odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

フルトヴェングラー

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ「フルトヴェングラーと私」(音楽之友社) 指揮もする作曲家になれなかった政治音痴のカリスマ指揮者の思い出。

ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ (長いのでDFDと略すのが慣例。ここでもそうします)は一度聞いた。 odd-hatch.hatenablog.jp 彼を通じてフルトヴェングラーを見た思いがしたが、本書はDFDによるフルトヴェングラーの思い出。自身のキャリアアッ…

宮下誠「カラヤンがクラシックを殺した」(光文社新書) カラヤンのつくる音楽は「嫌な感じ」で「世界苦に無関心」だからダメ、なんだって。

タイトルは大仰であるし、著者は文中でたくさん怒っておられるが、さていったい誰を叱っているのかというと心もとない。なにしろ市場は減少の一途であり、新規参入客も減少中とはいえ、クラシック音楽の演奏会も放送も継続しており、音楽パッケージは販売さ…

中川右介「カラヤンとフルトヴェングラー」(幻冬舎新書) 大衆人気を使ってわがままだった二人のカリスマ指揮者の確執。

自分がフルトヴェングラー関連の本を集めたのは1980年代。フルトヴェングラーは没後30年たったころだが、カラヤンとチェリビダッケは存命中。本書の言葉をつかえば、カラヤンはフルトヴェングラーをその死の後に追い出したのだが、その幻に脅かされていた時…

INDEX ヴィルヘルム・フルトヴェングラー関連

2012/11/28 みすず編集部「逆説としての現代」(みすず書房) 2012/11/29 諸井三郎「ベートーベン」(新潮文庫) 2012/11/26 エリーザベト・フルトヴェングラー「回想のフルトヴェングラー」(白水社) 2012/11/24 志鳥栄三郎「人間フルトヴェングラー」(音…

みすず編集部「逆説としての現代」(みすず書房) プラトンの対話編をめざして編んだというが、50年の時間を経ると、ほとんど風化してしまった

老舗の雑誌みすずに掲載された対談集。1959年から1970年まで。誰もかれも亡くなってしまったなあ、という感慨にふけり、2011年7月現在吉田秀和が存命という驚き。書籍をめぐる対談は同社から出版された本の販促も兼ねていたのだろう。 芸術と政治――クルト・…

エリーザベト・フルトヴェングラー「回想のフルトヴェングラー」(白水社) 人当たりのよい常識人で家庭人であった再婚相手の証言。

フルトヴェングラーの2度目の奥さんであるエリーザベトが書いた記録(1979年刊)。ヴィルヘルムは1886年生まれ、エリーザベトは25歳年下の1911年生まれ(と思う)。1943年に結婚(ともに再婚)。 作曲家 ・・・ 自分は作曲家であると自己規定していたが、指揮者…

志鳥栄三郎「人間フルトヴェングラー」(音楽之友社) 再婚相手のインタビュー。それ以外は二次資料ばかりで新味はない。

フルトヴェングラーは死亡する直前に、コートを着ないで厳寒の散歩に出かけ、肺炎を患った。それは覚悟の自殺としての行為だ、という情報が流れた。この本によるとカール・べームがそれを口にしたらしい。そこでエリーザベト未亡人と知り合いになった著者が…

ヴェルナー・テーリヒェン「フルトヴェングラーかカラヤンか」(音楽之友社) 二人の音楽監督を経験した演奏家による比較。カラヤン存命中なので生存者には辛口。

ヴェルナー・テーリヒェンは1921年生まれで、若い時に戦争に出た。そのあと、1947年にベルリンフィルの打楽器奏者として雇用され、主席演奏家を35年務めた。ベルリン・フィルの理事にもなり、各種の折衝を支配人や音楽監督と行った。たぶん1985年ころに引退…

カルラ・ヘッカー「フルトヴェングラーとの対話」(音楽之友社) 長年の付き合いがあった女性作家による思い出。戦中演奏会を聞いた人による迫真の記録。

カルラ・ヘッカーは20世紀前半のドイツの女性作家。父に音楽家を持つので、素養は十分。1942年からフルトヴェングラーと懇意になり、指揮者との対話を継続的に雑誌や新聞に連載していった。その交友は指揮者の死去まで続き、1961年にこの本にまとめられた。…

クルト・リース「フルトヴェングラー」(みすず書房) ナチ加担を批判する論調に対するフルトヴェングラー擁護の反駁書。

クルト・リースはドイツ生まれのジャーナリスト。ナチス政権時代にスイスに亡命。1945年1月に亡命(?)してきたフルトヴェングラーと出会う。戦後の指揮者の非ナチ化裁判に尽力するなどして、彼との交友を深めた。ここらへんはカルラ・ヘッカーに似て…

清水多吉「ヴァーグナー家の人々」(中公新書) リヒャルト死後のバイロイト音楽祭の政治史。ナチス加担の黒歴史をいかに克服するか。

クルト・リース「フルトヴェングラー」(みすず書房)が同時代の記録であるとすると、こちらは「後世の歴史家(@「銀河英雄伝説」)が記述したもの。フランクフルト学派、とくにアドルノの研究者である著者が40代後半の1979年にバイロイトを訪問したところか…

脇圭平/芦津丈夫「フルトヴェングラー」(岩波新書) 旧制高校の教養主義体現者がカリスマ指揮者を語る。

1980年代に岩波新書がクラシック音楽関連の本を続けざまに出したことがあり、担当した編集者がクラシック音楽愛好家だったから実現したという(「岩波新書の50年」)。別の新書でも同様の企画があったので、勉強に利用した。安いのが何より。 さて、ここでは…

トーマス・マン「リヒャルト・ワーグナーの苦悩と偉大」(岩波文庫) ワーグナー批判にみせかけたナチス批判

ふたつの講演が収録されている。最初の「リヒャルト・ワーグナーの苦悩と偉大」は1933年2月10日ミュンヘン大学でのもの。ヒトラーの首相任命の10日後。反響はすさまじく、のちにマンがドイツにかえれなくなる原因となった。のちにドイツの音楽家からこの講演…

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー「音と言葉」(新潮文庫) 「芸術」こそが世界統一(あるいは民族統一)の中心になる信念は全体主義運動に敗北する。

クラシック音楽を聴き始めたのが1979年5月。何も知らないままに聞き出し、半年後にはフルトヴェングラーの名を知っていた。その演奏を聴く機会はほとんどなかったが。そして突発的にこの文庫が発売された。さっそく読んでみたが、当時の学力では無理だった。…