odd_hatchの読書ノート

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エドワード・D・ホック「夜はわが友」(創元推理文庫)

 この作者は、レギュラー登場人物の連作短編によって有名。これまでのところ怪盗ニック・ヴェルベットとサム・ホーソーンのシリーズしか紹介されていないので、このような評価というのは揺るがない状態になっている。追加するとなると、「長い墜落」(「密室殺人傑作選」ハヤカワポケットミステリ)と「大烏殺人事件」(同)のトリッキーな本格物の作者として知っている人が少数いる、というところか。木村次郎というこの作者にほれた訳者がいることによって、最近(2005年)すこしずつこの人の著作が翻訳されるようになってきた。
 これは作者デビューから10年間くらいに書かれたシリーズ以外の短編を集めたもの。トリッキーな本格物は故意に(と思うが)はずされている。クライムノヴェルであったり、子供の成長物語であったり、スパイものであったり、コンゲームものであったり、と多彩な短編が並べられている。もちろんどれも面白く、一編あたり10分間をきっちりと楽しませてくれる。コンスタントに一定のレベルの短編を書けるというのは、プロとしてとても優れたものだ。
 とはいえ、作者30代のときに書かれたこのときの短編が充分に自立したものであるかというと、どうもねえ。たとえば当時のミステリー短編作家としてヘンリー・スレッサーロアルド・ダール、ちょっと場違いになるがレイ・ブラッドベリやロバート・シェクリーのような短編の大家たちがいた。この人たちの短編を読むと、すぐにその作者の個性が読み取れて、作者が明かされないまま読んでも後で作者を思い当たることができる独自性を見つけることができる。では、この短編集に収録された作品はどうかというと、そこまでの個性はなくて、別の作者のものと言われてもそのとおりだな、ということになる。
 おそらくそれは、この短編のほとんどが人間描写において「ドライ」であることに理由がある。作者が人を見る視線が冷たく、突き放されていて、距離がある。それはホックの持ち味ではなくて、怪盗ニックのシリーズを読んで思ったように、本来のこの人の視線はウォームなのだ。人のミスや失敗を少し笑うが、でもそれは仕方ないと包容する寛容なものなのだ(とはいえいわゆる「白人」以外には冷たい視線であるのだが)。そのような視線の物語を書くようになったのはおそらく1970年代になってからで、それ以後の短編のほうがより面白いだろうと思う。

夜はわが友 (創元推理文庫)

夜はわが友 (創元推理文庫)