医学者のジョン・サンダースが深夜に帰宅しようとすると、若い美女に声をかけられる。父親の有名外科医がビルの一室にいるのだが、不安でならない。出かける前に遺書をしたためていったという。一人で行けないので、付き添ってほしいと。御年28歳で独身の博士はもちろんエスコートするのだが、その部屋には4人の男女がいる。みなテーブルに突っ伏していて、医学者サンダース博士はすぐにアトロピン中毒であることがわかった。奇妙なのは、そのうちのひとりフェリック・ヘイだけが仕込ナイフで背後から刺されて死亡していたこと。迅速な手配で他の3人は一命を取り留める。
ビルの階下には貿易会社のオフィスがあり、そこにはファーガスンという事務員が残っていて、うえの騒ぎは知らないとうそぶく。警察がきて捜査している間に、このファーガスンは警察が監視しているオフィスから姿をけし(警官が出入り口を監視してたのに)、ビルの管理人はファーガスンなる男は勤めていないと証言する。
一命を取り留めた貿易会社社長や美術鑑定家、外科医らは服におかしなものを入れられている。複数の時計であったり、消石灰とリンであったり。しかも彼らはそこに集まった理由も、おかしなもの画幅に入っている理由もちゃんと証言しない。ただ、彼らが中毒したアトロピンはカクテルやバーボンなどに混入していたのだが、それらを調合するさい、皆で監視し合っていて、誰かに見られないで毒を混ぜることはできなかった。再現実験でもそれは証明される。さて、この不可解な犯罪の方法と、毒殺と刺殺の二つで念入りに殺した理由が問題になる。
さて、その後の調査でわかったのは、殺されたヘイは弁護士に五つの箱を預けていた。それは、この4名の名前が書かれたもの。弁護士に事情を聴きに行くと、事件のあとほどなくして、弁護士事務所に賊が入り、この五つの箱だけをねらって盗んでいった。マスターズ警部の捜査によると、集まった4人はなんらかの犯罪に関係していて、それが社会に明るみに出るとまずいという後ろめたさをもっている。その事件の証拠が五つの箱の中に入っていたらしい。
とまあ、事件の骨格だけをまとめるとこんな感じ。サンダース博士、マスターズ警部、ポラード巡査部長の視点で物語が語られる。それは、この物語を散漫にしたみたい。冒頭の謎が地味であるうえに、途中のサスペンスやドタバタ騒ぎもないし(H・Mは登場するなり、野菜を満載した手押し車をひっくり返して、市場を混乱させるというファースを演じるがそれくらい、この作ではとてもおとなしい)。それもあってか、ときにあくびをかみ殺すこともあったと告白しておこう。
さて、事件にはある家電製品がかかわる。いまとなってはありふれたもので、そのトリックは科学捜査ですぐさま発覚するよと嘲笑されそうな具合であるが、1939年発表となるといささかことなる。この家電製品は20世紀初頭に家庭向けが製造販売されたとはいえ、高価で低性能。ようやく普及するようになったのが、1930年代。それでも高価でなかなか普及率はあがらない。この国だと、1960年代にならないと家庭には入らなかった。そういう珍しい製品であるのが、この作のポイント。この次の作である「読者よ欺かれるなかれ」も家電製品が事件に関係していて、なるほどイギリスだと家電製品が一般家庭に普及していったのはアメリカに遅れること10年のこの時期なのだということに気が付く(クリスティやクロフツの1920年代の作品には、それほど家電製品はでてこない)。
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