odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

小泉丹「ラマルク『動物哲学』」(KINDLE) 普遍史が終わり人類の歴史が書きだされた時代に、ラマルクは種は変化すると主張した。フランス革命の時代精神が反映している。

 ラマルクの「動物哲学」が電子書籍で入手できると喜んで購入したら、実は邦訳者による解説でした。もとは「岩波書店刊行 大思想文庫23」に収録とのことだが、いつの出版かKINDLEには記載がない。文庫版の「動物哲学」が出たのは1954年。ネットにでてきた「岩波書店刊行 大思想文庫」の書影を見ると、1950年代の出版だろう。

 1985年に復刻されていて、それは国会図書館や各地の大学図書館が所蔵しているようだ。

ci.nii.ac.jp


 入手先はリンクから。
小泉丹「ラマルク『動物哲学』」岩波書店刊行 大思想文庫23
https://www.amazon.co.jp/gp/product/
 小泉丹訳の「動物哲学」は第1部だけだが、その理由は本書によると第2部と第3部が19世紀に再刊されなかったので入手難だったためらしい。ここには第2・3部の章題が載っているが、読む限り進化の論はほとんど書かれていなさそう。もしかしたらこちらの別訳では第2・3部も読めるかもしれない。
科学の名著 第Ⅱ期 5 ラマルク : 動物哲学

https://www.amazon.co.jp/dp/B01MXKIKEH/

 本書はラマルク「動物哲学」の要約。とても分かりやすい。さらにコンパクトにすると、「動物哲学(訳者によると「動物学原論」のほうが適切とのこと)」の主張は
1.系統は樹枝状
2.種は恒久的ではなく、変化する
3.突然発生で生まれた種が簡単なものから複雑なものになる。それまでの博物学で言われていた遞降(ていこう、degradiation)と単純化は誤り。
4.個体の変化と環境要因で種は変化する
5.人類の由来は猿(解説者によるとたぶん最初に主張したのがラマルクとのこと)。
 このまとめは俺の読みと同じでした。ああよかった。

odd-hatch.hatenablog.jp

odd-hatch.hatenablog.jp


 ラマルクは種の「進化」を強い主張にしているわけではない。種を分類する便宜として種の変化を説明しているだけ。それを強い主張とみなしたのはエルンスト・ヘッケルだと著者はいう。ダーウィンの主張が学界と社会を席巻しているときに、ヘッケルはラマルクを持ち上げたようだ。ヘッケルは宇宙的で霊的な進化を構想(妄想)している哲学者なので、種は主体的に変化していくという主張は同志をみつけたようなのだろう。でも、彼の持ち上げ方はひいきに引き倒しだった。その影響を受けているのか、小泉丹の解説でも「反復された努力」が種の変化の要因であるといっている。キリンが首を伸ばしたのは「努力」によるのだと小泉は書く。「動物哲学」に出て来たよりも多くの回数で「努力」を書く。俺からするとラマルクが筆を滑らせたので、ラマルクの主張とするのは誤りだ。でも、この説明はその後の高校教科書にもでてくるので、のちの人は改めてほしいなあ。

 ラマルクが「動物哲学」を出版したのは1809年。この時代には、人類の歴史を聖書の記述にそわせる普遍史(ユニバーサル・ヒストリー)が廃止されていた。普遍史の詳細は下記を参照。

odd-hatch.hatenablog.jp


 ラマルクが種の変化や系統樹を考えたのは、歴史に対する認識の変化があったのではないかと妄想。彼はフランス革命の渦中にあり、革命政府によってパリ・ミュージアムが廃止されそうになるのを説得して存続させた経験がある(あまりよい職を得ることはできなかったが、無脊椎動物部門の責任者になったことは「動物哲学」を書くきっかけになった)。権勢をほこった王政が環境の激変で倒され、新しい体制になるのを目撃した。それは進化や種の変化のアイデアに影響したのではないかしら。ラマルクの「動物哲学」にはフランス革命とそれ以後の時代精神が反映している。

 


小泉丹「ラマルク『動物哲学』」(KINDLE)→ https://amzn.to/3UVNLpU
ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)→ https://amzn.to/4an4jg9
ラマルク「動物哲学」(朝日出版社)→ https://amzn.to/4armNvO