初出の時から繰り返し読んだので、何回目の再読なのか回数はわからない。クラシック音楽を聴き始めた時に出版されたので、そのあとの音源集めの参考にした。まあ、この本の指揮者のもの、できれば本文で取り上げられたものを購入する、ということをしていたのだった。新潮文庫版では、巻末に当時の邦盤のディスコグラフィーがのっていたので、これも便利だった。繰り返し眺めることによって、それぞれの指揮者がどういう分野が得意かがわかったので。入手できたレコードには〇をつけていて、まあ、自分の黒歴史みたいなもんだな。
なので、しばらくはこの本の評価を自分の選択のスタンダードにしたのだった。そこで否定的な評価をされているものはおのずと避けることになった。すなわち、スヴェトラーノフの「春の祭典」とか、セルの「ワーグナー管弦楽曲集」とか、バルビローリの「ブラームス交響曲第2番」とか、クリュイタンスの「ベートーヴェン交響曲第7番」とか。自分がレコード購入に避ける金額が少なかったので、そうなったのは仕方ない、と自己弁護。あとで、これらが廉価盤になるとか、インカムが多くなってCD購入に割ける費用が増えたとかで、改めて聞きなおす機会を持つと、別の評価をもつようになる。なるほど吉田翁のいうような視点では「ダメ演奏」かもしれないけど、その「ダメ」なところがチャームにもなるんだな、と。そうなるには、自分の年齢を重ねることが必要だったし、CD/レコードショップの売り方や、消費者の性向の変化などもあった。クラシック音楽を教養で聴くとか、自己修練用で聴くとか、勉強の一環として聞くとか、そういうあらえびすや丸山真男や五味康祐みたいな聴き方をしなくなったのが大きい。取り上げられた指揮者は登場順に、
ヴァルター(ママ)/セル/ライナー/サバタ/クリュイタンス/クレンペラー/ベーム/バーンスタイン/ムラヴィンスキー/クナッパーツブッシュ/トスカニーニ/ブッシュ/マゼール/モントゥ/ショルティ/クラウス/ブレーズ/ミュンシュ/フルトヴェングラー/ジュリーニ/バルビローリ/クーベリック/ターリッヒ/アンチェルル(ママ)/ロジェストヴェンスキー/フリッチャイ/アバド/カラヤン
(表紙のイラストは吉田翁から左回りに、バーンスタイン、ワルター、フルトヴェングラー、ベーム、トスカニーニ、カラヤン)
もちろん著者は1970年前後の「世界の指揮者」を網羅した百科事典をつくったわけではない(あとがきに書いてある)。なので、漏れがあるのは当然。で今は、著者が取り上げなかった指揮者が気になる。当時活躍していた、あるいは没後10年以内あたりの指揮者で思いあたる人をリストアップしてみようか。
米: ストコフスキー、オーマンディ、ドラティ
英: ボールト、ビーチャム
仏: マルティノン、フルネ、パレー
独: コンヴィチュニー、カイルベルト、ケンペ、シェルへン、チェリビダッケ、ヨッフム、クライバー(パパ)
東欧: シルヴェストリ、クレツキー、ザンデルリンク、マタチッチ
ロシア: コンドラシン
古楽: リヒター、ミュンヒンガー
若手: メータ、サヴァリッシュ、レヴァイン、小澤、クライバー(息子)
あとは当時の国内オケで常連になっていたノイマン、コシュラー、スィートナーなどもスルーされている。ワインガルトナー、メンゲルベルクのような故人でも取り上げられなかった人がいる。職人肌で個性をだすことより伝統を継続しようという人や実績の少ない人が取り上げられなかった。気になるのは、最初のストコフスキーやオーマンディを取り上げなかったことかな。前者はさまざまな編曲や恣意的解釈が、後者はゴージャスな音響はあるけど「精神性」皆無なところ(来日演奏会批評でオーマンディを取り上げたことがあるが、まとめるとそういう意見)がきにいらなかったのかしら。クラシック音楽を教養とする立場からすると、彼らはおちゃらけていて、金のために棒を振っている、それは悪いことだということになる。
今の僕らは、なるほど教養は大事だ、ただ教養をベースにしたものさしだけで演奏や指揮者を評価し序列を作るのは愚だというところにいる。なので、著者のリストにとらわれずに、今の演奏家を聞くことが大事。そして、著者の音楽の聴き方はとても参考になるし、彼のように細部も鳥瞰も見通せるようになりたい。
(といって、自分の経験だけで評価し序列をつくるのも愚。)
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