odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

大貫隆「聖書の読み方」(岩波新書) あまり構えず、細部に拘泥しないでわかりやすいところから読みましょう。本書は内容を概説した「入門」ではないので注意。

 聖書は、岡本喜八「肉弾」のセリフのように、「適当に面白くて、適当につまらなくて、どこから読んでもよくて、いつまでたっても読み終わらない本(引用は適当)」として読める。でも、聖書にアクセスしようとすると無数の問題がある。宗教書として読め、読み方の正解はこれ、という圧力があるという思い込みがある(まあカルト宗教の看板や街宣、起こした事件などがきっかだ)。読みだした後でも、聖書の記述は近代の文学の作法に則っていないし(断片が羅列されてつながりがわからない、時と場所が一致しないなど)、近代科学に反する記述がある。読者の常識に反することがたくさんあるので、引っかかって反発してしまう。それに長い。いつまでたっても終わらない。律法や説教の話は難解でつまらない。世の中には参考書や研究書がでているが、ありすぎてどれを選んでよいのかわからない。そんなこんなで、世界のベストセラーでありながら、日本ではとっつきにくく、入門してもすぐに離れてしまう。

 というわけで、聖書の研究者による読み方指南を読む(内容を概説した「入門」ではないので注意)。そうすると、聖書を宗教の聖典/正典とするのではなく、読者の気づきや自己変容のきっかけになればよいとする。(たぶん)キリスト教の肝心かなめはイエスの受難と復活を信仰するところにあるが、ここは近代科学と日本の生活の常識からは理解しがたい。信仰に至る前に引っかかってしまう(俺もそう)。しかし、理解や信仰については棚にあげてよいとする。
 まず3000円くらい出して聖書を買おう。そのあと、著者がアドバイスするのは次のこと。著者はキリスト教の研究者(グノーシス派の研究で有名)なので、新約聖書(のうちの福音書)に焦点をあてる。

キリスト教という名の電車―降りる勇気と乗る勇気 ・・・ 先人や集団が聖書に書かれた「真実」「真理」を唱えているけど、カッコに入れておきましょう。他人の読みを考慮すると、自分を懐疑したり否定したりしてしまう。

目次を無視して、文書ごとに読む ・・・ 旧約新約あわせて数十の書があるけど、最初から最後まで読む必要はない。とりあえずひとつの「書」は通読しましょう。その「書」のなかのつながりを考えましょう。拾い読みはやめましょう。

異質なものを尊重し、その「心」を読む ・・・ なにしろ2000~4000年前の中近東の砂漠で牧畜をしていた民族が書いたもの。日本人が違和を持つのは当たり前。でも、彼らが神を求めたり自分を律したりした気持ちは尊重しましょう。

当事者の労苦と経験に肉薄する ・・・ 預言者やイエスの周囲にいた人たちは、彼らを裏切ってしかし再度集まったという経験をしている。なぜそういう認識に至ったかは書かれていないので、文章のなかから読み取ろう。それはイエスの比喩や奇跡を読むときでも同様。その話を聞いた人たちになって考えてみる。

即答を求めない。真の経験は遅れてやってくる ・・・ わからないことはわからないでよいのであって、時々思い返したときに、もしかしたら「わかる」(自分の体験に照らし合わせて納得できる、自分の言葉でいいかえることができるなど)ときが来るかもしれないから。

 以下は俺の補足。聖書だけだと背景がわからないので、聖書が書かれた時代の歴史も知っていたほうがよい。イエスの生きた時代からローマ帝国の国教になるまでの過程も知っているほうがよい。高校の歴史教科書より少し詳しいものがいいな。

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 著者と似たスタンスで、聖書を全部読んだ猛者の記録。

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 本書では大部な聖書をどこからよめばいいかは示していないが、聖書の中では、創世記・出エジプト記ヨブ記、4つの福音書使徒行伝を読めばいいと思う(というか自分はその程度しか読んでいない)。 あまり構えず、わかりやすいところから読みましょう。

 以下は福音書を読むときに知っているとよい情報。
1.福音書は、イエスの死後、様々な資料を使って、複数の教団が別々の言語で作った。資料から見た福音書の関係。

2.イエスの生誕から復活まで。



 聖書を読もうとすると、知識の多重ネストに絡みつかれて収拾がつかなくなる。そのさい、これを手元において参照するのがいいんじゃないかな。荒井献は大貫隆の師匠。ところどころで最近の若い優秀な研究者として大貫隆を紹介していた。

odd-hatch.hatenablog.jp

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