odd_hatchの読書ノート

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鯨統一郎「9つの殺人メルヘン」(光文社文庫)

 飲み屋にかよう中年(厄年トリオと呼んでいる)。その中に現職の刑事がいて、行き詰った事件の愚痴をこぼす。そこには、メルフェンとたぶん精神分析を学ぶ女子大生がいて(彼女の描き方は中年男の欲望のままだ、美貌の持ち主で、聡明で、感じのよい、人づきあいのある、そんなヴィーナスを投影)、話を聞いている。彼女は事件に類比されるグリム童話を持ち出し、新しい解釈を提案し、それと事件の類似を指摘し、真犯人を見つける。以下が取り上げられた童話。
ヘンゼルとグレーテルの秘密
赤ずきんの秘密
ブレーメンの音楽隊の秘密
シンデレラの秘密
白雪姫の秘密
長靴をはいた猫の秘密
いばら姫の秘密
狼と七匹の子ヤギの秘密
小人の靴屋の秘密
 第1作である「邪馬台国はどこですか」では歴史の新解釈でそれが主題だったが、ここでは現実の事件との類似で童話を解釈するので、主題が2つにわかれて散漫な印象。人物の描き方といい、文体の未熟さといい、再読できないミステリ。
 もうひとつは、初見では独立した事件が個別に描かれる短編集であるが、全体を通じたもうひとつの物語があるという趣向。これを語ること自身が危険なことなので、ここまで。
 でも、この物語はかつてのホームズ物みたいに、新しいミステリの読者にはいいかもしれないね。グリム童話の新解釈というのも、すでにフロイト学派や最近の童話学(そんなものあるのか?)によって書かれている解釈なので、特に新規とは思えないのだが、それでも中学生が読んだら驚天動地で、周囲の友人に吹聴できるものかもしれない。