odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-2

2020/03/12 別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)-1 2019年

 

 続いて後半。論文の中で言及されている事案(デモや裁判など)について、別冊法学セミナー「ヘイトスピーチに立ち向かう」(日本評論社)補注のページを作り、Togetterまとめやネット記事などを掲載した。画像や動画のリンクもあるので、何が起きたかを把握するのに役立つことを期待。

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第3部 地方公共団体ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチ解消法を受けた地方公共団体の取組みと課題 (中村英樹) ・・・ ヘイトスピーチ解消法は地方自治体に取り組みの責務があるとしている。そこで2019年夏までの地方自治体の取り組みを紹介。ヘイトスピーチ抑止条例施行、公共施設の利用不許可、訴訟支援策(大阪市で条例に加える予定であったが議会の反対で条例から削除)、罰則規定など。公共施設の利用制限は京都市宇治市亀岡市、東京都などで実施されている。

大阪市によるヘイトスピーチへの取組み(田島義久) ・・・  法学セミナー2018年2月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム III」(日本評論社)に加筆。大阪市の取り組みの詳細は上記の補注ページを参照。自治体の条例ではできないことがあるので(プロバイダー業者から情報提供など)、ヘイトスピーチ解消法の改正と国内人権機関の設立が急務。

川崎市によるヘイトスピーチへの取組み(師岡康子) ・・・ 法学セミナー2018年2月号「ヘイトスピーチヘイトクライム III」に加筆。2016年以降に悪質化した川崎市内のヘイトデモや街宣の様子。それに対する抗議。川崎市の行政の対応、条例化など。2019年末制定を目指す罰則付きのヘイトスピーチ抑止条例への期待と改善提案。市民のあとおしが行政を動かしている。

 

第4部 差別のない社会をつくりだす

人種差別撤廃条約とその国内法化(阿部浩己) ・・・ 世界人権宣言、人種差別撤廃条約などを国内法に反映することが必要(その運用には個人通報制度と独立した国内人権機構の設置が急務)。ヘイトスピーチ規制は表現の自由とかかわる。表現の自由は絶対的ではなく他の基本的権利の享受を損なうものであってはならない。表現には個人や集団のおかれている社会的位置が不均衡であれば、思想の自由市場の成立そのものが成り立たない(ヘイトスピーチのターゲットになるマイノリティにおきる沈黙効果)。ヘイトスピーチ規制では感情的要素を含む概念(「憎悪」「扇動」「敵意」など)があり、運用に困難があるので、明確化する必要がある。ヘイトスピーチには、犯罪を構成すべきもの、刑事責任の対象になりうるもの、違法ではないが十分な廃墟が必要とされるものと把握できるので、明確化が必要。

ヘイトクライムへの修復的アプローチを考える(中村一成) ・・・ 法学セミナー2015年7月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム 」(日本評論社) に加筆。

「加害者の『反省』は対話成立の前提中の前提だが、京都事件をはじめ差別事件を起こしたレイシスト集団メンバーの大半は、見事に『禁忌』の要件を満たしている」(P196)

 「法的規範の欠落、差別でありいけないことという感覚がない」というのは、彼らの動向を監視してもそのように思う。レイシストへの修復的アプローチは困難。といって、警察に任せる風潮があるが、これも危険であるとのこと。いろいろ問題があるが、マイノリティに「土人」「シナ」発言をし、許す警察官にマイノリティのニーズや脆弱性を理解できるのか。警察官の人権教育から始めないと(なにしろ警察官養成雑誌にナチス礼賛のレイシストが原稿を書いているくらい)。

[座談会]
解消三法(障害者差別解消法・ヘイトスピーチ解消法・部落差別解消法)と差別のない社会の構築への道(金尚均西倉実季・山本崇記・寺中誠) ・・・ 2016年にタイトルの3法ができた。一方で、ヘイトスピーチヘイトクライムが多発している。日本はずっと「成人」「男性」「健常者」が社会の中心にいてマイノリティを分離・隔離する政策をとってきた(「富国強兵」「お国のために」スローガンはその強化につながる)。マジョリティ優先の考えが社会に蔓延し、被差別者の存在にたいし「ひがみ」「逆差別」といって差別意識を持つようになり、ヘイトクライムを起こすようになった(個別事件の犯人の理由と原因の追究はよくない。問題の矮小化や差別意識の拡大につながるなど)。被害の拡大と再生産を止めることが急務。差別解消の大衆的・市民的な取り組みとの連携が必要。被差別者への合理的配慮は過大な要求でも特別扱いでもない。解消3法の問題は、包括的な差別解消法がなく、個別的な対応だけ。人権政策と人権救済機関が必要(国連人権委員会から繰り返し設立を勧告されていてずっと無視)。修復的アプローチの試みも続けよう(人権教育や救済機関の設立とセット。そうでないと加害者の反省や法的規範の共有が生まれない)。

 

 別冊法学セミナー「ヘイトスピーチとは何か」と「ヘイトスピーチに立ち向かう」は国内の人種差別問題を考える際の基本文献なので、読んでください。