odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ワールド・ミュージック

クラウス・シュライナー「ブラジル音楽のすばらしい世界」(ニューミュージックマガジン社) タンゴやボサ・ノヴァの熱心なファンはブラジルを除くとドイツと日本にしかいないといわれる。ドイツの民俗音楽研究が本気だした成果。

この国の敗戦がもたらしたもののひとつは、外国の音楽がどっと入ってきて、新たなファンを獲得したこと。15年戦争中に禁止されていたジャズほかが演奏できるようになった、占領軍の軍隊向けラジオ放送をこの国の人が聞いて魅了された、戦地の収容所でひがな…

クロード・ピゲ「アンセルメとの対話」(みすず書房) 数学の専門研究をしていた指揮者が現象学を駆使した音楽理論書を書いた。そのエッセンスを聞くインタビュー。

エルネスト・アンセルメ(1883-1969)はスイスの指揮者。ディアギレフ・バレエ団の専属指揮者となったり、スイス・ロマンド管弦楽団を組織したり、Deccaで膨大なレコーディングをしたりと、20世紀を代表する指揮者の一人。若い時からお世話になったが、これ…

パウル・ベッカー「西洋音楽史」(新潮文庫) 1924年にでたドイツ音楽中心史観の音楽史。政治学、社会学、技術史は一切無視。

1924年にラジオで放送された連続講演会をまとめた。内容は和声学・対位法などの音楽学までおよぶ。たしかヤスパース「哲学入門」も時期は異なるとはいえ、ラジオの連続講演をまとめたもので、ヤスパースは自分の考えをぞんぶんに語った。ベッカーやヤスパー…

山根銀二「音楽美入門」(岩波新書) 芸術美を人間が把握できるようになるためには音楽も人間も社会変革の意思も持たなければならない。

著者は1906年生まれの音楽学者、評論家。いくつかの楽譜の校訂や解説で彼の名前をみることがある。この本は1950年初版で、1976年に改訂された。 さて音楽の美に入門するための本であるが、音楽の美はどうもはっきりしない。とりあえず著者のいうことを聞き取…

小泉文夫/團伊玖磨「日本音楽の再発見」(講談社現代新書) 明治政府以降、学校教育は伝統音楽を軽視してきたが、それはこの国の音楽を貧しくしたのではないかという問いかけ。

当時50代前半の作曲家と40代後半の音楽学者による対談(1976年)。この国は明治政府ができてから音楽教育に力を入れるようになった。その一部は堀内敬三「音楽五十年史 上下」(講談社学術文庫)に詳しいが、ようするにヨーロッパ音楽を規範としたが、一方で…

小泉文夫「音楽の根源にあるもの」(平凡社ライブラリ) 伝統音楽や民衆音楽の軽視はこの国の音楽を貧しくし、自由を失わせている。

この国では明治維新のあと、西洋音楽を普通教育に取り入れた(堀内敬三「音楽五十年史 上・下」講談社学術文庫に詳しい)。 odd-hatch.hatenablog.jp odd-hatch.hatenablog.jpそれによって、軍歌や唱歌、童謡などの合唱運動がおこり、国民が一緒に歌えるよう…

孫玄齢「中国の音楽世界」(岩波新書) 中国の音楽を鳥瞰したいが新書では無理なので、古代・演劇と音楽・民謡の限定して解説。

中国の音楽を鳥瞰する新書。なにしろ3000年の歴史を持ち、長江と黄河があって、現在では10億人以上も住んでいる場所だから、こんな新書一冊に収めるのはたいへん。そこで、3つのパートに分ける。 ・第1部は、古代。文献、考古学資料などから音楽の盛んであっ…

武満徹/川田順造「音・ことば・人間」(岩波同時代ライブラリー) 昭和一桁生まれはすでに西洋音楽が染みついていて、それ以外の音楽は異質に聞こえる。日本の伝統音楽でさえも。

武満徹は作曲家、1930年生まれ。川田順造氏は文化人類学者で1934年生まれ。二人が1978年から翌年にかけて雑誌「世界」に往復書簡を公開した。それをまとめたのがこの本(1980年)で、文庫版の出たのは1992年。二人とも40代で、とても行動的。武満は世界各地…

藤井知昭「民族音楽の旅」(講談社現代新書) 西洋中心主義からいかに脱するか。そのために「音楽以前」とみなされた音楽を聴きに行く。

1980年代の後半のいわゆる「バブル」の時代に、この国では「ワールド・ミュージック」のブームがあった。六本木や池袋のWAVEというCDショップに専門コーナーがあったり、世界の音楽を現地録音したCDシリーズが出たり、ブルガリアやバリ島やその他の演奏家が…

ジョン・ブラッキング「人間の音楽性」(岩波現代選書)

「音楽は世界の共通言語」という主張を聴くことがあるが、半分くらいしかあたっていなくて、世界の多くの人が音楽とみなしている語法で書いた音楽を演奏すると、世界の多くの人はそれを音楽とみなしてくれる、ということだ。知っている語法から外れた音楽は…

五十嵐一「音楽の風土」(中公新書) 1979年のイラン革命に遭遇したイスラム学者がイランやイスラムを紹介。イスラムからヨーロッパを見ると、かつてはまことに武骨で粗野な人たちであった

著者はイスラム学と比較思想専攻(奥付の著者紹介から)。1970年代後半にイランに留学。その最中に1979年のイラン革命に遭遇した。同時期に小田実もイランほかを訪れている(小田実「天下大乱を行く」(集英社文庫))が、彼の見聞とは相当に違う。テヘラン…

片岡義男「ぼくはプレスリーが大好き」(角川文庫) アメリカの20世紀ポピュラー音楽の歴史と現代(1971年)における意義。白人の若者は窮屈で退屈に反感し、黒人の若者は低賃金労働と差別に抗って歌を作る。

ずいぶん長い間品切れ状態。1970年に請われて書いた文章をまとめて、1971年に出版。のちに角川文庫に入ったが、彼の小説のブームがとりあえず終わった1990年代にはもうこれだけは書店で見つからなかった。自分はどこかの古本屋で2000年ころに買ったらしい。 …