odd_hatchの読書ノート

エントリーは2800を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2022/10/06

福永武彦

福永武彦「死の島 上」(新潮文庫)-1 問題を起こした女性の動機をミソジニー男が探る

相馬鼎(かなえ)という25歳前後の出版社編集者がいる。下宿住まいであり、会社と下宿を往復するような生活にあるが、野心はある。いくつかの主題とモチーフを使って小説を書きあげることだ。完成すればたぶん日本の文学史になかったものができる。と思いつ…

福永武彦「死の島 上」(新潮文庫)-2 「芸術は人生が生きるに値するものでなければならない」というができたものはそれを裏切る

2022/10/28 福永武彦「死の島 上」(新潮文庫)-1 1971年の続き 相馬鼎が目指す小説はどういうものか、少し聞いてみよう。 人生をつくり変えるというより、その人生を生きている人間の精神をつくり変えることの出来るようなもの。それも作者だけの問題じゃな…

福永武彦「死の島 下」(新潮文庫) 「愛の試み」は男の愛の押し付け

2022/10/28 福永武彦「死の島 上」(新潮文庫)-1 1971年2022/10/27 福永武彦「死の島 上」(新潮文庫)-2 1971年の続き 萌木素子は広島生まれ。そのため、20歳のときに原爆に被災する。彼女は軽症であったので(しかし背中にケロイドがあり白血球減少で貧血…

福永武彦「加田伶太郎全集」(新潮文庫) オールドスタイルからモダンディテクティブストーリーへ。作者の進歩の記録

純文学作家が探偵小説を書いた、というときには、昭和40年代までなら坂口安吾と福永武彦の二人が挙げられた。もう少し時期をずらすと、筒井康隆・奥泉光を加えられるのかしら。詳しくないからここまでにしておこう。 完全犯罪1956.03 ・・・ インド洋航行中…

福永武彦「廃市・飛ぶ男」(新潮文庫) 福永文学のロマンティシズムの主題は「会いたいよお」、でもいつも遅かった

夜の寂しい顔 ・・・ 田舎の漁村に高等学校受験勉強に来た15歳の少年の心象風景。父は死に、母は彼を邪険にし、姉も死んでいる。家庭で孤独で、漁村においては生産活動に参加できないことでも孤独。夢見るのは母性への憧れと女性へのサディスティックな感情…

福永武彦「夢みる少年の昼と夜」(新潮文庫) 世界の完全性は失われ自分は崩壊していくしかないというロマンティシズムの小説

1950年代後半に書かれた短編をまとめたもの。作品名の後の数字は初出年。 夢みる少年の昼と夜1954 ・・・ 母をなくし、父は遅くまで帰らない一人っ子。ギリシャ神話が好きで、体操は苦手な内向的な少年。夏休みの直前で、彼は神戸に引っ越すことになっている…

福永武彦「風のかたみ」(新潮文庫) 平安末期を舞台にした伝奇小説。恋はすれちがい破れた心はつながらない

時は平安も末のころか。信濃を旅立った若者・次郎信親は、母の妹を訪ねて京の都にでる。願いは田舎でくすぶるのではなく、都で己の運を試すこと。途中、奇怪な陰陽師とであい、あわせて稀代の笛作りから名品を強引に譲り受けたところから事態が変わる。陰陽…

福永武彦「告別」(講談社学芸文庫) 中年男のロマンティシズムはパターナリズムと表裏一体

1962年初出。 中年のおとこ。大学教授で小説家も兼任にしている。彼の友人、上條慎吾は肝臓がんで死のうとしていた。主人公の小説家は上条のことをよく知らないが、彼の介護のために奔走する。上條は戦争中、学生結婚をしてそのまま召集。帰還すると娘が生ま…

福永武彦「夜の時間」(河出書房) ドストエフスキーの息子や娘たちの観念的な恋愛模様

伯父が購入したと思われる昭和30年刊の河出書房版。のちの講談社文庫版ではない。この河出書房版は新書サイズの叢書で、一連の刊行物には伊藤整「典子の生きかた」、三島由紀夫「夏子の冒険」、リルケ詩集、大岡昇平「武蔵野夫人」、石坂洋次郎「丘は花ざかり…