odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2024-06-01から1ヶ月間の記事一覧

筒井康隆「パプリカ」(中公文庫) 父権的な男の欲望を充足させるキャラでできた作者の過去作のパッチワーク。

先にアニメを見た(おもしろいともつまらないとも)ので、原作を読んだ。1993年初出。 精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢…

コリン・ホルト・ソイヤー「老人たちの生活と推理」(創元推理文庫) 被害者の関係をあいまいにし容疑者を増やすのに、犯罪には無縁そうな老人ホームを現場にしてしまう。

ミステリーの現場を拡大する試み。犯罪の動機をわからなくし、被害者の関係をあいまいにし、容疑者を増やすためには、19世紀の大家族は便利だった。しかし21世紀の核家族と個人の孤立化はそのような大集団を作ることが難しい。そこで、寄宿舎、下宿、ホテル…

ピーター・スワンソン「そしてミランダを殺す」(創元推理文庫) ストーリーもプロットも、さまざまな先行作を思い出して懐かしいなあという感想になる最近作。

2014年の作品だが、ずっと懐かしいなあ懐かしいなあと思いながら読んでいた。 実業家のテッドは空港のバーで見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻ミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて…

ロバート・ハインライン「宇宙の孤児」(ハヤカワ文庫) 世代を超える惑星間航行宇宙船はヨーロッパとアメリカのナショナルアイデンティティを喚起する。

少年ヒュウは友人らといっしょに入ってはいけないところにいき、手にしてはいけない本を見つけた。そこで彼らはミューティの襲撃にあい、命からがら逃げ帰る。老いた〈中尉〉がヒュウに目をかけ、彼を〈科学者〉にする教育を施した。長じたヒュウは再び入っ…

富原眞弓「ムーミンを読む」(ちくま文庫) シリーズを通じた家族の解体と再生。男性キャラはひがみやで空回りしてばかりで子供っぽい。

トーヴェ・ヤンソンのムーミンシリーズを「謎とき」風に読む。テキストに書かれていることを頼りに謎や意味を見出そうとする。過去に一通り読んだので、ストーリーのサマリーは作らず、読み達者による興味深い指摘を読む。なので、以下はそれぞれのストーリ…

富原眞弓「ムーミン谷のひみつ」(ちくま文庫) ヨーロッパの個人主義は、エゴと対立する他人をどうするかということを一生懸命考えて行動することなのだな

「ムーミンを読む」ちくま文庫で一冊ごとの分析をしたので、今度はキャラ分析を読む(出版は「ひみつ」が先)。 冒頭のムーミンシリーズのまとめが秀逸。・やさしくわかりやすく、ときとして説明的すぎる。・年齢や欲求に応じて、多重的に読み解く余地を与え…

富原眞弓「ムーミンのふたつの顔」(ちくま文庫) 作家であり挿絵画家である作者のシリーズにはいくつもの「ふたつの顔」がある。

「ふたつの顔」は多重的。この国ではムーミンはアニメ→児童文学→コミックスの順に知られているが、ヨーロッパではコミックス→アニメ→児童文学の順に知られているそう。アメリカではほとんど人気がない(なのでWWEがフィンランド遠征した時、日本出身のTAJIRI…

荒井献「ユダとは誰か」(講談社学術文庫) イエスの愛弟子の一人であり、ローマ当局によるイエスの十字架刑に至らしめた。それ以上のことは不明。

キリストの十二弟子の名前を諳んじることはできないが、ペテロとユダは例外的に覚えている。それはこの二人にはとても有名なエピソードがあり、信仰の核に触れるような問題を提起しているから。ことにユダは近代以降、自我の問題をみるようになってさまざま…

大貫隆「聖書の読み方」(岩波新書) あまり構えず、細部に拘泥しないでわかりやすいところから読みましょう。本書は内容を概説した「入門」ではないので注意。

聖書は、岡本喜八「肉弾」のセリフのように、「適当に面白くて、適当につまらなくて、どこから読んでもよくて、いつまでたっても読み終わらない本(引用は適当)」として読める。でも、聖書にアクセスしようとすると無数の問題がある。宗教書として読め、読…

弓削達「ローマはなぜ滅んだか」(講談社現代新書) 奴隷制と民族差別が帝国を滅ぼした

古代帝国の中では文献や資料が豊富であり、なによりヨーロッパの前身であるローマ帝国はヨーロッパ中心の世界史では重要な位置を占める。その栄枯盛衰(Rise and Fall)を見て、滅亡した理由を考える。 古代帝国は大陸にいくつもできたが、それとローマ帝国…

菊池良生「神聖ローマ帝国」(講談社現代新書) ヨーロッパを神権体制にする〈ローマ帝国〉は挫折したが、資本主義による世界システムがのちに世界を制覇した。

よくわかったのは、ヨーロッパはローマ帝国の遺風や遺産を強く意識していて、その後継者であることを誇りにしていること。たとえば皇帝はローマ帝国の制度において成り立つとされるから権威と権力をもてるのだ。しかも勝手に名乗ってはならず公的な手続きを…

岡崎勝世「聖書vs世界史」(講談社現代新書) 普遍史は聖書の記述に基づいて書かれた世界史。聖書より古いエジプトや中国の歴史にとまどう。

普遍史(ユニバーサル・ヒストリー)は聖書の記述に基づいて書かれた世界史。普遍史がかかれるようになったのは、古代ローマ時代で異教とされていたころ。キリスト教護教のために正当性を明かすために書かれた。以後、さまざまな教父が普遍史を記述してきた…

小泉丹「ラマルク『動物哲学』」(KINDLE) 普遍史が終わり人類の歴史が書きだされた時代に、ラマルクは種は変化すると主張した。フランス革命の時代精神が反映している。

ラマルクの「動物哲学」が電子書籍で入手できると喜んで購入したら、実は邦訳者による解説でした。もとは「岩波書店刊行 大思想文庫23」に収録とのことだが、いつの出版かKINDLEには記載がない。文庫版の「動物哲学」が出たのは1954年。ネットにでてきた「…

レオポルド・ランケ「ランケ自伝」(岩波文庫) 戦前の教養主義が規範とするべき保守的な学究によるプライベートがまったく書かれない自伝。

レオポルド・ランケは19世紀ドイツの歴史家。1795年に生まれて1886年に亡くなるという当時としては長命な人だった。この国では戦前から知られていた模様。本書の訳者の林健太郎が主要著作を翻訳している。でも、手軽に入手できたのは岩波文庫にあ…

川北稔「世界システム論講義」(ちくま学芸文庫)-1 世界システム論は、近代世界を一つの生き物のように考え、象徴としての「コロンブス」以降の世界はヨーロッパ世界システムの展開である

歴史をみるときに、国を単位として展開するとみる一国史観と、国は同じ一つのコースに沿って競争するという単線的反転段階史観。これらの見方はやめよう。かわりに、近代世界を一つの生き物のように考え、近代の世界史を有機体の展開道程としてみるシステム…

川北稔「世界システム論講義」(ちくま学芸文庫)-2 ヨーロッパは政治的統合体を作らなかったから世界システムを作れた

2024/06/04 川北稔「世界システム論講義」(ちくま学芸文庫)-1 世界システム論は、近代世界を一つの生き物のように考え、象徴としての「コロンブス」以降の世界はヨーロッパ世界システムの展開である 2016年の続き なぜヨーロッパは世界システムをつくるこ…