ある売れない推理小説家が犯人当てのリレー小説の企画を売り込みにきた。問題編はできているので、解決編をタレントでもある女性小説家にしてくれという依頼だった。女性小説家は問題編の作者の名を聞いて、眉をしかめたが、承諾した。その第一回に目を通すと、そこに書かれていたのは現実の事件。それも半年前のもので、しかも実名。不審に思った女性編集者が問題編の作家に連絡を問うと、福島の温泉宿から失踪し、自殺しているのが発見された。女性編集者は遺留品には見つからなかった解決編を読めば、現実の事件の真犯人が分かると確信する。
そこで、実際の事件の人たちに話を聞くと、小説と同じ不審事が起きているのが変わる。事件の直前に郵便受けが放火され、社長と喧嘩したその妻が福島の温泉宿で花札賭博に大勝して、そのうえ貸付金の回収金を含めて600万円近くの大金(大卒初任給が15万円くらいのころ)をもっていた。その妻が絞殺され、金がなくなっている。事件のカギを握るのは、社長の妻と同じ宿に泊まっていた謎の女。その容疑は社長の会社の事務員であると思われたときに絞殺されたのがわかり、謎の女の接客をした温泉宿の従業員も殺されてしまう。
タレント兼小説家の線はというと、問題編を書いた作家はこの女性小説家と不倫の関係にあったらしい。ただ、事件の前に別れている。問題編の作家の意趣返しかもしれない。編集者は女性小説家に確かめるが、はぐらかされ、しばらくして青酸カリで毒殺されてしまう。
小説は、プロローグとエピローグにはさまれた「事件」「追及」「捜査」「真相」の4つの章からできている。サマリーにまとめたように、問題編の小説が作中作として挿入されていて、しかも実名小説という体裁になっている。そこに注意すること。これ以上はいえねえ、いえねえ。
1982年に「散歩する死者」というタイトルで上梓(都筑道夫の好きな死者はあちこちうろつきまわるという話ではない)。そのころは「新本格派」に分類される小説はごく少数で、まだこの小説のような趣向はめずらしかった。この国の作では先駆的な一冊に数えることができる。なので、のちに改稿改題のうえ創元推理文庫ででたわけだ。1970年代の風俗(公衆電話、モーテル、洋酒のコレクションなど)は現在の読者がよくわかるものかしら。
すれっからしの読者である自分は、十分に楽しめなかった。同じ趣向の小説をたくさん読んでしまったので(ことに海外ミステリーのもので)、比較的早い時期に見切ったのと、真犯人推定の手がかりのミスディレクションが分かったので。そのうえ、ふたつの動機が合理的に説明されていないのに不満。以上の詳細は秘密の日記に書いておこう。
これまで三冊の「殺意」を読んだ。印象が薄いのにタイトルが似かよっているで、どれがどれやら。最初の「模倣の殺意」が良かったので、続けて手にしたが、もういいや。