odd_hatchの読書ノート

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ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-ダイジェスト2 航海は退屈なので、鯨学と捕鯨船の仕事を学ぼう。

 15分でわかるハーマン・メルヴィル「白鯨」ダイジェスト(2)。
2016/09/30 ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-1 1850年 の続き。
 大西洋、インド洋、太平洋を移動する捕鯨航海。鯨学の蘊蓄がえんえんと語られる難所。

第53章「交歓(ガム)」(捕鯨船) ・・・ 捕鯨船は他の船と異なり、洋上で出会たときには、船長から水夫まで交歓するのが通例。なんとなれば、一度海上に出れば数年帰国しないものだし、漁場の情報も得たいから。しかしエイハブはアルバトロス号と交歓しなかった。

第54章「「タウン・ホー」号の物語」(捕鯨船) ・・・ かつて漏水孔のできた船で、航海士と水夫の喧嘩から、水夫の叛乱が起きた話。途中で、モービー・ディックと出会う。

第55章「荒唐なる鯨の絵について」(鯨学) ・・・ 鯨の博物画の歴史。博物画家が捕鯨船に乗ったことはないし、カメラもできたばかりとあって、正確な鯨絵はなく、「私」は大鯨は絵に描かれることはないという。

第56章「やや誤解少なき鯨の図、ならびに捕鯨場面の真相を描ける図について」(鯨学) ・・・ 現代(1850年ころ)になると正確なものがでるようになり、捕鯨の現場をとらえた木版画、銅版画も出てきた。

第57章「油絵、牙彫、木彫、金石彫刻、および山中、星座にみる鯨について」(鯨学) ・・・ 非芸術作品の鯨。幻にあらわれる鯨。

第58章「鯡卵(ブリット)」(鯨学) ・・・ せみ鯨の好むニシンの卵。ノアの洪水が引いていない海のイメージ。

第59章「檜烏賊(ヤリイカ)」 ・・・ ダグーが白鯨を発見。ボートを出すと、巨大な烏賊だった。スターバックは「ヤリイカをみて港に帰って話をしたものはない」と叫ぶ。抹香鯨の好物としてのヤリイカ

第60章「鯨索」(捕鯨船) ・・・ 捕鯨に使われるマニラ索。その収納法と捕鯨時の危険について。「人間はみな鯨索に囲まれている」とエイハブの最後を予感させる。

第61章「スタブ鯨を仕留める」 ・・・ インド洋で抹香鯨を発見。スタブの采配で仕留める。

第62章「擲銛」(捕鯨船) ・・・ 漕手と遠銛をする銛打ちの苦労と体力について。捕鯨中のボート操縦の改善提案。

第63章「叉柱(さちゅう)」(捕鯨船) ・・・ 銛を置く叉柱。捕鯨中は複数の銛が鯨のまわりを漂い、ボートと乗組員の危険になる。

第64章「スタブの夜食」 ・・・ スタブ、船に係留した鯨の肉をとり、ステーキをつくらせる。黒人の老コックをからかう。鮫が深夜に宴会を開く。

第65章「佳肴としての鯨」(鯨学) ・・・ 鯨肉はうまいという話(当時西洋では捕鯨は油をとるためで、肉は捨てていた)。また当時1850年すでに動物愛護協会があった。

第66章「鮫退治」(捕鯨船) ・・・ 鯨油取り作業が始まるまでは、銛打ちが鮫を退治しなければならない。今夜はクィークェグが担当する。

第67章「脂肉切り」(捕鯨船) ・・・ 係留した鯨に切れ込みを入れ、巻き上げ機を使って、脂肉だけを引き上げる。銛打ちはさらに切れ込みを入れて、適切な大きさに切り分ける。

第68章「「毛布」」(鯨学) ・・・ 毛布は捕鯨船船乗りの用語で、前章の巻き上げた脂肉のこと。抹香鯨一頭で十樽(バレル)の油がとれる。その脂肪と血液で鯨は北氷洋でも平気。

第69章「葬札」(鯨学) ・・・ 解体の終わった鯨は海に流される。鮫と海鳥の葬送の饗宴。

第70章「スフィンクス」 ・・・ 解体の前に頭部が切断される(これをスタブは10分でできるという!)。頭部は船の横に巻き上げ機でつながれる。エイハブは昼食で人気のない甲板で、鯨に語りかける。「アブラハムも信仰を失うほどのできごとをおぬしは見たが、ただの一言もおぬしは語らぬ」

第71章「ジェロボウム号の物語」 ・・・ 船内に伝染病患者のでたジェロボウム号とはボート越しの会話になった。ガブリエルというニセ預言者が現れ、白鯨を追うエイハブを嗤う。ジェロボウム号の船長宛に死んだ妻からの手紙を渡そうとするとガブリエリが遮る。

第72章「猿綱」 ・・・ 鯨の解体の最中、銛打ちは鯨に乗って鮫を退治しながら、解体を進める。猿綱はあるが、ときにおぼれることもある。船に戻ったクィークェグに小僧は生姜水(ジンジャーエール)を持ってくるが、スタブは叱って強い酒に変えさせる。

第73章「スタブとフラスクがセミ鯨を斃し、それについて談る事ども」 ・・・ 章題のようにセミ鯨を斃したあと、エイハブは抹香鯨とセミ鯨の頭を両舷側につるされるだろう、エイハブの雇ったフェダラーが気味悪いなどと話す。

第74章「抹香鯨の頭−対照的考察」(鯨学) ・・・ 目が左右に分かれて立体視のできない鯨の視界。ほとんどないような耳。巨大な下顎。肉がそげた後、顎や歯を切り取って保管する。

第75章「せみ鯨の頭−対照的考察」(鯨学) ・・・ 靴屋の木型のようなセミ鯨の頭部。「髭」は様々な用途に使われるので、採取する。セミ鯨はストア派、抹香鯨はプラトン派、晩年にはスピノザの説を取り入れたと思われるがどうであろう。

第76章「破城槌」(鯨学) ・・・ 抹香鯨の巨大な頭部。骨のない硬い頭部が魚の浮袋の役をしているのではないかと推測する。

第77章「ハイデルベルヒの大酒樽」(鯨学) ・・・ 抹香鯨の頭部にある巨大な蜂の巣状の油溜め。

第78章「大酒樽と釣瓶」(鯨学) ・・・ 油溜から油をとる作業をタシュテグの指示で行う。ほとんど取り終えたときに、タシュテグが鯨の頭部の穴に落下。その勢いで吊り下げていた綱が切れ、海中に落下する。ダグーとクィークェグがタシュテグを助ける。油まみれのタシュテグを助ける作業をイシュマエルは「産婆術」にたとえる。

第79章「大草原」(鯨学) ・・・ 人相学による鯨の顔の解読。「ピラミッドのごとき沈黙」を示す天界を主宰する抹香鯨の顔からは何も読み取れない。

第80章「胡桃」(鯨学) ・・・ 骨相学的観察。頭蓋骨は人間のそれに酷似しているのに、脳は小さい。代わりに大きな椎骨があり、その上の瘤が頑強性や傲岸不屈性をつかさどると考える。

第81章「ピークォド号、「処女」号と会す」 ・・・ ドイツの捕鯨船「処女(ユングフラウ:乙女)」号と会い、油を所望される。鯨を発見し、片方の鰭のない老いた鯨を追う。長時間の格闘と、鯨の断末魔、そして死。あまりに沈降するので、廃棄することにする。

第82章「捕鯨の名誉と光栄について」(鯨学) ・・・ 神話時代の鯨取り。ペルセウス、聖ジョージ、ヘラクレス、ヨナ、ヴィシュヌ。

第83章「ヨナについての歴史的考察」(鯨学) ・・・ ヨナが鯨に飲まれた話を合理的に解釈したいくつかの説について。

第84章「槍の宙返り」(鯨学) ・・・ 銛を刺しても鯨が泳ぎを止めないとき、もっと軽い槍を投げることがある。その投擲方向から「宙返り」と呼ばれる。スタブが「宙返り」の妙技を披露。

第85章「噴泉」(鯨学) ・・・ 汐吹の機能と役割に関する考察。

第86章「尾」(鯨学) ・・・ 尾の機能と役割と運動について。「わたしは鯨を知らぬ。また永遠に知らぬだろう。」

第87章「無敵艦隊」 ・・・ スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡を通る。抹香鯨の大群に遭遇。全ボートを出して、鯨群の中で捕鯨。たくさんいても仕留めたのは一頭だけ。

第88章「学校と学校教師」(鯨学) ・・・ 20-50頭の小群をなすことがあり「学校」と呼ぶ。メスの群れにオス一頭のタイプと若いオスばかりのタイプがある。(註:1850年代の観察なので、現在に適用するかは不明)

第89章「繋ぎ魚と離れ魚」(鯨学) ・・・ 捕鯨の途中で鯨を見失い、他の船が捕らえることがある。このとき、何か目印のある場合(繋ぎ魚)は目印の持ち主が、目印のない場合は回収者が所有することとする。

第90章「頭か尾か」(鯨学) ・・・ イングランドでは陸で鯨をとらえた場合は、頭を王が、尾を王妃が所有することになっている。(イギリスの風習を風刺、批判)。

第91章「ピークオッド号、「薔薇の蕾」号にあう」 ・・・ 死んだ鯨を係留しているフランスの捕鯨船と出会う。船長が初航海だと聞いて、スタブは死んだ鯨を流すようにいう。臭いにおいに辟易していた一等航海士は船長に「死んだ鯨からペストが出る」云々の出まかせをいう。放流した死骸をスタブはひそかに回収し、龍涎香を発見する。

第92章「龍涎香」(鯨学) ・・・ 当時の龍涎香の知見。

第93章「見捨てられし者」 ・・・ 普段は留守番をするピップが鯨取りのボートの漕ぎ手になり、二度ボートから投げ出される。漂流して本船に救助されたが、以来、ピップは狂気になった。(のちにイシュマエルに起きたことを先取りする)

第94章「手をにぎろう」(鯨学) ・・・ 油搾り作業の労働の喜び。労働者への連帯感。後半は油搾り作業で出てくる鯨の各部の名称について。

第95章「法衣」(鯨学) ・・・ ケンタッキー人より大きく、直径1フィート、漆黒のカソック。

第96章「製油装置」(捕鯨船) ・・・ 捕鯨船の中の巨大な窯。そこで鯨の油を精製する。

第97章「ランプ」(捕鯨船) ・・・ 他の船は真っ暗だが、捕鯨船では灯油はたっぷりあり、夜も明るい。

第98章「収納と清掃」(捕鯨船) ・・・ 釜の油を樽に移し、船倉にしまう。甲板他の血と油を拭き清め、身体をきれいにする。清掃して一息つく間もなく、「汐吹いてるぞ」の声で苦しい作業に戻る。それが人生である。


2016/09/28 ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-3 1850年 に続く。

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