odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

田中素香「ユーロ」(岩波新書)

 長年の準備期間を経て導入されたユーロの歴史と現状をまとめる。それまでは西ドイツのマルクが基軸通貨になっていたが、ドイツはそのように使われるのを拒み、フランスなどはドイツがヨーロッパ経済に中心になることに抵抗していた。

f:id:odd_hatch:20201005092600p:plain

1章 ユーロの歩みー一九九九~二〇一〇年 ・・・ 1999年1月1日に導入。当初は銀行間決済に使われるだけだったが、2002年に現金が流通する。それまで11の通貨があったのが瞬時に消えた。EU圏外の国でも使用するところが現われ(将来のEU参加を目指している)、国際決済にも使われるようになる。ただしドルほどの流通高はない。中国・元は当時は規制が厳しく、基軸通貨にはまだなっていない。ユーロ導入の効果は、共通通貨(両替不要)、為替相場の安定を保障(為替リスクがなくなり金利が低下、資金調達コストが減る)など。

2章 ユーロ導入までの道のりー一九七〇~一九九八年 ・・・ 米日が経済成長している一方、ヨーロッパは停滞の時期があった。資本、サービス、商品、人が行き来自由な単一市場が必要とされ、それとセットで統一通貨も要求された。最初のアイデアは1970年。80年代になってシュミット、ジスカールデスタン、ミッテラン、ドロール、コールらの政治指導力で統一通貨導入の道筋が建てられる。ヨーロッパの単一市場は1993年に実現。その際ドイツの独り歩きを危惧する世論があり、ドイツ・フランスほかは譲歩と交渉で乗り切った。

3章 ユーロはどういう仕組みなのか ・・・ 欧州中央銀行がユーロ圏の経済政策を考えて、ユーロ加盟各国の中央銀行が連携するとユーロシステム。特徴は、物価安定だけを目的(ゆるやかなインフレターゲット、デフレ排除)、外国為替市場に介入しない(複数回介入した)、国際決済システムの運営など。「通貨は一つだが、財政はばらばら」。

4章 世界金融危機とユーロ ・・・ 2007-8年に不動産バブル崩壊リーマンショックが起きた。アメリカの不況がヨーロッパにも広がり、金融危機になった。1998年のアジアの金融危機と異なるのは、ヨーロッパから海外資本は脱出せず、ユーロの信頼と求心力が増した。(この時大打撃をうけたアイスランドは経済復興するのに数年かかった、と記憶。)

5章 ギリシャ危機と、ユーロ存亡の危機ー二〇一〇年以降 ・・・ ギリシャが経常収支他のデータを改ざんしていたことが分かって国の信用を失った。国内外から資金調達できず、ユーロの支援を必要とする。その際にドイツは支援に反対した。このようなユーロ圏内の地域不均衡(リージョナル・インバランス)は今後も発生する可能性があり、ユーロ危機が再発する可能性がある。
ギリシャへの支援は続く。10年代に起きたのは、中近東のトルコやシリアなどからの難民増加。難民支援に多くの国が消極的だったが、ドイツはメルケル首相の指導で積極的な支援策をとる。これは通貨ユーロだけの問題ではなく、民族問題・外国人排斥問題に対する回答として考えねばならない。)

終章 ユーロ再考ー課題と展望 ・・・ アメリカ発の金融危機ギリシャ危機で、ユーロは崩壊するかもという議論が出たが、それはない。危機管理の対応策がなかったのは問題だが、整備は進んでいる。ヨーロッパの経済の中心はドイツであるが、すでにとれるものは取ってしまったので、さらなるドイツへの統合は不要。なのでEUの求心力を高めるようにしている(ただし影響力は大きいので「EUの大統領はドイツの首相」という揶揄もある)。

 

 通貨と国際金融は原理以外はあまり注目していないので、歯ごたえのありすぎる内容でした。初出は2010年。それから10年たった(2020年読書)が、ユーロ崩壊論はなさそう。イギリスがEUから離脱したのでユーロもやめたのかと思ったが、どうやらポンドをなくさなかったらしい。本書をみると、EU加盟には4つの条件があり、それを達成するために財政赤字やインフレになやむ南欧諸国は苦労したらしい。なので、ユーロに参加している国がEUを離脱するのも難しいだろう。イギリスは特殊。
 本書のメモ
・1990年代、ドイツは東独併合で賃金抑制や財政赤字で経済が停滞した。その時の設備投資や研究開発で、21世紀になってから経済が成長した。
・ユーロ加盟によって、南欧等のペリフェリ(開発から取り残され基幹産業のない辺境地域)に、民間金融機関からの投資が相次いだ。不動産開発と消費に使ったので、不動産バブル崩壊後に経済が停滞した(これは日本の政策にはきわめて耳の痛い話。公共投資がいまだに建築で、企業は配当重視で研究開発費を削る。そのために、イノベーションが起こらないので、長期停滞になっている。)
 複数国家が参加する統一通貨が東アジアで実現するかというと、おそらく当面(1000年くらい)は無理
超大国と周辺の小国家という仕組みが2000年も続いているので、ヨーロッパのような大国と中小国家の連合になり、国家や民族などの合意形成で経済の仕組みを作るようにはならないだろう。そこは悲観的になる。