odd_hatchの読書ノート

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都筑道夫「神州魔法陣 下巻」(時代小説文庫)

2017/07/21 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-1 1978年
2017/07/20 都筑道夫「神州魔法陣 上巻」(時代小説文庫)-2 1978年


 源内らの妨害はいよいよ激しくなる。端午らは旅程を進みはしても、敵の意図を挫くには後れを取っているのではないかとあせりもある。いよいよ敵の本拠地が近づいて、端午らは分断され、傷つき、疲労困憊している。さらに攻撃が加えられ、彼らの予想や推理を上回る怪異も起こり、頭も体もノンストップで動かし続ける。とうとう舞台は、敵の目指す京都に移る。

三十六峯しのび独楽
近江八地獄 ・・・ いよいよ近江にはいり畿内となった。源内は近江八景ならぬ近江八地獄を味わうことになるとうそぶく。さっそく巳之吉が三九郎に襲われ、琵琶湖の上で一行は黒雲のなか、蛇見鳥(江戸で襲われた)に襲撃される。
続・近江八地獄 ・・・ これは幻術だと思い直すと湖は一転して平穏に。お近らが比叡山に向かったという情報を得て、上る途中、二人の内藤端午が現れる。ひとりは岩藤三九郎の変装した姿。お近を取り戻したが、薬で目が見えない。そのうえ、火をかけられお堂に逃げ込むと今度は再び湖に流される。黒馬の滝の老人がやってきて、源内に幻術をかける。
比叡おろし魔法陣 ・・・ これだけ目くらましが続くのはなぜかと端午は問う。一行は京につき、池田屋に宿をとる(お近は侍がたくさん死んでいるのを幻視)。先に今日に入った金五郎と菊之助から、源内は彼らを盗賊の一味とするデマを流しているのを知る。三九郎が二重スパイになるといいだし、深夜鴨川に行く。そこに源内登場。お絹と赤ん坊、若侍、額田新兵衛の秘密が明らかに(この真相は「帝都物語」にちょっと似ているような)。源内の仕掛けた地雷火が爆発する。
京洛火炎扉風 ・・・ 京都を火の海にし、死人を生き返らせ、自分が日本の王となるのが源内の野望。地雷火から延焼した火事が起こり、盗賊が商家を荒らす。端午、巳之吉、夕霧は源内が二条城のうえにつくりだした天守閣に乗り込む。そこには源内、お絹、額田新兵衛、もう一人の盗賊が待っていた。彼らの最終決戦。源内のつくりだした結界は端午の手をしても破れない。たったひとつの冴えた方法は……。大団円を迎えた後には、登場人物のその後が書かれ、万事めでたしの「完」が大きく浮かび上がる。お疲れ様でした。


 あとがきで大正から昭和にかかれたたくさんの伝奇小説に範をとったと書いている。作家が幼年時代から読んできたという伝奇小説のリストにはくらくら(読んだことがあるのはいくらもねえや@日本の夜と霧by大島渚)。いやこれから読む本が増えたとよろこぶべきか。
 なるほど作者の言うように、ここでは伝奇小説の範からずれたものはない。期待通りの展開が続く。絶体絶命の危機が訪れても、どうやって切り抜けるのかを想像してもそれを上回る解決をみせる。ここは探偵小説作家としての面目躍如。端午や巳之吉らが立ち向かうのは源内のたくらみにあるが、その具体的な方法は想像がついても、意図や動機はわからない。これが小説をつらぬく大きな謎になり、それが最終章「京洛火炎扉風」で明らかになったとき、大きな驚きを覚えるだろう。もちろん内容は書くわけにはいかない。そこに至るまでの800ページを読むという(楽しい)苦行を経たものだけに授けられるのである。
 この小説も1990年代に文庫化されたあと、文庫もろともなくなったようで長らく入手難が続いていた。2014年、戎光祥出版で再刊された。
 センセーの時代もの伝奇ものにはほかに、「神変武甲伝奇」「女泣川ものがたり(べらぼう村正・風流べらぼう剣)」「幽鬼伝」「変幻黄金鬼」があるので、ともども御贔屓に。ああ、「なめくじ長屋」シリーズも。