odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2017-01-01から1年間の記事一覧

ミスター高橋「流血の魔術」(講談社+α文庫) 興行のシナリオが存在し、試合の結末が事前に決められているという事情を知ることは、プロレスの楽しみを半減させることになるか

著者は新日本プロレスの元レフェリー。退職後に、「プロレス、至近距離の真実」1998年、本書2001年、「マッチメーカー」2002年を出版した。他にも著書は多数あるが、プロレスの内幕を書いたということでは、この3冊が重要。 中身を見る前に、背景を確認して…

林達夫/久野収「思想のドラマツルギー」(平凡社) 書かれた時代のわりにとても先鋭なことをいう林達夫のインタビュー。半世紀たつとありきたりな内容。

林達夫の本は「歴史の暮方」(中央文庫) と「共産主義的人間」(中央文庫)しか読んでいない。なるほど、書かれた時代のわりにとても先鋭なこと(しかし20世紀後半以降になると陳腐)をいっていた。一方で、この国の哲学者や思想家は林達夫をえらい、すごい…

又吉直樹「火花」(文春文庫) 無理くりいえば、師匠探しとその乗り越えがテーマの「私小説」

小説には、珍しい職業をテーマにしたものがあって、例えば最近作(でもないか)では有川浩「空飛ぶ広報室」(幻冬舎文庫) あたり。この中編もそのひとつ。ここでは漫才師の世界。読者は成果をテレビなどで見ることはあるが、その裏側でやっていることは知ら…

三島由紀夫「仮面の告白」(新潮文庫)

10代後半から20代前半の作曲となると、モーツァルトはもとより、ロッシーニ、シューベルト、ショパン、メンデルスゾーン、ビゼー、ブラームス、グリーグ、カリンニコフ、プロコフィエフ、ショスタコービッチなどそうそうたる名前と作品がすぐに浮かぶ。…

武者小路実篤「真理先生」(旺文社文庫) 金のない素人芸術家たちが作ったモリス風の芸術共同体。でも誰が彼らの世話をしているかをみていないので想像的、創造的に読むのは困難。

1949-52年にかけて連載されて1952年に単行本にまとめられた著者の60代半ばの長編。個人的な体験を思い出すと、中学一年生の時に旺文社文庫版を購入して読んだ。11歳の早熟な生徒が背伸びして(あるいは早期に厨二病に罹患して)、「真理」の探究を目指したの…

イソップ「寓話集」(岩波文庫) ローマ時代に子弟の教科書になったので無理くりな奴隷道徳が追加されたので教訓は無視して、お伽話を楽しもう

イソップ、ギリシャ名アイソポスは紀元前6世紀ころに実在した人物らしい。奴隷で、しかし機知に富み話術に巧み。理由不明であるがデルポイ(という都市)で殺害されたという。醜男でがに股で太鼓腹で…というのは後世のつくり話らしい。そのアイソポスが語っ…

イワン・ツルゲーネフ「父と子」(新潮文庫) 1860年代、父の世代は自由主義で保守主義、子の世代は民主主義で革新志向。

1859年5月にペテルブルグの大学に通う学生が夏休み(?)で実家に帰ってきた。都会の雰囲気をぷんぷんと匂わせる医学生の友人といっしょ。やることがないし、とくに気を引くことがないので、学生二人はぶらぶらすごす。その田舎には貴族の未亡人がいて話をし…

バルドゥイン・グロルラー「探偵ダゴベルトの功績と冒険」(創元推理文庫) WW1前のオーストリア=ハンガリー二重帝国を舞台にする短編探偵小説集。

工場所有者のグルムバッハ氏とその妻ヴィオレット(元女優)の家に招待されるのは、ダゴベルト氏。ソクラテスに似た風貌で、音楽と犯罪捜査の道楽者。ヴィオレットの誘いに乗って、晩餐のあとに犯罪捜査を物語る。時代は19世紀末ウィーン。マーラーとリヒャ…

アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-1 東独併合と東欧イスラム移民と一緒に住むドイツの負担と不満。排外主義や偏見を持たないでいること。

説明にドイツ・ミステリーとあったので、即座に購入。自分が読んできたドイツ文学は1945年までだった(エンデの童話を除く)。19世紀ドイツのことは多少は知っているのに、現代ドイツをほとんど知らない。そこにフォーカスした読書になった。 笠井潔の矢吹駆…

アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-2 出自や国籍や民族が異なる人が犯罪を捜査し、撹乱する。日本の「書生の小説」にはない自立した大人がでてくる充実した小説。

2017/12/12 アンネ・シャプレ「カルーソーという悲劇」(創元推理文庫)-1 1998年 フランクフルトに自動車で一時間先にある田舎町。広告代理店に勤めていた男パウル・ブルーマーが妻と離婚し、田舎暮らしを始めた。業界暴露本を準備しているが、昼間は自転車…

筒井康隆 INDEX

2017/12/08 筒井康隆「全集1」(新潮社)-1960年代前半の短編「お助け」「やぶれかぶれのオロ氏」 1960年 2017/12/07 筒井康隆「幻想の未来」((角川文庫)-1960年代の短編2「トーチカ」「しゃっくり」「東海道戦争」 1964年 2017/12/06 筒井康隆「全集4…

筒井康隆「全集1」(新潮社)-1960年代前半の短編「お助け」「やぶれかぶれのオロ氏」

作家は若いころのことをあまり書いていない。全集の月報には評論家による評伝が載っているが読んでいない。子供向け小説や漫画に熱中→映画に熱中→演劇に熱中→SFに開眼→兄弟で同人誌を発行。その同人誌が江戸川乱歩の目に留まり、商業誌に転載された。それか…

筒井康隆「幻想の未来」((角川文庫)-1960年代の短編2「トーチカ」「しゃっくり」「東海道戦争」

続いて1960年代前半の中短編。模索の時代。下の世界 1963.05 ・・・ 肉体階級と精神階級に分離した社会。肉体階級から「上」に上がるためにトレーニングに励むトオル。いま-ここから脱出したい人の物語(「脱走と追跡のサンバ」「虚人たち」)ブルドッグ 196…

筒井康隆「全集4」(新潮社)-1960年代のジュブナイル小説「時をかける少女」「緑魔の町」

戦後から昭和が終わるころまで、旺文社の「中一時代」、学研の「中一コース」などティーン向けの学習雑誌があった。1960年代のマンガ雑誌には小説の欄もあった。そのような雑誌に掲載・連載したものを集めた。ほかに小学生低学年向けに書いたものも収録。こ…

筒井康隆「48億の妄想」(文春文庫)

書かれた時代の日本によく似ているが、ひどく違った世界。大きくは、国民の住居そのたにカメラ・アイがあまた設置されていて、24時間撮影されている。統括するのは民間の「カメラ・アイ・センター」。そこにはテレビ局員が常駐し、面白い映像があれば瞬時に…

筒井康隆「全集2」(新潮社)-1965-66年の短編「堕地獄仏法」「マグロマル」

1965年と1966年の短編。堕地獄仏法 1965.08 ・・・ 戦後の好景気を背景に総花学会と恍瞑党が躍進。天皇も法華経に帰依して、伊勢神宮他各地の神社が破壊。独裁体制に移行したが、衣食が足りているので国民は満足。「政治的な価値基準が宗教の聖邪基準とごっ…

筒井康隆「全集3」(新潮社)-1966年の短編「最高級有機質肥料」「ベトナム観光公社」

1967年と1968年前半の短編。中間雑誌やティーン向け学習雑誌などに発表した短編を収録。産気 1966.07 ・・・ 男性課長の正田が妊娠した。会社勤務中に産気ついて。ここで終わらずさらに続ければ傑作。昭和40年代だと書けるのはここまでか。サチコちゃん/ユリ…

筒井康隆「全集5」(新潮社)-1967年後半1968年前半の短編「アルファルファ作戦」「ヒストレスヴィラからの脱出」「脱出」

1967年後半と1968年前半の短編。一緒に収録されたエッセイによると、このころから中間雑誌の依頼が増えたという。中間雑誌の当時の読者層はSFになじみがないので、SF的なアイテム、ガジェット、用語などを使わないようにと制限を受けたらしい。作家にとって…

筒井康隆「全集6」(新潮社)-1968年後半の短編「晋金太郎」「新宿祭」「わが良き狼」

1968年後半の短編。地獄図日本海因果 1968.08 ・・・ 突如北鮮艦隊が南下、警戒中の海保艦隊と遭遇。中共から買ったできそこないの小型原爆を使うと、時間を破壊して、そのあたりの海域をタイムスリップさせた。バルチック艦隊、元寇などと海保が闘うはめに…

筒井康隆「筒井順慶」(新潮文庫)-1968年前半の短編「色眼鏡の狂詩曲」「あらえっさっさ」

1968年の中編と前半の短編。作品の並びは全集6に準じる。文庫の収録作品とは一致しない。テト攻勢(ソンミ村虐殺事件)、プラハの春、五月革命、文化大革命、公民権運動(キング牧師、R・ケネディ暗殺)。公害続発、大学闘争。メキシコオリンピック。アポロ…

筒井康隆「霊長類南へ」(講談社文庫)

中国辺境の地にあるミサイル基地。毛沢東主義者の青年将校と科学技術士官が恋のさや当てで発射室内で大乱闘。蹴り飛ばされた将官がパネルに激突。そのとき発射ボタンを押してしまい、核ミサイルがウラジオストックと三沢に飛んでいった。迎撃などできるはず…

筒井康隆「全集7」(新潮社)-1969年前半の短編「走る男」「チョウ」

1969年上半期のの短編。東大闘争が安田講堂の「落城」で終焉に向かう。断末魔酔狂地獄 1969.02 ・・・ 平均寿命が140‐160歳になった21世紀。100歳の若者(書かれた時代の若者で、著者の同世代)が葬式で大暴れ。「からだはしっかりしているが、ぼけてしまっ…

筒井康隆「全集8」(新潮社)-1969年後半の短編「母子像」「国境線は遠かった」

1969年下半期の短編。夏にアポロ11号の月面着陸があり、ウッドストック・フェスティバルがあり、三沢vs松山商の決勝戦は18回で決着がつかず再試合になり、ベトナム戦争は泥沼状態で、中国の文化大革命は得体が知れず・・という年。母子像 1969.07 ・・・ …

筒井康隆「心狸学・社怪学」(講談社文庫)

1969.01-08に雑誌に連載。「心理学・社会学」の概念を使って、現在(1969年)の社会や家族を描く。本文ではこれらの概念に関する説明はないので、読者はあらかじめ知っていることが想定されている。心狸学篇 条件反射 ・・・ 事故を起こした流行作家、緊急事…

筒井康隆「全集9」(新潮社)-1970年の短編-1「逃げろや逃げろ」「空想の起源と進化」

1970年おおよそ上半期の短編。欠陥バスの突撃 1970.01 ・・・ 色情、サラリーマン根性、老人、放蕩、計算機、気障、創造、知識、子供、アニマ、食欲、サービス、批判、アル中、自虐、好奇心、運転手の18人が欠陥バスを運転しながら、靖子とデートに行き、ホ…

筒井康隆「全集9」(新潮社)-1970年の短編-2「ビタミン」「日本列島七曲り」「テレビ譫妄症」

1970年おおよそ下半期の短編。20000トンの精液 1970.05 ・・・ バーチャルで代理セックスができる時代(こんなことばは使われていないが)。もっとも人気のあるヒルダは男のルナティック(狂気、熱中とでも思いなせえ)と女の嫉妬を呼び起こす。路上で…

筒井康隆「乱調文学大辞典 」(講談社文庫)

1970年前後のエッセイなど。乱調文学大辞典 1971.11 ・・・ 文学辞典のパロディ。広辞苑の全項目を読みながら、項目を拾い出して、自作の解説をつけていった。まあ、言葉の博物学者ですな。膨大なことばを収集して、分類し、変換し、自家薬籠中にいれ、実作…

筒井康隆「脱走と追跡のサンバ 」(角川文庫)

この小説はサマリーをつくりずらい。およそ「現実的」なストーリーはないに等しく、登場する人物がおよそ「現実的」ではないから。それでいて、人物の行動様式や風景は「現実的」に思えるくらいに近しい。読んでいる間、小説との距離の取り方が難しい。でも…

筒井康隆「全集10」(新潮社)-1971年前半の短編「陰悩録」「家」

1971年上半期の短編。わが名はイサミ 1970.11 ・・・ 甲州鎮撫隊となった近藤勇絶頂期のどんちゃんさわぎ。ナポレオン対チャイコフスキー世紀の決戦 1970.11 ・・・ 大序曲「1812年」の実況。楽器が闘う(のちの「虚航船団」第3部の先取り)。女権国家の繁栄…

筒井康隆「全集11」(新潮社)-1971年後半の短編「郵性省」「経理課長の放送」「将軍が目醒めたとき」

1971年下半期の短編。郵性省 1971.06 ・・・ オルガスムスに達したとき、ある場所をイメージするとテレポーテーションできる技術、オナポートが高校生によって開発され、日本は大発展を遂げる。都筑道夫「池袋の女@狼は月に吠えるか」(文春文庫)と比較せ…