイになる

前回の初読で大感激した。それから14年。もういちど同じ気分を味わおうと、再読した。サマリーは前回の感想を参照。 odd-hatch.hatenablog.jp 幻滅、失望。 理由はふたつある。 ひとつは漱石の小説を全部読み直したこと。その結果、夏目漱石も坊ちゃんもこの…

柳広司「百万のマルコ」(集英社文庫) 「2分間ミステリー」と枠物語が反転する快感。

イタロ・カルヴィーノ「マルコ・ポーロの見えない都市」(河出書房新社)の語り手がヴェネチアの牢に入っていると思いなせえ。そこには身代金を払えずに期限のない収容に退屈しているものらがいる。ある時、最も汚いぼろを着たマルコが不思議な話をする。それ…

赤川次郎・有栖川有栖他「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」(角川文庫) 日本的なあまりに日本的なキャラとパスティーシュ

ときには、古めかしい謎解きものを読みたいと思って(形式がはっきりしているから読んでいて筋に混乱することがないのだ)、アンソロジーを手にする。2002年初出、2014年文庫化。 金田一耕助のパスティーシュ。都築道夫によると、「名探偵のパスティーシュの…

テッド・リカー「シャーロック・ホームズ 東洋の冒険」(光文社文庫) 失踪中のホームズはイギリスのスパイエージェントだった!?

「最後の事件@回想」1891年から「空家の冒険@帰還」1894年の間、ホームズは失踪していた。のちにインド、ネパール、チベットなどを放浪していたことがわかる。その間に手掛けた事件をジョン・ワトソンは残さなかった。しかし、「テッド・リカー」が1960年代…

ミステリー文学資料館編「シャーロック・ホームズに愛をこめて」(光文社文庫) たしかにホームズはミソジニストだが21世紀に踏襲することはないでしょう。

日本のホームズパロディは1980年までは低調だったが、その後急速に増えた。一度1980年代に河出文庫でアンソロジーをつくったときは2巻でほぼ全作を網羅できたが、その後多数でてきたので2010年に再度編み直した。本書の続巻「2」も出ている。とのこと(編者…

山口雅也「キッド・ピストルズの醜態」(光文社文庫) 古い形式や趣向を21世紀に生き延びさせようとするレトロな志向の短編集

キッド・ピストルズの説明は下記を参照。本書は2010年に出た第6作なので、とても息の長いシリーズだ。例によってマザー・グースの歌詞の通りに事件が起きる。2019/11/1 山口雅也「キッド・ピストルズの冒涜」(創元推理文庫) 1991年 だらしない男の密室 ・…

山口雅也「落語魅捨理全集 坊主の愉しみ」(講談社文庫) 全編を暗記して復唱すれば落語として上演できそう。

落語はのなかには不可能な謎が現れることがある。落語では落ちをつけるので謎はそのまま放置されるのだが、ミステリーマニアには合理的な解決をつけたいと思うものがいる。と言って知っているのは都筑道夫の「なめくじ長屋」第5巻きまぐれ砂絵がそう。副題…

アンブロズ・ビアズ「いのちの半ばに」(岩波文庫) 他人と大衆が嫌いなペシミストはバッドエンディングを夢想する

本書は1891年にでた短編集から7編を集めたもの。解説には書いていないが、米版は増刷されるときに、収録作の入れ替えがあったようだ。「ふさわしい環境」には蓄音機が登場するので、1900年代ゼロ年代の作とわかる。 ビアズは1842年生まれなので、年がいって…

リチャード・マーシェ「黄金虫」(創元推理文庫)-1 イギリスホラーの古典。闇バイトに応じた青年は動物や異生物による人体侵襲に恐怖する。

リチャード・マーシュの生没年は1867-1915。本作は1897年出版。すでに読んでいたものでは、ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」1897、ウィリアムソン夫人「灰色の女」1899年、コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」1902年が同時期の作。この国は1980年代の邦訳が…

リチャード・マーシェ「黄金虫」(創元推理文庫)-2 帝国主義の宗主国は植民地からの報復を恐れる

2024/01/16 リチャード・マーシェ「黄金虫」(創元推理文庫)-1 イギリスホラーの古典。闇バイトに応じた青年は動物や異生物による人体侵襲に恐怖する。 1897年の続き 異教の神、昆虫の恐怖(イギリスにはあまり昆虫はいないのではなかったかな)、催眠術、…

M.R.ジェイムズ「短編集」(創元推理文庫)-1 「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」20世紀初頭に書かれた古い怪談。

モンタギュー・ロード(ローズ)・ジェイムズは1862年生まれ1926年没。古文書学や聖書学の研究者で、職業作家にはならなかった。生涯に書いた小説は短編31編に長編童話が1編という寡作。その代わり納得いくまで手を入れられたのだろう。完成度は高い。この傑…

M.R.ジェイムズ「短編集」(創元推理文庫)-2 「ハンフリーズ氏とその遺産」。20世紀にゴシック小説をかけたのは流行を無視できるアマチュア作家だったから。

2024/01/12 M.R.ジェイムズ「短編集」(創元推理文庫)-1 「消えた心臓」「銅版画」「秦皮(とねりこ)の木」「十三号室」 の続き ジェイムズの短編のサマリーで何度もディクスン・カーの名前をだしているが、カーの作品(ことに1930年代)はM・R・ジェイム…

沼正三「家畜人ヤプー」(角川文庫)-1 白人と女性優位は日本男子のディストピア

196*年に登山中のクララ・フォン・コトヴィッツと瀬部麟一郎は空飛ぶ円盤を発見する。そこには2000年未来の宇宙帝国「イース」の貴族であるポーリーンが乗っていた。全裸の麟一郎を見たポーリーンは、彼を家畜人ヤプーを見間違う。ポーリーンの命令を聞く人…

沼正三「家畜人ヤプー」(角川文庫)-2 日本のサムライ男子が夢見る大日本帝国のユートピア

2024/01/09 沼正三「家畜人ヤプー」(角川文庫)-1 白人と女性優位は日本男子のディストピア 1972年のつづき 遍歴にしろ教育にしろ無垢な主人公が体験を積み知識を吸収するには、優れたメンターが必要になる。「肉体の扉」の父親や「O嬢の物語」の館主のよう…