odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ドナルド・J・ソボル「2分間ミステリー」(ハヤカワ文庫)

 60−70年代に小学館の出していた「小学○年生」という雑誌では高学年向けになると、ミステリーの問題集を付録にすることがあった。たとえば断片的な目撃証言から容疑者を特定せよというものであったり、理髪店の鏡に映った時計からアリバイをくずせというものであったり、雪の上の足跡から犯人を推定せよというものだったり。こういうところから論理的な思考を行う訓練をもくろんだのだろう。(今でもあるのなか。ミステリーなんかじゃなくて、ソード&ソーサリーのRPGばかりなのかもね。論理的思考を粘り強く行う訓練がなされないのでは、理系離れというのもありえる話だ。この脱線はちっとも論理的ではない)
 さて、この本はジュブナイルのミステリーを書いている著者による短編ミステリー。一編が見開き2ページというから原稿用紙8−10枚というところか。ここまで圧縮されると、もはや人物描写というのは不可能で、必要最小限のことしか書いていない。探偵役は同じ人だが、どういう風貌・どういう個性を持つ人なのかはさっぱりわからない。まあ、こういうパズルにはそういうのはなくてもかまわない。解答編は別ページにあって、そこを読む前に自分で考えなさい、という時間を設けてある。まあ、そういう形式から小学生雑誌の付録を思い出した次第。自分の成績はというと、まあ3分の1くらいか。
 似たような形式の短編にアイザック・アシモフの「黒後家蜘蛛の会」がある。こちらは20ページくらいの容量があるので、人物描写もしっかり書き込むことができる。とはいえ、こちらも問題の設定は似ていて、さりげない描写をしっかり読み込まないといけない。もしこれらの短編を映像化したら、多くのものは間抜けなものになってしまうだろう。たとえば、砂漠で数ヶ月を過ごした男あるいは氷点下の事態を描いたものであれば、設問を映像化したとたんに間違っていることが判明するからだ。それが謎として設定できるのは、さりげない伏線が文字の中にあるから。そうすると、トリックを隠すもっともよい場所は文章の中なのであって、叙述トリックなんぞとご大層な名をつけることもなく、ミステリーとはやはり「文学」なのであると思うことになる。
<追記>
 日本語訳が見開き2ページであるから、おそらく作者への注文は400-500字(もっと少ないかも)。だから、トリックを仕掛けるための字数は2−3文字。しかもそれは離れたところにある。その文字を見つけることができると、この問題の正答率はぐんと上昇する。