腕の良い掘り細工師の巳之吉、正体不明の浪人の内藤端午、未来予知能力のあるお近らが、30年前に死んだ平賀源内の野望を食い止めようとする。死人を操り、付け火に殺人を繰り返す彼らの目的は得体が知れない。それぞれ異能を持つが、強大な敵組織には歯が立たない。行方を定めるのはお近のうらないのみ。
1978年に出版された本書は、作者がいうには最も売れた小説。
八百八町しのび独楽
呪殺吹一戻し ・・・ 登場人物紹介の章。大工で独楽回し、実は泥棒の巳之吉、腕の立つ牢人・内藤端午、きっぷのいい女すり・韋駄天お絹。丑の刻参りの女がおかめの面をかぶる武士に嬲り殺された。居合わせた巳之吉は女が井筒屋の女将であるのを知り、兄・美濃屋吉造の店を張る。深夜の不可思議な幻術と見世物にたぶらかせ、お絹と一緒に吉造に捕らえられた。吉造に解雇された端午が巳之吉に袋を投げてよこす。ここから二人の付き合いが始まる。
寝承だれ弁天 ・・・ 白い蛇が首に巻き付いて死んだという手代がいた。異常な死因の談判に行くと、店はなにもいわずに百両もだした。店の土蔵で異様な祈祷が行われている。熊の皮の化け物が見ていた巳之吉と端午を襲う。長屋でも不審火が起きる。そこにおいて、端午は「江戸に不審な出来事が起きている。大金持ちが死んで金を奪われている。辰の年、日、刻に生まれた女が連続して殺されている。実は私はそれを調査している幕府の隠密。」と明かす。
逆立ち女郎 ・・・ 巳之吉がこどもに声をかけられて、女郎買いにいくと、元軽業芸人が無残に殺されていた(タイトルのように)。こどもに聞くと、軽業芸人の夫が人を斬る病にあって、町を徘徊しているという。巳之吉、おかめの面を被った浪人に切りかけられるがどうやらそいつは新兵衛という軽業芸人の夫らしい。
五月雨駕篭 ・・・ 駕籠に乗った女が消えるという事件が次々と起きた。事件は寺社の周囲で起きる。巳之吉と端午は目星をつけた寺に行き、秘密の部屋を見つける。そこにいたのは失踪した女のゾンビ(とはいっていないが)と柱にくくりつけられた韋駄天お絹。そこに生と死の秘密を解明したという白髪の老人が現れ、名乗るには平賀源内!(30年前に死亡したはず。とすると小説の今は1810年)
一つ目小僧 ・・・ ここで巳之吉の仲間がそろう。掏摸の小鼠の次郎に、弟分宇之松(逆立ち女郎の被害者の息子)など。巳之吉の前に一つ目小僧の怪異が現れ、危うく死にかける。
まぽろし菩薩 ・・・ おかめの面の侍は蛤の根付けを持っている。その作り手の娘を探すと、先が見えるということで、巳之吉と端午に警告する。危機を避けるには背中に痣のある女がいないといけないというが心当たりはない。家に帰す途中、侍が襲うが端午はどうにか切り捨てた。しかし、まだ生きていると宇之松が飛び込んでくる。
死霊すごろく ・・・ お絹を匿っている親分の家が襲われ、拉致される。お近の長屋が、続いて巳之吉の長屋が付け火にあう。3人の前に源内が現れ「もう会うまい」という。行く先は京と知れ、3人は旅支度を始める。
以上、江戸編。悪が日常を侵食し、真っ先に気付いたものにだけ現れる。主人公たちにはいったい何が起きているのかわからない。探るうちに小さな危機が訪れ、次第にぼんやりと事態が見えてくる。そのうちに、仲間になりそうな異能の持ち主と遭遇し、いさかいやすれ違いがありながらも結束してくる。ついに準備を終えた悪の組織は最初の攻撃を仕掛けてくる。
長編活劇映画の第1部がここで終了。つかみはOK。いやあ、うまいなあ、楽しいなあ。懐かしいなあ、昭和30年代の冒険活劇時代劇映画みたいで(「旗本退屈男」とか「眠狂四郎」とか)。死人の群れ(ゾンビ)が襲うところなどは1970年代のゾンビ映画の反映だろうし、平賀源内を悪役にするのも慧眼(ほかにはないんじゃない。こういうのはたいてい天草四郎とか天一坊あたり)。ともあれ、旅に出た巳之吉、端午、お近の行方を追うべく、ページをめくろう。
2017/07/20 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-2 1978年
2017/07/19 都筑道夫「神州魔法陣 下巻」(時代小説文庫) 1978年