odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

イサベル・アジェンデ「神と野獣の都」(扶桑社文庫)

 「アメリカ人少年アレックスは、母の病いに意気消沈する、気弱な15歳。そんな彼が、ひょんなことからアマゾンへの探検隊に参加する羽目に!探検の目的は、謎の人間型生物「野獣」の探索だ。アレックスは、同じ年ごろの少女ナディアと出会い、現地の呪術的世界に触れ、考えもしなかった自分自身の真の姿を知るようになる。ところが、ふたりを予想外の事態が襲う――最高の物語作家アジェンデが、マジック・リアリズムあふれる語り口で、少年の驚くべき冒険をつづった、世界的ベストセラー! 」


 カリフォルニアに住む少年アレックスは、内気でジャンクフードの好きな少年。母がガンにかかり、一家は離散することになる。彼は父の母のもとに預けられ、アマゾンの探検に参加することになる。そこには「野獣」と言われる未知の生物がいて、文明人と接触したことのないインディオとともに暮らしているのだ。何事にも自信のない少年は、アマゾンでインディオとブラジル人の混血の少女ナディアと出会い、不思議な力を見出す。そして、インディオの呪術師から使命を授かる。そして・・・
 無垢な少年が世界の外部を訪れ、自己変革の体験と試練、そして彼を支える他者の存在を受け入れて、一人前の大人になっていくという物語はたくさん書かれた。この小説はたとえば、「宝島」とか「15少年漂流記」に似ているなあ、あるいはハガードの異郷冒険小説ににているなあと思っていて、そしたらそういう小説はなんだ「ロビンソン・クルーソー」や「ガリバー旅行記」だ、いやまて、「オデュッセイア」そのものではないか。なるほど文学は、文字による成人になる儀式なのだ、と思いついた次第。この小説が先行するものと異なるところがあれば、通常自分の住む世界のルールや認識方法を自覚し、世界を守ることへの自己変革と意識化であったとすれば、「神と野獣の都」ではインディオという異郷・異文化のルールや世界認識を自覚し、自分の住む世界の変革を志すというところ。大人になった少年アレックスはりりしいとはいえ、西洋化された世界では異端であり、孤独である。彼の「戦い」は通常のRPGやファンタジーの主人公のような世俗的な「成功」とは無縁だ。彼は、このあとどうやって頑張ることができるかな。それは彼に感情移入したわれわれ読者にも期待されているがんばりだと思う。
 ストーリーテリングの技術はすばらしく、さまざまな伏線がピタ、ピタとはまっていくのに快感を覚える。とくに、冒頭ではさほど重要とは思えないフルートが後半になって存在の核心となっていくまでがすばらしい。言語化されない知識・身体能力がことばよりも重要だ、という視点は非西洋的な感覚で、「日本人」(かっこ付きにするしかない)にも共感できること。(とはいえ、あまり強調しすぎるのはよくない。)
 いやあ久しぶりで読書の快楽を味わった。こんなすぐれた本を1年以上放置していたことを悔やんでしまう。名作「精霊の家」の作者、イサベル・アジェンデによる少年少女小説。世界的なベストセラーになって三部作になったとのよし(残念ながら続きは未訳の様子)。