中学2年か3年かにこの大著を読んで、今よりもずっとページをめくるスピードがなかったから、この複雑な設定と長い尋問が頭に入らず、何人かの容疑者を用意しておいたもののいずれも作中探偵と同様に間違え、つまりは最後に驚愕することになった。あまりにショックだったのか、ストーリーはさっぱり記憶の外だが、犯人の名前だけは覚えてしまった。
ニューヨークのど真ん中に残された古い墓地の地下室から発見された二つの死体。 その謎を追うエラリーは、一度、二度、三度までも犯人に裏をかかれて苦汁を嘗めるが、ついに四度目、鮮やかに背負い投げをくわせる。大学を出て間もないエラリーが、四面楚歌の中で読者に先んじて勝利を得ることができるだろうか? クイーン最大の長編であり、古今有数の名編、本邦初の完訳。
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488104085
それから30年たって、再読。犯人の名前を知った上での読書。そういう視点だったので、作者がどのように伏線を張っているのかに注目することになり、とてつもなく大胆な文章がそこかしこに書かれているのに気がついた。もちろんそれらの伏線は一度書かれた後には再現することはない。となると、その伏線をそう思わせないようにするために、この本は通常の倍近くの分量を持っているのであって、途方もない情報量があるからこそ、伏線は隠されたのであった。意外な犯人ということでは、国名シリーズでも白眉ということになるか。たしかにこれらの趣向はチェスタトンのいくつかの格言を思い起こさせるにふさわしい堂々たるものである。
であるとはいえ、この長い物語を読み続けるにたるだけの謎が提示されていたかというと、ずいぶんあっさりしたものであって、克明な尋問シーンが延々と続くとあっては、どうにも間延びした感は否めない。まあ、この作が昭和7年に生まれたものであるとなると、しかたのないもの。例によって、大恐慌直後の作(1932年)ではあるが、その様子は微塵も感じさせず、数人の人物の背景に不況の様子が点描されている。何度も思うが、ミステリーとは現実逃避の役割を果たしている。
章のタイトルに凝っている。頭文字を取りだすと、「The Greek Coffin Mystery by Ellery Queen」となって、小説タイトルと作者名が浮かび上がる。こういう仕掛けはのちのダイイングメッセージや奇妙なプレゼントにつながるもの。人によってはユダヤ教の文字に対する見方の反映を見るかもしれない。
エラリー・クイーン「ローマ帽子の謎」→ https://amzn.to/43T90fY https://amzn.to/43QwpOZ https://amzn.to/3TN2piB https://amzn.to/4aHlE3M
エラリー・クイーン「フランス白粉の謎」→ https://amzn.to/3U8X5at https://amzn.to/3TPkMDq https://amzn.to/3VQxKUf https://amzn.to/3xugUQQ
エラリー・クイーン「オランダ靴の謎」→ https://amzn.to/3TNV6Hn https://amzn.to/4aMS3pw https://amzn.to/49ofEMk https://amzn.to/3JeorG5
エラリー・クイーン「エジプト十字架の秘密」→ https://amzn.to/3TIK9Xy https://amzn.to/3Ub9SZ5 https://amzn.to/3vJZcYX https://amzn.to/4cLJi0X
エラリー・クイーン「ギリシャ棺の秘密」→ https://amzn.to/43PGonM https://amzn.to/43SqWHB https://amzn.to/3xr7G7U https://amzn.to/4cQvQZO
エラリー・クイーン「Xの悲劇」→ https://amzn.to/3PQUEqH https://amzn.to/3vMnqSu https://amzn.to/4aNMF5C https://amzn.to/4aOWbFx
エラリー・クイーン「Yの悲劇」→ https://amzn.to/3PV19sv https://amzn.to/49zoy9Q https://amzn.to/4aoaSjp https://amzn.to/3vJIitw https://amzn.to/3Ja6jwP(平井呈一訳)
エラリー・クイーン「アメリカ銃の謎」→ https://amzn.to/3vLr66Y https://amzn.to/4aN0VMc https://amzn.to/3xugAl6 https://amzn.to/3vBZyRA
エラリー・クイーン「Zの悲劇」→ https://amzn.to/43RmGIk https://amzn.to/4ap0NT3 https://amzn.to/3TNVkOJ
エラリー・クイーン「ドルリー・レーン最後の事件」→ https://amzn.to/49wsIzp https://amzn.to/43Py6fK https://amzn.to/49wsZlV https://amzn.to/49tw7Pi
エラリー・クイーン「シャム双生児の謎」→ https://amzn.to/3PUbQvf https://amzn.to/43OehW9 https://amzn.to/3TTSRCi
エラリー・クイーン「チャイナ・オレンジの謎」→ https://amzn.to/49rrp4B https://amzn.to/3PUtgYI
エラリー・クイーン「エラリー・クイーンの冒険」→ https://amzn.to/3xxBLms
エラリー・クイーン「スペイン岬の謎」→ https://amzn.to/49wJVZr https://amzn.to/3UadICH https://amzn.to/3J9rTSn
エラリー・クイーン「途中の家」→ https://amzn.to/3PQULT9 https://amzn.to/3PW1R8L
エラリー・クイーン「日本庭園殺人事件」→ https://amzn.to/3TS8zxP https://amzn.to/3xqj7fX
エラリー・クイーン「悪魔の報酬」→ https://amzn.to/4aPg2ET
エラリー・クイーン「ハートの4」→ https://amzn.to/4aJiDQw
エラリー・クイーン「ドラゴンの歯」→ https://amzn.to/3TYIdui https://amzn.to/3vMClfn
エラリー・クイーン「神の灯」→ https://amzn.to/3xugIB6
エラリー・クイーン「大富豪殺人事件」→ https://amzn.to/3xBuO3r
エラリー・クイーン「エラリー・クイーンの新冒険」→ https://amzn.to/3U8WpSq
エラリー・クイーン「災厄の町」→ https://amzn.to/49sunpG https://amzn.to/4aD63lU https://amzn.to/3JvSCsB
エラリー・クイーン「靴に棲む老婆」→ https://amzn.to/3xu6lx6 https://amzn.to/3TSaKkR
エラリー・クイーン「フォックス家の殺人」→ https://amzn.to/43OcPmB https://amzn.to/3Jgr1es
エラリー・クイーン「十日間の不思議」→ https://amzn.to/3TT2nWg https://amzn.to/4cOrdiG
エラリー・クイーン「九尾の猫」→ https://amzn.to/4cQ5xCT
エラリー・クイーン「ダブル・ダブル」→ https://amzn.to/4auBpeW https://amzn.to/3vIPPZG
エラリー・クイーン「悪の起源」→ https://amzn.to/3VS1aRM
エラリー・クイーン「帝王死す」→ https://amzn.to/3xB5BWS
エラリー・クイーン「犯罪カレンダー」→ https://amzn.to/3U7GkN2 https://amzn.to/4aMSAb0
エラリー・クイーン「緋文字」→ https://amzn.to/3JbwN17
エラリー・クイーン「ガラスの村」→ https://amzn.to/49yLl5A
エラリー・クイーン「クイーン警視自身の事件」→ https://amzn.to/43PyFGo
エラリー・クイーン「クイーン談話室」→ https://amzn.to/3Jclndy
エラリー・クイーン「最後の一撃」→ https://amzn.to/4cQw6YM
エラリー・クイーン「二百万ドルの死者」→ https://amzn.to/4aMSO1Q https://amzn.to/3J7HbXM
エラリー・クイーン「盤面の敵」→ https://amzn.to/3PWlFci
エラリー・クイーン「第八の日」→ https://amzn.to/3VMM3sV
エラリー・クイーン「クイーンのフルハウス」→ https://amzn.to/4aKXOEu
エラリー・クイーン「三角形の第四辺」→ https://amzn.to/3vBzk1B
エラリー・クイーン「顔」→ https://amzn.to/3J7GVIi
エラリー・クイーン「最後の女」→ https://amzn.to/4aLQhVJ https://amzn.to/4arej8S
エラリー・クイーン「心地よく秘密めいた場所」→ https://amzn.to/3xpZZ1L
2016/11/23 エラリー・クイーン「ギリシャ棺の謎」(創元推理文庫) 1932年