「しばき隊」のことは、笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)でも触れられていた。
笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1 2016年
笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-2 2016年
そのときはせいぜい二章しか割けなかったので、2013年のトピックだけだったが、ここでは著者の個人的な関わりから始まる数年間の軌跡が語られる。社会のヘイトスピーチの露出や在特会の出現などは、ゼロ年代から始まっているが、注目を集めることがなかったので、放置されるか、ごく少数の抗議者しかいなかった。警察も取り締まらない。増長したレイシストの街宣やデモを苦々しく(悔しく)思いながら見るしかなかった期間が長い。
逆転したのは、2013年の1月末からのこと。SNSでその活動をみていた側からは、彼ら「しばき隊」の活動は確信をもった決然としたもののように思えたけど、中では討議があり、逡巡があって、外からはうかがい知れない葛藤があったのだね。それを支援したのは、「しばき隊」とは無関係にヘイトの現場に無数の個人が集まったから。彼らがしばき隊がやらないことをやるようになったり、ヘイトや警察との直前に立ったり(しばき隊がその際のフォローに回ったのはフットワークのよい証拠)して、呼びかけ人の思惑を超える動きになったこと。ここには感動(まあ、自分も2013年には6/30と9/8に頭数になりに新大久保に行きました)。
呼びかけ人の思惑を超える事態がおきるというのは、社会運動には多々あって、それこそ60年安保でもそうだし、ロシア革命(の2月革命)でもあった。その点に注目すると、この本はリード「世界を揺るがした十日間」のような大衆とか個人の組織の乗り越えを描いたものになる。この主題が出てくるのはめずらしい。
(本書の記述は軽く、ユーモア交じりであって、そこかしこでほくそ笑むことができる。しばき隊初出動で「警視庁からしばき隊への問い合わせがあったので、総人員500名、ロケットランチャー5台、AK-47が30丁、MP5が50丁、青龍刀部隊20名超と答えておきました」と答えたくらいなのだし。
警視庁からしばき隊への問い合わせがあったので、総人員500名、ロケットランチャー5台、AK-47が30丁、MP5が50丁、青龍刀部隊20名超と答えておきました。http://t.co/Dfo4dFmV
— 野間易通 (@kdxn) February 3, 2013
とはいえ、背後のプレッシャーはきびしかったようだ。ネトウヨ、冷笑系、左翼系からたたかれ、嫌がらせを受けて・・。その韜晦があの文体になったのではないか。と書いたところで、筆が止まるのは、ヘイトスピーチのターゲットにされている人はこの程度ではないわけであって、そこのところまで推し量れない自分は、腑抜けのマジョリティに他ならないと痛感する。)
「しばき隊」の活動で気に入ったのは、活動のあとの打ち上げや懇親会を行わないという考え。呼びかけ人が嫌ったというのがあるが(いっぽうで、クラブやトークのイベントを企画開催しているので、人嫌いというわけではない)、抗議者の運動をゲゼルシャフトのような組織にしないという意志があった。これは在特会やその界隈が組織を作り、メンバーに役職を与え、綱領や規則に従わせるのと好対照。すなわち、個人主義と自由主義を活動規範に持って、個人であることを徹底化する。これは過去の右や左の運動にはまずみられなかったこと。在特会やその界隈のレイシストが共同体を重視するのに対し、しばき隊やカウンターは社会に単独者とあろうとするのだ。この違いは第2部の「正義」の検討にかかわる。
(しばき隊ではないカウンターは打ち上げや懇親会を開いたりした。それは、主にはデモや街宣の後に嫌がらせするレイシストを監視するためであり、抗議中営業に支障のでた店舗に金を落とそうという考えからだった。2015年あたりからマイノリティの集住地区でヘイト行動ができなくなり、レイシストも集団下校するようになってからは、打ち上げや懇親会を行わなくなったようだ。)
しばき隊は2013年9月に解散したので、その後のことは書かれていない。とはいえレイシズムに対するカウンター活動は継続しているのであって、その記録もほしい。それは別の参加者が書くべきものだろうし、地域ごとにまとめるものだろう。自分が追いかけているだけでも、本書の東京(新宿)とは違う動きが、札幌、川崎、名古屋、京都、大阪、福岡にある。川崎のは単行本になっているが、その他の地域もまとめられるといいなあ。
第2部の前半は、「ヘイトがどこからやって来たのか」というテーマで1990年ころからのできごとが並ぶ。ポストモダン、サブカル、鬼畜系、価値相対主義、インターネットなどなど。これらの文化はもちろんあるとおもうが、個人的にはバブル時代の「日本すごい」やそのあとの不況などもあるとは思う。まあ、自分はこの時代(80-90年代)を知ってはいるが、自分の殻に閉じこもっていたので、こういう議論には深いりできない。
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2019/04/12 野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-2 2018年に続く
<参考エントリー> 2013年以降のレイシズムに対するカウンター活動
2017/05/15 部落解放2013年11月号「「在特会」とヘイトスピーチ」(解放出版社) 2013年
2017/05/12 法学セミナー2015年7月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム 」(日本評論社) 2015年
2017/05/11 法学セミナー2016年5月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム II」(日本評論社) 2016年
2019/04/11 法学セミナー2018年1月号「ヘイトスピーチ/ヘイトクライム III」(日本評論社) 2018年