odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

医療

井上栄「感染症 増補版」(中公新書) ウィルスは飛沫感染するので、ワクチン・疫学調査・行動変容で対策する。

感染症は感染源が人から人へと移り重篤な症状を起こすもの。とくに感染性が強く、症状が重いものは伝染病と呼ぶ。感染源はウィルス、病原菌、微生物、寄生虫など。人類はずっと感染症や伝染病の対策をしてきた。人間は生物学的にはあまり変わらないが、行動…

ヘレン・ケラー「わたしの生涯」(角川文庫) 19世紀末のアメリカでは障害者自身や支援者たちは自力で組織を作って、援助体制を作っていた。ヘレンはじぶんらができることで社会に参加させてくれと主張する。

ヘレン・ケラーは1880年生まれ。2歳で高熱の病気を発症。以来、視力と聴力を失う。話すこともできなくなり、わがままでしつけができないで育つ。転機は彼女が7歳の時。グラハム・ベルの紹介でパーキンス盲学校の卒業生、20歳のアン・サリヴァンが派遣される…

フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-2 ナイチンゲールは、ホメオパシーを認めていませんよ

2014/02/03 フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-1 の続き ナイチンゲールがホメオパシーを擁護するという記述があるらしいので、調べてみた。 今回読んだのは、1985年印刷の第4版。該当箇所は本書209-210ページ。引用すると、 「ホメオパシ…

フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-1 伝統的で科学的でない医療に公衆衛生と統計を取り入れよう。看護士の社会的評価を高めよう。

フロレンス・ナイチンゲールは1820年生まれ。サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)に詳しい生涯が書いてあるので、それを参考にすると、ジェントリの裕福な家庭の生まれ。クリミア戦争に看護婦として従軍。それまでの軍隊の看護所の常識を変える運用…

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-3 代替医療は科学の持つフィードバックとアップデートの機能を備えていない。現代医療と同等の効果を持っているわけではない。

2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 2014/01/31 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-2 ようやく本書の主要な内容に到達した。このような現代医療とは関係のないところに「代替医療」がある。代替はalternativeの訳語。altern…

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-2 医学は二重盲検法やプラセボ効果を用いた評価とフィードバックによる改善を継続している。

2014/01/30 サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 科学の分野では新発見が妥当かそうでないかの評価は、科学者集団によって検証される。たいていは、複数の研究者に追試検証されたり、従来の科学的知見と矛盾がないことを確認したり、従来説明不可…

サイモン・シン「代替医療解剖」(新潮文庫)-1 科学は世界認識の方法に優れ、未来予測の精度をあげ、具体的な利益を上げることに成功したから、占星術や呪術に勝利した。

本書の感想の前にいくつか。科学についてのよもやま話。 科学の方法と思想が生まれたのはそれほど古い時代ではない。遡っても西洋の13-14世紀まで。しかもそのころの科学は、他の世界認識や未来予測の方法、すなわち占星術や錬金術や呪術など、とそれほど変…

真野俊樹「入門 医療経済学」(中公新書)  医療は経済行為でもあるし、経済外行為でもある。市場原理や国家統制では対応できない領域。

医療はサービスに対して対価を払うのであって経済行為とみなすことができるが、一方でサービスの内容や提供者による価格の差異がないなど経済外行為にもみなすことができる。なんでそんなことになるのかということと、医療費が増大していて国や自治体の財政…

渡辺淳一「白い宴」(角川文庫) この国の最初の心臓移植手術をモデルにした小説。バイオエティクスのない時代なので問題は深堀されていない。

1968年8月8日にこの国の最初の心臓移植手術が行われた。その日は、東海村の実験用原子炉が稼働を開始した日だった。ガキだったので、これらの出来事は未来を明るくすると信じていた。のちに、いずれもそう単純ではない、多くの人の批判にさらされた忌まわし…

江川晴「小児病棟」(読売新聞社) 1980年の第1回女性ヒューマン・ドキュメンタリーの入選作品集。子供・病者にもっている偏見と理想化が裏切られるリアルを描く。

1980年の第1回女性ヒューマン・ドキュメンタリーの入選・佳作の4編を集めたもの。出版社の主催であったが、別の企業の協賛があったように記憶しているし、新聞に大きな広告が載ったように思えるし、のちにはTVドラマになったりと大きく扱われたような覚えが…

スーザン・ソンタグ「エイズとその隠喩」(みすず書房) 治癒できない病とされていた時代に、エイズに込められた隠喩と神話は人を殺す。

初版は1989年。日本版は1990年。今から思い返すと「エイズ」の危険性、破滅性が最も喧伝されている時期であった。毎月、エイズ感染者・発症者の推移が発表され、他の国との比較がなされてきた。この本にはアメリカでのエイズによる差別例(退職強制とか配置…

スーザン・ソンタグ「隠喩としての病」(みすず書房) 近代は病気を患者への懲罰とみなし、患者を排除しようとしてきた。

著者は1933年生まれで、1970年代前半にがん治療を行った。その体験から書いたものがこの本。たぶん相当に急いで書かれたものであり、同じ思考の繰り返し、同じ引用の再掲などが頻出する。その意味では整理は不十分であり、とりとめのないものではあるが、こ…

イヴァン・イリッチ「脱病院化社会」(晶文社) 資本主義批判を含んだ医療の社会学。興味深い指摘はあっても、21世紀の現状に合わない。

初出は1972年だったと記憶する。それから35年の時をへて、医療制度の変更が行われたのちとなると、この告発の対象がだれになるのかわからなくなる。当時の疫学その他の研究水準などもあって、主張の裏付けの信ぴょう性にも疑問があり、今回は文章を飛ばしな…

波平恵美子「病と死の文化」(朝日新聞社) 医療人類学がみた日本人の死生観。医療は伝統的な死生観に侵食する。

各論文のキーになるセンテンスを集めた。必ずしも原文とおりではない。ほとんどの論文は1980年代後半に書かれた。 1.日本人と死 ・・・ 日本人は儀式を通じて死を考える。思想的、観念的に死を考えることは少ない。日本人は遺体にこだわるが、死を確認する…

マーティン・ガードナー「奇妙な論理」(現代教養文庫) 21世紀のニセ医療、ニセ健康療法の起源は20世紀前半からあった。

ニセ科学や超常現象、ニセ医学などのデバンキングの古典。アメリカの初版は1952年というのに、でてくるトンデモ科学は現在でも健在で、しかも主張がまったく進歩していない。まったくあいつらには進歩とか前進とかいうのはないのか(えーと、引用は正しかっ…

平澤輿「生命の探求者」(新学社文庫) 戦時中に書かれた19世紀に医学に貢献した学者たち。本邦の研究者の成果は大きめに書かれている。

昭和17年に「子供の科学」に連載されたエッセー集。自分の知っている「子供の科学」は誠文堂新光社から出版されていたが、当時はどうだったのか。 タイトルから連想されるのは、生物学の発展の話であって、たしかにレーヴェンフックが顕微鏡の発明と細胞の発…