odd_hatchの読書ノート

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都筑道夫「少年小説コレクション1」(本の雑誌社)-「ゆうれい通信」 大学生・和木俊一が主人公の昭和35年ころのジュブナイル探偵小説。

 都筑道夫ジュブナイル小説(少年小説と呼ぶ方が当時にはあっている)。敗戦後に生まれた大量の子供がティーンエイジになり、娯楽のマーケットが生まれたのだ。学習誌、マンガ雑誌、貸本マンガなどのメディアがいっせいにできた。そのために書き手が不足していて、若手に声がかかったのだろう。著者は、早川書房の編集者をやめて、筆一本で独立したころ。少年向け、少女向け、中学生向け、高校生向け、どのような媒体でも仕事をしていた。
 1960年ころのジュブナイルのうち、少女雑誌に連載された推理ものを集める。シリーズ探偵は民俗学を学ぶ大学生・和木俊一、二つ名は「おばけ博士」。東都新聞の江崎記者、警察庁の城村刑事が脇をかためる。たぶん著者最初のシリーズ探偵。「少女クラブ」連載なので、小学高学年から中学生の女の子が主人公。かっこいいお兄さんに憧れる年代なのか、探偵はスマートでハンサムで、スポーツマンタイプの優等生。

ゆうれい通信 1960.01-12 ・・・ 以下の12の短編。タイトルの数字がひとつずつ増えていくという趣向。
一本杉の家 ・・・ はなれの一軒家の廃屋に夜な夜な明かりがつく。ゆうれいではというので、和木は調べに行く。なぜ、和木のような旅人にゆうれい話が届いたのでしょう。
二階にうつるかげ ・・・ 毎晩、女の姿が窓の映る幽霊屋敷がある。そこには脚の悪い女性がいて、主人が有名な能面の収集家。女の姿がうつるときには、自動車が来ているのも不思議。女の子は銭湯通い。この時代の都会では内風呂がある方がめずらしかった。
三時三分にどうぞ ・・・ 亡くなったはずの親友みどりから電話がかかってきた。家に電話すると、迎えが行くから乗ってきてくれ、みどりも待っているといわれる。和木に手紙を残して、でかけたら暗闇の部屋に閉じ込められた。
スペードの4 ・・・ となりの家のマクドナルドさんのうちに、ふたつに破ったスペードの4がなんども届けられる。人オオカミの呪いを忘れるなという男も現れ、マクドナルドさんの家に人狼が入るのがなんども目撃される。
五色のくも ・・・ 700万円の銀行強盗が見つからない。隣の部屋に越してきた小野崎さんは13-21時の不規則勤務できむずかしや。五色のくも(むしのほう)が小野崎さんのまわりでみつかる。いったい何が進行中でしょう。探偵役は美香ちゃん(和木は興味示さず傍観)。
ぼうしが六つ ・・・ 近くに銀行のある薬屋さんにシルクハットが置かれている。それが六回も続いたあと、婦人帽が置かれていた。和木「おばけ博士」は怪しいと調べにはいる。
七福神の足あと ・・・ 表具屋の掛け軸に描かれた七福神が抜け出して表具師を殺した。掛け軸はまっしろになっている。あたりには小さな足跡が。数年前に骨董の布袋の掛け軸が盗まれていた。
8時のない時計 ・・・ 葉山の別荘で不思議な女の子に会う。誘わるまま美香が大きな屋敷にいくと3人のやせた影の薄い人たち。今日は死んだ女のことが帰ってくる夜、みんなで待ちましょうという。たくさんの時計には8がない。怪談の描写がすばらしい。現実的な解決はやるせないもの。
おしの九官鳥 ・・・ 病気で寝込んでいる財産家。おじ夫婦が住み込んでいるところにゆうれいがでるといううわさ。財産家は「おしの九官鳥を探せ」となぞめかす。ゆうれいが出た夜、財産家はショック死。遺言は財産は弟に、一人娘を預けるというもの。一人娘は弟のおじさんが怖い。
十字路の火を消すな ・・・ 街灯にタイトルの文字と日付が書かれ、いつか消えてしまう。そのうえ白い服の大きなゆうれいも現れる。日付の夜には街灯付近にたくさんの人が集まる。そこにゆうれいが現れた。
十一才のたんじょう日 ・・・ 一つ年下のひろこちゃんは元気がない。いつも眠くて、幽霊をみたりするから。友達の実かは11月11日に11才になるひろこちゃんのために、和木探偵というプレゼントを贈ることにする。
十二ひとえの人形 ・・・ 有名になった和木探偵に依頼が入る。人形が物に取りつかれているというのだ。アポの電話を掛けると、その先で悲鳴とうめき声が。急いでいくと動く人形が・・・。
 少女向けということで死体はできるだけださない。美香の周辺で奇怪な出来事が起こり、それが何か事件になるかと推理して、大事になるまえに食い止める。そういう物語が大半。ここは雑誌のポリシーに沿ったのだろう。制約があってもそれを感じさせない作者の手腕はみごと。


 以下は中長編。探偵は同じく和木俊一。
耳のある家 1961.01-12・・・ 島村ルミの父は突然長期の旅行にでることになった。その間、ルミは黒川おじさんの邸にすごすことになる。その邸ではかえる女がでるとか、プールが妖しく光るとか、夜子守唄が聞こえるとか、あまりよい評判を聞かない。ルミは軟禁状態で、何度も幽霊を見、釣り天井の罠にかかったり、大変な目に合う。邸の近くでニセ札使いがいて、大学生が自分と同じ顔の男と格闘したりする。ニセ札犯と間違われた学生が江崎記者経由で和木探偵にであい、この得体のしれない事件の捜査を開始する。まあ、探偵小説というよりは冒険小説。それの19世紀風の。釣り天井、水没する部屋、顔の崩れた女性、お婆さんに化けた男性など黒岩涙香の世界。あと、少女がさんざんにいじめられて、母と再会するという因縁話でもある。
砂男 1962.01-12 ・・・ 小学五年生のゆみ子ちゃんは帰り道に砂男にあう。その翌日、会社員の清にいさんが密室から消え、砂男がゆみ子を呼んで、清のもっていた「モンゴルの砂」を回収しろと命じる。リンチを受けたのか傷だらけの清の頼みで、清の日記を読み、友人を訪ねる。そこにひげ男が現れて、こんどはゆみ子が誘拐されて、砂男ではなく自分に「モンゴルの砂」を持って来いという。和木探偵が出馬。砂男(清)、ひげ男(ゆみ子)、和木(砂)を交換しようじゃないかと持ち掛ける。おお、乱歩の通俗長編やジュブナイルのような怪人、怪盗が入り乱れる冒険小説ではないか。ここでの読みでは少女がいじめられ、そこから立ち直るというゴシックロマンスの物語が進行する(今読むと古いスタイル。おじさんにはおもしろい)。
座敷わらしはどこへいった 1974.09-11 ・・・ 中学3年の由美と邦夫は座敷わらしがでるという部屋で見張っていると、少年が入ってきて消えてしまった。周囲を探すと、大人の死体がある。座敷わらしは邦夫のいたずらであったが、その少年が行方不明。殺人犯に連れ去られたかと和木はいい、由美と邦夫は心当たりの精神病院の廃屋を深夜に探検する。事件は西蓮寺剛のシリーズにあってもよいような内容。それよりもティーンエイジの少年と少女が廃屋で深夜二人きりというシチュエーションのほうに読者は興味をもったのではないかな。


 ジュブナイル(少年少女小説)というジャンルはいわば書き捨てであって、あとで顧みられることが極めて少ない。ときに文庫になるものがあっても、正当な児童読み物・童話が主になる。著者が書いたような推理・ホラー・冒険アクション・SFなどはどうしても後回しにされてしまう。このシリーズがでたのは2005年頃、その前は大型の単行本で出て、ソノラマ文庫に収録されてそれっきり。およそ20年ぶりにまとめて復刻された。しかも初出誌の挿絵や写真付きで。なんという快挙! 同時代に読めなかった自分には懐かしさよりも、新しさを感じる。
 大型本は手に取りにくいので、文庫になるといいなあ。辻真先の「仮題・中学殺人事件」からのポテトとスーパーの初期三部作を復刻した創元推理文庫ちくま文庫に期待。