odd_hatchの読書ノート

エントリーは2200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。

レイ・ブラッドベリ「悪夢のカーニバル」(徳間文庫)

 1984年出版の短編集。1920年生まれのブラッドベリ雌伏の時代で、片端から書き飛ばしたもの。ここでは犯罪、サスペンス、ホラー小説を収録。作者24-28歳の若書き。この時代、作家は年長の女性SF作家リー・ブラケットの指導を受けて、たくさんの短編をパルプ・マガジンに投稿していた。半分は、本邦初訳。いくつかは他の短編集に収録されたものもある(と思う、なにせ記憶があいまいで)。

屍体カーニバル1945.7 ・・・ シャム双生児のラウルはロジャーを嫌う。空中ブランコの花形ディアドリの愛を邪魔するから。ロジャーがサーカスで殺されたとき、ラウルはロジャーを切り離してもらい生き延びた。サーカスに帰ると、誰も(さまざまなフリークス)がラウルを嫌い、もっとも嫌っているラルも殺される。ラウルの孤独な犯人捜しが始まる。

銀幕の女王の死1944.8 ・・・ 映画スターのダニエル・コイルが本番撮影中に毒を飲んで殺された。彼女はスターだったが、スタジオの同僚はみな彼女のわがままを嫌っていた。受付係で彼女のファンのクリーブが三年越しで真犯人を追跡。のちの「黄泉からの旅人」のはるかな前駆作。

長い夜1944.7 ・・・ メキシコ人の住むアパートで火事が起きる。そこではボイラーマンが殺されていた。メキシコ人に反感をもつナチは暴徒となって、アパートを襲った。事件の真相をつかむためにメキシコ人の少年はアパートを走りまわる。兄が殺され、事件の真相をする占い師が殺される。たった一人で暴徒と殺人犯に対峙する少年の焦燥と孤独。初出年がないとわかりにくいな。

わが怒りの炎1944.11 ・・・ 有名な舞台女優の夫が首を斬られている。自殺か、妻の女優の殺人か?視点はなんと死んだ夫。ゾンビが語り、真相は彼が持って行ってしまった。

地獄の三十分1945.3 ・・・ 目の不自由なコールドウェルが部屋を荒らされたうえで殺されていた。それには30分もかかっている。いったい誰が殺人をしたのでしょうか。

幼い刺客1946.11 ・・・ 赤ん坊を出産したばかりの若夫婦の疑惑。赤ん坊は自分を生んだことを憎悪しているのではないか。

はるかな家路1945.11 ・・・ 奥さんの浮気に悩む男が「人を殺してきた」と告げ、すぐに逃げることにする。途中であった警官に妻は「人殺しなの!」とさけぶ。照会するとすぐ近くで殺人があった。男は殺人なぞしていないのに、どこからおかしくなった?凝ったプロットのサスペンスとドンデン返し。

用心深い男の死1946.11 ・・・ 血友病患者で作家のロブは用心深い生活をしているが、元妻のアンは麻薬に負けて町のギャングのボスを付き合っている。それから彼のもとには、傷をつけるようなものが送られてきて。アンは寄りを戻そうと言い出し、海水浴にでかけた。

悪党の処理引き受けます1944.11 ・・・ 元警察官のダウザーは私立探偵になって、町の悪党を退治する決意を固めている。今度のターゲットは、ギャングのボス、シャーボルト。遊園地で大立ち回り。

悪党どもは地獄へ行け1944.12 ・・・ 今度のターゲットは、悪徳弁護士のラホスに、悪党俳優ドラムの4人の仲間。ダウザーは彼らのアジトに乗り込む。ダウザーは銃も拳も使わない。舌先三寸の口だけで彼らを動揺させ追い詰める。ここがハードボイルドの探偵とちがうところ。

トランク・レディ1944.9 ・・・ パーティの夜、屋根裏部屋でトランクの中に美女が殺されているのを子供ジョニーが見つけた。大人たちに興奮して報告すると、誰も知らないというし、トランクにはマネキンが入っていた。大人たちの不思議な沈黙。ひとりで焦るジョニー。彼を理解しようとする叔父だけがジョニーの話を聞いてくれて。

ぼくはそれほどばかじゃない!1945.2 ・・・ ミスター・シモンズが殺されていた。現場に居合わせた知的障害のぼくは、みんなのおはやしにのって探偵をすることになり、見事に解決した。ラストのパンチラインを読んでから、冒頭を読み直すこと。ちゃんと謎はそこで明らかにされていた。

生ける葬儀1947.9 ・・・ ろくでなしの弟リチャードは、専制君主であるチャーリーが棺を作っているのを冷ややかに眺めていた。出来上がりと同時にチャーリーは死に、リチャードは使わなかった棺の中に入ってみた。

死者は蘇らず1945.7 ・・・ マフィアが女をさらって身代金を取るつもりでいたが、女を殺してしまった。それからマフィアのボスが無口になり、ボディガードの「私」は不安になる。マフィアのボスも純情なんだなあ。

お菓子の髑髏1948.1 ・・・ 作家のロビーは失踪した友人ダグラスを探すためにメキシコ(シティ)に来ていた。メキシコの美女セリアがカーニバル中のシティを連れまわす。お菓子の髑髏、おもちゃの葬儀、だれかの発砲。ダグラスもロビーもメキシコの民俗にのみ込まれたのだな。のちに作家はメキシコを舞台にした短編をいくつも書いた。


 犯罪ものとしてはまあ水準というところかな。作家はチャンドラー、ハメットを目指したというが(当時の人気作家でハリウッドに招かるほどの売れっ子)、同じ時代にアイリッシュ、H.スレッサー、F.ブラウンなどのサスペンス、犯罪小説の有能な書き手がたくさんいたのがまずかった。彼らのストーリーほどの切れと暴力のカタルシスがない。
 そのかわりに作家には、センチメンタリズムとリリカルな抒情性がある。それはファンタジーやSFでは他の追随を許さないほどの有利な点になり、次第に彼はこちらを量産するようになる。その結果が「火星年代記」「刺青の男」など。作家がサスペンスや犯罪小説にこだわらなくてよかった。同じ駆け出し時代の作品を集めた「火星の笛吹記」と比べると、その違いが歴然とする。
 前書きによると、「長い夜」と「トランク・レディ」がよくて、あと「幼い刺客」も自信作との由。この自己評価は正しいと思う。