odd_hatchの読書ノート

エントリーは3200を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2024/11/5

横溝正史「犬神家の一族」(角川文庫) 田舎の大きい屋敷をめぐる事件で父権を奪取する闘争が行われる。

信州財界一の巨頭、犬神財閥の創始者犬神佐兵衛は、血で血を洗う葛藤を予期したかのような条件を課した遺言状を残して永眠した。佐兵衛は生涯正室を持たず、女ばかり三人の子があったが、それぞれ生母を異にしていた。一族の不吉な争いを予期し、金田一耕助に協力を要請していた顧問弁護士事務所の若林がやがて何者かに殺害される。だが、これは次々と起こる連続殺人事件の発端にすぎなかった!血の系譜をめぐる悲劇、日本の推理小説史上の不朽の名作!!
http://www.kadokawa.co.jp/bunko/bk_detail.php?pcd=199999130405


著者の長編第6作目とのよし(たぶん金田一シリーズの中で、ということだろう)。田舎の大きな家での陰惨な連続殺人事件、たいていの場合、強力な父権を持っている人が亡くなるところから始まる。そこに、誰かが戻ってきて、残っていた人たちは動揺して、彼の行動が周囲を巻き込んでいく。あるいは思惑が広がって、疑惑のある行動を取るようになっていく。
 このシチュエーションはどこかでなじみだと思ったら、まったくドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」なのだね。フェードル長老の死、ドミトリーとイワンの帰還、遺産をめぐる思惑。妻妾間のごたごとした三角関係。過去の悪事とその秘密を知っているものの暗躍。カタストロフィーに向かってまっしぐら。「犬神家の一族」のストーリーがいかに似ているか。
 横溝正史金田一シリーズのうち、田舎の大きい屋敷をめぐる事件というのは、どれも「カラマーゾフの兄弟」のバリエーションなのだ。だから、このような物語を読者は欲望するのだなあ。そこにある父権の喪失が事件を起こし、犯人は失われた父権を奪還するために闘争するのだから。ドストエフスキーは父権の奪還をまさに嫡子による父親殺しとして描いていたけれど、横溝正史の場合は女性による父権の奪取として描く。横溝正史の探偵小説では、女性が真犯人であることが多い(クリスティだと、都会の・インテリの・独身の・男性が真犯人になることが多い)。しかし父権の代理人である金田一によって、その試みは失敗してしまう。父権は女性には渡さないよ、そういう試みは常に挫折するよ、というのが横溝正史の意図だったのかな。

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