odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

都筑道夫「幽鬼伝」(大陸文庫)

 文庫本初版が1988年なので、1980年代前半に雑誌連載されたと思う。この種の書誌情報は必須だと思うので、解説に記載してくださいな。
 主人公たちは、駒方の岡引・念仏の弥八(首の数珠をしごくと南蛮鉄の堅い棒になる)に、元八丁堀同心の稲生外記(いのうげき:老人だけど、推理力に優れていて弥八に指示を出す)、稲生と同居する盲目の少女・涙(霊感だか超能力をもっていて未来予知ができる。ときには妖術も使う)。稲生の目的は金稼ぎ。涙の治療費獲得のためにあざとい仕事をすることもある。そのうちに天草四郎の末裔を名乗る怪人・天草小天治と戦うことになるわけで・・・

念仏のまき ・・・ 念仏の弥八がいきなり斬りつけられる。犯人は自分の力で抑えられないと言い残して死亡。調べると他に辻きりが4人いて、弥八に稲生も襲われる。被害者に関連はないのであって、いったいどんなミッシングリンクがあるのか。この三人組の初登場。涙も全裸を見せるサービス振り。
妖弓のまき ・・・ 追い立てた盗賊に投げ縄を掛けたところ、どこからか飛んできた弓で盗賊は射殺された。また、同心・高倉某は揚弓の遊び屋で後頭部に矢をかけられて殺された。周囲にはそれほどのすごい力の持ち主はいない。という具合に探偵小説の不可能犯罪趣味に、弥八の斬りあいがあり、馬が跳ね回る中の捕り物がありと、ページを繰る手を止められない。天草小天治初登場。
髑髏のまき ・・・ 浅草寺の境内で放心した娘が髑髏のかんざしで紙人形を刺した。紙人形に書かれた大野屋・秀を張っている弥八の前で、風呂の中の秀が刺し殺される。下手人の出入りはない。そして、次の予告の紙人形が見つかり、稲生らは張り込む。あいにく密室の刺殺事件の謎は合理的な解決がつかないが、操られた犬たちを稲生・弥八が斬る描写は見事。
生首のまき ・・・ 地蔵の首が落とされて女の生首が乗っているという事件が続けて2件発生。次の被害者になりそうなめぼしをつけた娘を見張るうちに、天草小天治の妖術がかかる。いったい何がうつつでどれが夢かはっきりしないさまを描く文章が、繰り返すけど見事。
雪女のまき ・・・ 雪の中、岡引が2人、首をかみそりで切られて殺された。深夜の見回りにでた弥八に怪異が起きる。雪の道から三本指の鬼の手が現れ、裸の女が襲ってくるのだ。涙は徳川家復讐の陰謀が準備されているのを見出す。雪降る中の大立ち回り。
河童のまき ・・・ 夜鷹が河童に誘われて入水した。続いて賭場を開いている旗本屋敷で落語会をしているさなかに、河童を見たという師匠が殺され、天草の陣羽織と金が盗まれた。質屋の流すつもりの陣羽織のかたをつけに稲生が出張る。小天治は四郎の陣羽織を手に入れてしまい、さあクライマックスへ。
怪火のまき ・・・ 夏の日暮れ時、浅草の向かいで怪しげな火が点ったかと思うと、宙を飛んで蔵前一帯の蔵を焼きつくす大火事になった。怪異のもとには首のない死体が6つ並び、弥八に稲生の前には死人が立ちふさがる。とうとう小天治の大陰謀の開始と見えた。稲生の大事にする自鐘器(時計)から夜光石が現れ、涙は夜光石の命じるまま、前世からの使命を伝えられた仲間(飲んだくれ坊主に、小僧に、娼婦の仕込屋など、勇気も特殊技能ももたない半端者ばかり)を呼び集める。そして、大川に怪火の点る夜、大決戦が始まった。


 素晴らしいな。それだけ。小事件の積み重ねで人物を造形し、大掛かりなクライマックスを構築する。江戸の夜空に映える大スペクタクルが読者を恍惚とさせる。その手腕に酔うだけだ。
 そこに過去の伝奇小説を思い出さるわ(国枝史郎八ヶ岳の魔人」講談社文庫)、昭和の時代劇を思い出せるわ(市川右太衛門旗本退屈男」シリーズ)、レイ・ハリーハウゼンのモーションピクチャを思い出させるわ(「シンドバッド黄金の航海」)とオタク心もくすぐらせる。作者のこだわりがつまった一編。「妖怪大戦争」をリメイクするなら、こっちを映画化するのがよい。