odd_hatchの読書ノート

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ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-2

2020/11/17 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 上」(日経ビジネス文庫)-1 1998年続き

 

 上巻の後半は、アメリカと西ヨーロッパ以外の国々をみる。WW2以前から資本に乏しく、金融制度が不十分で、自国内の技術革新が見込めない国々は、戦争による荒廃と不況から脱出するには、国家の指導と支援が必要だった。なので、いずれも国有企業をもち、政府指導による産業育成が行われた。

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第5章 信認の危機――世界的な批判 ・・・ 1980年代、社会主義政策や国有企業の不効率や赤字など悩む国では、国有企業の売却や規制緩和などが行われた。イタリアやニュージーランドなど。東アジアの新興国が開発のモデルとみなされるようになった。また、国際金融でも国境をまたいだ投資をする新興市場ファンドが生まれる。投資額は10年で数倍になった。それは市場をグローバル化したが、同時にリスクのグローバル化でもあった。たとえば、1980年代のメキシコの債務危機ケインズ主義が主流であった時代に、ハイエクフリードマンらの新古典主義経済学が生まれ、支持者が増えた。

第6章 奇跡を越えて――アジアの勃興 ・・・ WW2の東アジアをみる。どの国も日本の占領で大ダメージを負ったので、国家主導の経済開発が行われ、ある程度のところで市場経済に移行する。しかし政治体制に大きな変化はない。まず日本が経済成長。その後、1998年時点で成長が著しい国として、韓国、台湾、シンガポール、マレーシアを概観。健闘中の国としてインドネシア、タイ、フィリピン。市場経済に移行中のベトナム。「アジアの奇跡」とか「NICS」などで注目された。これらの国に共通性はないが、注目するのは、経済の自由主義と政治の権威主義一党独裁と権力内の抗争、腐敗、格差、差別など。一方で、華人ネットワークや教育、高い貯蓄率、エリート層の統治など。政治エリートやテクノクラートなどの官僚が高学歴で、読書や勉強に熱心だった。
(本書は1997年の東アジアの通貨危機までを扱っているので、アジアの経済発展が続くかは懐疑的。しかし、21世紀になると、それまで日本が経済の牽引役だったのが脱落して、中国が牽引役になった。10年ごとに不況が起こるが、持ちこたえて成長している。日本だけが脱落。あとこれらの国は政治の民主化に問題を抱えている。これについては言及がない。)

第7章 黒い猫と白い猫――中国の変貌 ・・・ 毛沢東死去後の中国。すでに二度も失脚していた鄧小平が巻き返す。その際に、産業の国有化を止め、労働者農民にインセンティブを与え、市場経済に移行する開放政策をとる。保守派との抗争などで頓挫しそうになることもあったが、1989年の天安門事件で政治的指導力を発揮し、実権を握る。1992年の不況のあと、市場経済に移行。イギリスが植民地にしていた香港が1998年に中国に返還される。1980年以降、観光・貿易で栄え、とくに金融センターとして経済の中心になった香港は中国の「一国二制度」を実行できるか。
(それから20年たって、香港の「一国二制度」は危うくなり、雨傘革命などの市民運動がおこり、親中派による弾圧がおきている。本書によると、鄧小平は1980年代にハイエクフリードマンを読んで内容を肯定したとのこと。経済の自由主義と政治の権威主義という特徴は特に中国に著しい。鄧小平のこのエピソードはそれをよく表していると思う。政治の権威主義から脱却しているのは2017年に市民運動で大統領を辞任に追い込んだ韓国くらいか。でも東アジア諸国では、ネトウヨ的な極右がある程度の勢力をもっているので、警戒は必要。)

 

 1998年時点で日本経済をみると、バブル経済の破綻のあと不況が続いているが、その理由は金融システム(とくに銀行)の危機にあり、製造業でも相殺できていないことにあるとする。発表直前に銀行への公的融資が決まったばかりで効果がわからなかったから。とりあえず銀行はおよそ10年で融資を返済したが、さて日本の銀行は効率的になり、製造業は持ち直したか? アジアの金融センターの役割は上海やシンガポールに移り、日本の製造業は中国や台湾の企業の傘下に入って持ち直し、ITシステムではアメリカに大きな後れを取っている。自動車産業だって、電気自動車の開発や自動運転システムでは十分な成果を上げていない。それに代わる新しい産業もない。しかし権威主義的保守的な経営と政治はより強くなり、国民の教育水準は下がり、イノベーションベンチャーも生まれない。2020年に読み直すと、あのころは酷い不況と失業率だったがまだ希望を持てたよなあとため息をつく。

 

2020/11/13 ヤーギン/スタニスロー「市場対国家 下」(日経ビジネス文庫)-1 1998年に続く