odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

泡坂妻夫「ヨギガンジーの妖術」(新潮文庫) ヨギ・ガンジーは正体不明の大男。ヨガと奇術の達人。人を混乱させてばかりだが、事件が起きると、優れた探偵能力を発揮。

 ヨギ・ガンジーは正体不明の大男。ヨガと奇術の達人。人を混乱させてばかりだが、事件が起きると、優れた探偵能力を発揮。のちに長編にもなったシリーズ・キャラクターの登場第一作。詐術やオカルトのデバンキングも行い、憑き物落としも得意。

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王たちの恵み〈心霊術〉 ・・・ その新興都市は発展途中。商業施設など箱物はできたが、文化がない。と成金がライオンズクラブのような名士の集まりを作り、会合ごとに募金を募る。今日はヨギ・ガンジーが心霊術を行うという。真っ暗な中、ヨギを固定する蛍光塗料のテープの灯りの中、不思議な出来事が起こる。灯りをつけると、盗難にあわないようテープで固定されていた募金箱から金が盗まれていた。あの暗闇のなかどうやって。冒頭の都市の在り方がトリックにかかわるという優れた仕掛け。それにしても1980年代冒頭の日本には、たくさんの金が流れていた。

隼の贄〈遠隔殺人術〉 ・・・ 参王不動丸なる大男が遠隔殺人ができると警察に出頭した。新興宗教で気になっていた所長は、その申し出を受け入れ、名前を書いた紙を厳重に風にし銀行に預けた。あわせてヨギに監視を依頼する。その日、たしかに紙に書かれた名前のものが亡くなっていた。ヨギは不動丸に弟子入りする。名前の書いた紙の保管のしかたが手品とそっくり。そのことよりも、トリックを仕掛けるさりげない記述に驚いた。なお、不動丸はこののちヨギと行動をともにする。ヨギは不動丸の憑き物落としもしたわけだ。

心魂平の怪光〈念力術〉 ・・・ ある町でネズミの大量飼育を持ち掛け逃げ出した詐欺師がいた。その隣の村の山では、狐火がでてUFOが現れると有名になった。ヨギと不動丸はUFOの見物客に紛れ込む。ネズミを離れたところで眼力で殺すという力比べを試す。何が事件なのかわからない話が、冒頭から解決編の直前までの細かいところが、一つの絵にまとまる快感。傑作。

ヨギ ガンジーの予言〈予言術〉 ・・・ 行き倒れの客人を住まわせると、3つの書置きを書いて消えてしまった。そこには過去の事件を言い当てており、将来の不幸を予言している。一家総出でハワイに避難してきたが、予言日が明日と聞いて、ヨギはすぐに帰ろうといいだす。機内でヨギも書置きを作り、みごとに言い当てていた。古いトリックだが、意匠を代えると新しくなる。見事。

帰りた銀杏〈枯木術〉 ・・・ 神社が市街地整理で土地を売り出したが、銀杏の木を切ろうとすると不審死が続出したので、転居することになった。根付きは良かったが、今度は「帰りたい」といいだしたので参観者が増えてきた。その市のエライさんはUFO信奉者。ヨギの講演会のあと、銀杏の魂を鎮めてほしいという依頼で祈祷をしたら、枯れてしまった。

釈尊と悪魔〈読心術〉 ・・・ 大衆劇団の俳優が足りなくなったからという理由でヨギと不動丸は、寺での芝居に参加する。歌舞伎役者と見まごうほどの役者。ところがこいつが奇矯な男。犬をぶち殺したとか、女をかどわかしたとか、大酒を飲むとか、あげくのはてには警察に行方不明の女の照会を求められるほどに。芝居の打ち上げの深夜、役者はもう一人を連れ出して、行李の荷物を境内に埋めさせた。朝になると警察がやってきて・・・。芝居と奇術と心霊現象が共通するものは何か。役者崩れの美保子がヨギと不動丸の相棒に押しかける。

蘭と幽霊〈分身術〉 ・・・ ランの愛好家に念力で花を大きくするという男が声をかけた。その証拠に、エクトプラズムを温室に送ろうという。深夜に写真を自動的に撮影する機材を置くと、翌朝には白い影がフィルムに映っていた。そのうえ大事なランが盗まれている。白い影は市長に似ているというので呼んでみると、深夜に夢遊病になっていたかもと言い出した。愛好家は高価な機械を買おうとするのだが・・・。フィルム写真だったころには念写があったが、デジタルになったらすたれてしまったなあ。おかげで、巻取りフィルムのトリックが一掃されてしまった。

 このあと、ヨギ・ガンジー、参王不動丸、美保子のコンビは長編(わずか二篇なのが惜しい)で活躍する。

 

 単行本は1984年、文庫は1987年。21世紀になってから古本で高値をつけていたが、2018年の復刊で一気に値を崩した。貧乏人にはありがたい。
 古典的な探偵小説に新しい意匠を着せることで、見事に再現した短編集。「さてみなさん(とはヨギは絶対に言わないが)」の後の謎解きでびっくりする。事件は本筋と関係なさそうなできごとも、解かれた絵のなかにぴたりとあてはまる快感。ミステリー愛好家のために書かれたような本。
 読んでいる間ずっと快楽にふけっていて、ぞんぶんに楽しんだ。ただ、都筑道夫の作ほどに心服できないのは、やはり文章を読む楽しみにわずかにかけているところ。ひとつは、比喩と描写が陳腐で、想像力が喚起されないこと。もうひとつは、事件の背景を説明するために三人称無視点の文章が挿入されるところ。都筑道夫なら会話でさりげなく説明して、現在のストーリーを停滞させないのだが。

 

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