odd_hatchの読書ノート

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ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 下」(岩波文庫)

2014/11/27 ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫) の続き。

 ロシア革命といっても10月革命の「十日間」ですべてが決したわけではない。その前後にも、さまざまな重要な出来事があり、人々が右往左往しながら物事を決めていった。その期間は人によって異なる。たとえばエドワード・H・カー「ロシア革命」(岩波現代選書)では1917年から1929年までを記述しているし、レフ・トロツキーロシア革命史」(岩波文庫)では1917年2月から11月までを記述する。そして、このルポはあくまで著者リードの見聞の範囲に記述は限定されているので、ますます本書で全体像を見ることは難しい。そこで、上記カーやトロツキーロシア革命史などで補足しておくことは重要だ。

 本書でのリードの立ち位置は明確で一貫してボリシェヴィキを正当化する、あるいは自身の考えと一体化している。なので、ボリシェヴィキおよび革命の参加者の描写、情報の載せ方には取捨選択が行われていると思われる。それはほかの証言と突き合わせることが必要。たとえば、革命参加者や赤衛軍は冬宮、クレムリン、貴族の館の占拠や接収をおこなったとき、略奪がなかったし、人々に危害を加えなかったとするが、そうではない。ナボコフほかの亡命ロシア人にはそうではなかったという証言がある。また、労働者や農民、兵士への非暴力と寛容があったように描かれるが、食料と物資不足になった時、暴力的な徴発がのちに行われていたのだった。
 そのような視点をもってみるとき、とりわけ「第11章 権力の獲得」はのちの共産党政権の問題を予感させる行動が多々出てくる。主人公はボリシェヴィキレーニン一派。彼らは人民会議の主流派ではあるが、その強引な執行には批判が起きていた。しかし、ボリシェヴィキレーニン一派は次のような方法をとる。ブルジョア反革命の出版を規制する「出版物一般取締法」は11月13日の人民会議で廃止が提案されるが、これを拒否する。彼らに対抗する諸派が多数を占める救済委員会やドゥーマは11月末までに解散される。人民委員会でメニシェヴィキや社会革命党などの対抗提案はことごとく拒否・否決し、彼らを自主的に脱退に持ち込む。ボリシェヴィキの批判派が人民会議の中央委員をあいついで辞任したとき(ジノヴィエフカーメネフら)、レーニンボリシェヴィキの党規約違反だとして弾劾し、各地のソヴェトからレーニン一派支持の電報を集中させる。議会においては多数派であることで少数派を排除し、党の権威で批判派を弾劾し、下部組織の「自発的な」支持決議を集めることで党と一派の権威を集め、民兵の代わりに直接指示できる赤衛軍を使って批判派を封じ込める。
 リードは革命の権威が人民会議と救済委員会に集中する理由を「ケレンスキーの逃亡と各所におけるソヴェトの驚異的成功」に求める。そのソヴェトの成功をボリシェヴィキが簒奪し、党を支える下部組織に再編している(ここらはトロツキーロシア革命史」に詳しいと記憶)。
 またボリシェヴィキは都市プロレタリアート、兵士に基盤を持っていたが、インテリ・官吏・農民には支持されていなかった。本書でも農民への土地改革案などの農民向け政策は社会革命党の焼き直しであったと指摘され、トロツキーらはそれを隠さない。このように支持基盤が弱く、とくに食料生産を行う職能に支持されていないことが革命時の都市と軍隊の危機を招いた。議論や説得では彼らの支持を得ることができない。それは本書に何度も登場する。しかし政権をつくり、さまざまな政策を決定しなければならない(最優先は休戦と食料調達であった)。そのとき、ボリシェヴィキ草の根民主主義を簒奪する。自発的に組織化されたソヴェトに党員を送り込み、強引にヘゲモニーを握り、党を支持する決定を上げる。それが上の組織に向かって伝達され、党が人民の意思を組んだものだという証拠にする。それでも従わないときは赤衛軍を使って暴力的に敵対組織を破壊する。それが全国的に行われたのは、さらにのちのことである(うまく利用したのはスターリンか)。この「成功」がボリシェヴィキの方法になり、のちに何度も繰り返される。そして官僚制と収容所群島に至る。その端緒はすでに「世界をゆるがした十日間」の革命の最初期にあらわれていた。
 街頭に出て高揚する労働者、市民、兵士、農民の姿は美しい。あと革命といえど、日常の暮らしが淡々と行われていることも重要。冬宮襲撃の夜にはマリインスキー劇場でオペラか演劇が上演されていた。そこに目を奪われると、この革命の弱点や問題点が糊塗される。まあ、われわれは1989年の東欧とソ連の政権の転覆を経験していて、同じように人民・大衆が官邸や議事堂を取り囲みながら、戦闘行為が行われず、スムーズに新政権に権限が委譲された例を知っている。20世紀の「社会主義革命」の二つの型を比較して、これから起こりうる民衆・民俗革命や政権の転覆(改革、転換)を検討できるようにしたい。
 そろそろロシア革命から100年になるのか。自分があえて批判的にこの本を読んだのは、以上の意図と視点を持ち込んだため。