odd_hatchの読書ノート

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菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-2 過去の人が一所懸命考えた神道の原理や説明は忘れられて、日常の所作と道徳だけが日本人に定着している

2024/07/29 菅野覚明「神道の逆襲」(講談社現代新書)-1 日本人は神のことを考えてきたが、外来思想の言葉に頼らないと言語化できなかった。 2001年の続き

 

 後半は近世と近代の神道儒教国学の影響や反発において神道の流派が生まれる。

神儒一致の神道 ・・・ 近世の神道儒学を取り入れて体系化した。その例を山崎闇斎垂加神道にみる。この神道では朱子学の厳しい上下関係が特長であり、下たる者の道であることが強調された。

神道の宗源は土金にあり ・・・ 垂加神道の神髄は土金(どこん)の伝授という陰陽五行思想(なので「易経」を重視)と中世の付会的(記紀)神話解釈がまざりあったもの。天照その他の神のような聖人になることが目標であり、天皇が道を体現している。なので君臣は天皇に忠誠を尽くすという君臣道徳となった。日常の道徳観を強化したようであるが、日常道徳の徹底によって向こう側の世界を現出しようとするものであった。日本は形而上的なひとつの統一体であり、一個の巨大な身体であるとされる。なので成員が自分を鍛えることと日本に悪する物を武力で退治することが同じこととされる。
(なるほど、神道右翼が個と国家を同一視するのはそういうわけか。異物や悪の排除や退治を主張するのもここから。あと、神事に関係する職業(たとえば鍛冶や刀剣つくりなど)で道や精神が強調されるのもここから。)

危ない私と日本 ・・・ 江戸半ばに和歌・歌学革新運動が起こる。和歌の享受が宗門化され、厳格なルールに従うものになっていたから。彼らの規範は古今集であったが、革新側は万葉集に自由と平等が実現している理想世界を見た。万葉集研究から記紀研究に行き、実証主義的な学問すなわち国学が生まれ、神道体系に影響を及ぼす。当時の儒教的な神道が道徳(理、公)を優先したのにたいし、歌(文学・情・遊び・私)などを重視した。こうして復古神道にいたる。

人はなぜ泣くのか ・・・ 本居宣長の「物のあわれ」論を母の喪失をキーワードとする思想として読む。
(とても重要なことが書いてあるようだが、宣長に興味を持てず、目が滑ったので、サマリーはなし)

魂の行方 ・・・ 平田篤胤の幽冥論。聖性の原理としての男女和合の原理。そこからの子孫繁栄を目的とする家族主義の成立。このような復古神道が地方の神主・名主に浸透し、そこから農村指導者に普及した(島崎藤村「夜明け前」の例がある)。



(江戸末期から幕末にかけて復古神道は草莽の国学者を生んで、社会運動にいそしんだらしい。国家神道と対決したのか、それとも屈服したのか、挫折したのかには興味があるが、本書では社会学歴史学は登場しない。あと柳田国男は平田派神道の神主の息子なんだって。彼の著作は復古神道の影響が強いのだろうなあ。あまり興味がないのでスルー。)

神さまの現在 ・・・ 20世紀の神道。影響を受けていると思われる柳田国男折口信夫。あるいは手塚治虫の「鉄腕アトム」、井上ひさしひょっこりひょうたん島」。

 

 神道はまとまった教義はないよ、教典もないよ、とはよく言われることだが、生活が宗教そのものであるとか道徳の根源になっているとかで口承で日本人に浸透しているとみたほうがよいようだ。平田の幽冥論などは仏教の地獄観とごっちゃになってこの列島に住む人には親しいし、自然物への信仰(というか無条件の礼賛)や心霊現象への親近感の理由になっているだろう。本書でわかるのは吉田神道にしろ復古神道にしろ(国家神道にしろ)、過去の人が一所懸命考えた原理や説明は忘れられて、日常の所作と道徳だけが日本人に定着しているということだ。それはすなわち、本居宣長平田篤胤その他の思想家・研究者が書いたものを勉強しても、どうやらこの国の国民の思想には届かないのではないか。柳田や折口のように日常言説をたどるほうが神道に近づけるのではないか。という気がする。勝手な妄想だけど。
 自分の興味は、国家神道のほうにあるが、本書では無視されている。なので、別書で補完しておくことが必要だ。国家神道が天地の創造神である天照大神天皇とのつながりを重視するのに対し、復古神道ではイザナギイザナミの国の生成神話のほうが重要になる。これらの神々と天皇とのつながりはあまり強調されない(本書が意図的に書かなかったのかもしれないが)。この違いは不思議。この二つの神道はどうつながっているのだろう。比較研究がないものか。
 天皇が国を治めるようになってからの他国武力侵略や植民地の正当化は本書では触れられなかった。国家神道ではこれは思想のポイントになっていて、暴力是認・戦争肯定になる。復古神道ではどうなのか。
 神道になぞ興味を持ったことはなかったのに、極右やレイシストに対抗する都合上、勉強を始めてしまった。指して深い思想でもないし、興味は持続しないし、この国の歴史のダメさを再確認することになるので、さっさとやめたい。

 

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