odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫

都筑道夫 INDEX

手元にある都筑道夫の本約130冊のレビューも残すところは「なめくじ長屋」シリーズだけになりました。このシリーズはじっくり時間をかけて読みたいので、レビューを公開するのは数年後になるでしょう。というわけで、いままでに公開したレビューの一覧をつく…

都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1

1945年の敗戦と同時に、16歳の少年が早稲田実業に行くのをやめ、劇作家を志す。あるカストリ雑誌の編集部に入り、雑用をしているうちに、雑誌に穴が空こうとしたのでショートショート(という言葉は当時はない)を書いた。それから依頼されるたびに講談…

都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-2

2021/09/17 都筑道夫「ひとり雑誌第1号」(角川文庫)-1 1950年の続き 雑誌の同じ号に一人で複数の小説ほかを掲載することがあったので、作家はいくつものペンネームをつかった。時代小説用、翻訳用など。タイトルの後ろにかっこをいれたのは、そのペンネー…

都筑道夫「ひとり雑誌第2号」(角川文庫)

続けて第2号。「掘出珍品大特集」と称する。 妖説横浜図絵 ・・・ 都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)所収 昔噺羅生門 ・・・ 羅生門の前で自害しようとする男を鬼が助ける。恋路が破れての果てであるが、風雅を解する鬼は一肌脱ごうと、疫病神に頼ん…

都筑道夫「ひとり雑誌第3号」(角川文庫)

第3号は「空前絶後大特集」。 弁天夜叉 ・・・ 女掏摸からのし上がる弁天小僧菊之助(いまでいう男の娘)の身の破滅まで。 敵討三世相 ・・・ 敵討ちにでた兄弟、捕まらない相手、それも幼いころから世話をしてもらった伯父を追うことに飽きる。弟は離反し…

都筑道夫「ひとり雑誌増刊号」(角川文庫)

ひとり雑誌全3巻は古い切り抜きから小説(と一冊ごとに2つの講談ダイジェスト)を編集した。好評だったのでもう一冊出すことになったが、小説は残っていないので、講談ダイジェストだけで編むことにした。全8編のうち怪異をあつかったのが5つあるので、「妖…

都筑道夫「変幻黄金鬼」(時代小説文庫)

1950年代と1980年代の時代物、伝奇小説を集める。最初の作はもともとは「魔海風雲録」。同じタイトルの長編を1954年に出したので、短編を本書のように改題。最初の4編が50年代はじめ(「私が二十歳から二三歳までの間に、どこかでかいたもの」)。 変幻黄金…

都筑道夫「魔海風雲録」(光文社文庫)

1954年というと、仙花紙に印刷した粗悪な読み物雑誌の売れ行きが激減し、時代小説のニーズもなくなっていった時期だった(と作者はいう)。そこで初めて長編出版の話がでたときに、それまでの伝奇小説、時代小説、講談書下ろしなどの総決算としてこの長編を…

カート・キャノン「酔いどれ探偵街を行く」(ハヤカワ文庫) アル中とルンペンは警察の庇護を受けられないかわりに、社会の義務やルールの外にいる。西部劇なら英雄になれるものが、現代ではアンチヒーローのスティグマを押される。

カート・キャノンはニューヨーク・バウアリの街の私立探偵。トニと結婚して数か月目。トニがベッドの中でパーカーと一緒にいるのを見つけた。以来、カートは探偵の免許を取り上げられ、アルコール漬けになる。一日中飲んだくれている30歳の男にも、探偵を頼…

都筑道夫「酔いどれ探偵」(新潮文庫) カート・キャノン「酔いどれ探偵」の贋作。ルンペン共同体の治安維持を担う用心棒になったクォート・ギャロンには自己嫌悪や他人嫌悪は見られない。

カート・キャノン「酔いどれ探偵街を行く」の連載が評判よかったので、読者は続きをよみたがったが、原作はもうない。そこで、原作者の許可を得て、都筑道夫が贋作を書くことになった。雑誌連載中は「カート・キャノン」を使い、単行本にするときは「クォー…

都筑道夫「やぶにらみの時計」(中公文庫)

二日酔いで目を覚ました「きみ」は見知らぬ部屋で目を覚ます。きみにしては高額なホテルに泊まったのかと思ったら、部屋に入ってきた女はきみの妻であり、これから会社に出勤するのだといいだす。きみはよんどころない事情で神戸を逃げてきて、顔を隠して生…

都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫、光文社文庫)-1

探偵小説翻訳家の淡路瑛一(29歳)は、7年の片思いの塚本有紀子が殺されるのではないかと心配している。風邪をひいている有紀子を見舞いにいったときに、風邪薬を一包持ち出して、嫌な男に飲ませたら、毒が入っていて死んでしまったからだ。警察の担当刑事は…

都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫、光文社文庫)-2

2021/08/23 都筑道夫「猫の舌に釘をうて」(講談社文庫)-1 1961年の続き この小説は、都筑道夫の「猫の舌に釘をうて」の束見本(カバーなどのデザインのために作った本文白紙の本)に淡路瑛一が手書きで手記をかいたものとされる。手記の最後では、束見本が…

都筑道夫「誘拐作戦」(中公文庫、創元推理文庫)

深夜の高速道路で、チンピラ三人組(小さん、大トラ、ブタ)と年長の一人(粟野)が事故にあった女性を見つける(こいつらの乗っている車がポンコツ・フォルックスワーゲンで、映画「殺人狂時代」に継承される)。そこに通りかかった男(桑山)が、その女性…

都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-1

タイトルのことばをしゃべったバーテンに桔梗信治がなんのことと尋ねると、「聞かれても教えられないっていう意味です」と返事した。気に入った桔梗信治は何度もつかい、すっとぼけた田舎者の青年のトレードマークになる。 全13回の連作短編。主に都内を舞台…

都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-2

2021/08/16 都筑道夫「なめくじに聞いてみろ」(扶桑社文庫)-1 1962年の続き 雑誌連載なので、毎月一話。おそらく事件の起きた月を雑誌の掲載月にあわせている。クリスマスや正月が出てくるのはそれが理由と推測。 第七章 ブルー・クリスマス:浜松→新宿→道…

都筑道夫「紙の罠」(角川文庫、ちくま文庫)

紙幣印刷用の特別な紙が盗まれた。その報道を聞いたとき、近藤庸三はビジネスの種をみつけた。すなわち、贋造紙幣を作るには印刷用の版を作らなければならない。それができる名人は数人といないだろう。ならば先に名人を押さえれば、偽札つくりの儲けをピン…

都筑道夫「悪意銀行」(角川文庫、光文社文庫、ちくま文庫)

「紙の罠」事件のあと、女房に逃げられ手元不如意な近藤は落語家に弟子入りして欣遊亭京好を名乗る。のらくらしているとき、土方が「悪意銀行」なるビジネスをしていると知る。そこに顧客が来て、愛知県巴川市の市長を暗殺してほしいと依頼してきた。近藤は…

都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1

若い時に海兵隊員で硫黄島の戦闘に参加していたサミュエル・ライアン。ニンジュツに興味があって日本に修行にきていた(!)。父の友人という老人から、ニンジュツのマキモノが盗難にあったので、おまえ調べてみないか、どうせ暇だろうと手付金をもらう。イ…

都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-2

2021/07/30 都筑道夫「三重露出」(光文社文庫)-1 1964年の続き サミュエル・ライマンのスパイアクションの物語を中断するかのように、滝口正雄(都筑道夫が使っていたペンネームのひとつ)の楽屋話が挿入される。滝口はS・B・クランストンが書いた「三重露…

都筑道夫「暗殺教程」(光文社文庫)

「TULIP (「チューリップ」、The Undercover Line of International Police) はニューヨークに本部を置き、世界各地に支部を持つ腕利きの対謀略組織である。そこで働くエージェントは、スパイキャッチャーと呼ばれている。国際謀略叛乱グループ TIGER (「タ…

都筑道夫「哀愁新宿円舞曲」(光文社文庫) 「猫の舌に釘を打て」に併録。新宿は戦前は畑と林だったのが、戦後に開けたので歴史がない。戦争の記憶を持たない。センセーにはあわない町。

光文社文庫の都筑道夫コレクション「青春篇」に収録されている版で読んだ。併録は「猫の舌に釘をうて」。 初出がかいていないので、このサイトに載っている年月をいれた。単行本になったのは1974年。都筑道夫 短篇リスト(一段落版) www7b.biglobe.ne.jp 娼…

都筑道夫「魔海風雲録」(光文社文庫)「善亭武升なぞ解き控 」「西郷星」

光文社文庫の「魔海風雲録」に収録された短編。 善亭武升なぞ解き控 以下の短編のまえに「湯もじ千両(1984)」があるが、収録された「悪夢録画機」を未入手なので内容はわからない。以下の三篇は本書が初書籍化らしい。柳剛流(実在する剣法なんだって!)…

都筑道夫「少年小説コレクション1」(本の雑誌社)-「ゆうれい通信」 大学生・和木俊一が主人公の昭和35年ころのジュブナイル探偵小説。

都筑道夫のジュブナイル小説(少年小説と呼ぶ方が当時にはあっている)。敗戦後に生まれた大量の子供がティーンエイジになり、娯楽のマーケットが生まれたのだ。学習誌、マンガ雑誌、貸本マンガなどのメディアがいっせいにできた。そのために書き手が不足し…

都筑道夫「少年小説コレクション2」(本の雑誌社)-「ゆうれい博物館」 大学生・和木俊一が主人公の探偵小説。中学高校生向け。

「少年小説コレクション1」に続いて本格探偵小説を集める。前の巻よりも少し後の時代のものを集める。初出誌は「中〇コース」「中〇時代」「高〇コース」「高〇時代」「少女コース」など。〇には学年を表す数字がはいる。 ゆうれい博物館 1970.04-71.03 ・…

都筑道夫「少年小説コレクション6」(本の雑誌社)-「拳銃天使」「どろんこタイムズ」 冒険アクションや少年推理のジュブナイル。昭和35年前後の作品。

1959-61年のジュブナイルのうち、冒険アクションや少年推理ものを集める。下記は「少年マガジン」「漫画王」「高校時代」「中学時代」「中学生の友」「中学生画報」などに連載されたもの(ベビーブームの子供たちがいっせいに進学したころで、生徒向けの雑誌…

都筑道夫「少年小説コレクション5」(本の雑誌社)-「未来学園」「ロボットDとぼくの冒険」

1960-80年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にあるものを集める。 未来学園 1965.04-1966.03 ・・・ 百年後(2065年)の中学1年生の生活。野村マリとクニオの一卵性双生児が学園に入寮する。そこで起きる騒動。幽霊、電話破壊、消える死体、誘拐、宇…

都筑道夫「少年小説コレクション4」(本の雑誌社)-「妖怪紳士」「ぼくボクとぼく」 SF、ホラーの系統にあるジュブナイル長編。

1960-70年のジュブナイルのうち、SF、ホラーの系統にある長編を3つ収録。 「妖怪紳士」は週刊少年キングに連載(このころにはマガジン、サンデー、ジャンプはマンガのみになっていたので、小説の連載はめずらしい)。この時代を思い出すと、1965年から水木…

都筑道夫「少年小説コレクション3」(本の雑誌社)-長編「蜃気楼博士」と「中一時代」に連載されたフォト・ミステリー。

1970年前後のジュブナイルのうち、本格推理の系統にあるシリーズをまとめる。 蜃気楼博士 第一の挑戦 蜃気楼博士 1969.05-11 ・・・ 久保寺俊作はアメリカでドクター・クボとして有名になったマジシャン。その見事さから、ドクター・ミラージ、すなわち蜃気…

都筑道夫「犯罪見本市」(集英社文庫)

初出は1970年だが、書かれたのはもっとまえの1960年代前半とおもう。初出の情報は不可欠なので、解説を書くときは必ず書いてくださいな。あなたの楽しみだけを書くところじゃない。 個々には関係のない独立した短編を集めたもの。 影が大きい ・・・ やさ男…