odd_hatchの読書ノート

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ジョルジュ・シムノン「13の秘密」(創元推理文庫)-1

 探偵趣味のジョゼフ・ルボルニュが新聞記事を見て、13の謎を解く(というより、君には解けるかい、僕には簡単だったよ、と高慢なところを見せるのが目的か)。
 リンク先が詳しい。

d.hatena.ne.jp

1. L'affaire Lefrançois ルフランソワ事件 «Détective» 1929/3/21号, 4/4号 ・・・ 深夜、雨の中、賊が侵入し、主人を殺害、金品を奪う。割れたガラスの様子でわかる。

2. Le coffre-fort de la S.S.S. S・S・Sの金庫 1929/3/28号, 4/11号 ・・・ 巨大な金庫を設置して有価証券を保管していたら、なくなっていた。三人のカギの持ち主は誰も開けていない。

3. Le dossier n° 16 書類第十六号 1929/4/4号, 4/18号 ・・・ 書類16号に書かれた毒殺事件。アスピリンを常用している男がストリキニーネを大量に飲まされて死んだ。間際に妻を告発する。

4. Le mort invraisemblable 奇妙な死体 1929/4/11号, 4/25号 ・・・ 大男が突然死。外傷は見当たらない。部屋は荒らされ、金が盗まれている。ルヴェル風の解決(探偵小説のルール無視)。

5. Le vol du lycée de B… B……中学の盗難事件 1929/4/18号, 5/2号 ・・・ 校長の事務机から小金が盗まれ、一部が校庭で見つかった。疑われたのは異邦人の生徒監。

6. Le dénommé Popaul 偽名のポポール  1929/4/25号, 5/9号 ・・・ その村では手紙が配達された後の24時間後に、新聞の活字を切り抜いて作った脅迫状が届いていた。郵便局長ではない。

7. La pavillon de la Croix-Rousse クロワ=ルウスの一軒家 1929/5/2号, 5/16号 ・・・ 札ン予告が届いたので警察の監視下にある男。人の出入りのない部屋の中で射殺されていた。

8. La cheminée du Lorraine 『ロレーヌ号』の煙突 1929/5/9号, 5/23号 ・・・ 係留されている小型貨物線の煙突に死体が挟まっていた。どうやって入れたのか。

9. Les trois Rembrandt 三枚のレンブラント 1929/5/16号, 5/39号 ・・・ レンブラントの知られていない絵が競売にでたが、なんと3枚の同じ絵。どれが本物か。

10. L'écluse n° 14 14号水門 1929/5/23号, 6/6号 ・・・ 14号水門を通過する船で毒殺事件が続発する。共通点はひとつもない。誰がどうやって毒をいれたか。

11. Les deux ingénieurs 二人の技師 1929/5/30号, 6/13号 ・・・ 火薬工場の実験室で爆発音。技師の一人が射殺されていた。

12. La bombe de l'Astoria アストリヤホテルの爆弾 1929/6/6号, 6/20号 ・・・ ホテルで爆弾事件。被害者はドイツの銀行強盗のひとり。身に着けているはずの金が見当たらない。

13. La tabaière en or 金の煙草入れ 1929/6/13号, 6/27号 ・・・ ルボルニュは探偵趣味に走るきっかけになった最初の事件。叔父が殺され、物が盗まれ、その現場にいたのはルボルニュ本人。

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 単行本になったのは1932年だが、その前に雑誌連載があったらしい。それをみると、作家のほぼデビュー時で、メグレ警部の誕生する前。二回連載は問題編-解答編に分かれていたのだろう。事件は記事や図面で説明される(雑誌には図面が載っていて、ルボルニュはさかんに図面をみろと「わたし」をけしかける)。関係者の説明や会話を省いて、パズルの形式にのせたので、1編10ページに満たないショートショートになった。解答はというと、この時代の長編探偵小説黄金期のものを比べるとアンフェア。あるいはルール破り。ルヴェルあたりの古い短編探偵小説期のものを再現。ほとんど評価されていないのも無理はない。
 ルボルニュも「ぼく(語り手)」もほぼ個性はないに等しいが、顕著なのは全体に漂うアンニュイ(倦怠)や疲労。事件の性格もからっとした明るさはなくて、滅入るような重苦しさがある。この「気分」はたぶんメグレに引き継がれたと思う。

 2021/04/27 ジョルジュ・シムノン「13の秘密」(創元推理文庫)-2「第1号水門」 1932年に続く