odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

アガサ・クリスティ「おしどり探偵」(ハヤカワ文庫)「二人で探偵を」とも

 ハヤカワ文庫のタイトルは「おしどり探偵」、創元推理文庫は「二人で探偵を」。

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1 アパートに妖精出現 (A Fairy in the Flat) ・・・ 連作短編のオープニング。退屈している新婚6年目の妻、冒険が欲しいと駄々をこねる。そこに夫婦で国際探偵事務所を開けと命令が。

2 お茶でも一杯 (A Pot of Tea) ・・・ 最初の顧客は、求婚した女性を探してくれという気の弱そうな青年。タペンスは24時間で解決すると豪語する。

3 桃色の真珠事件 (The Affair of The Pink Pearl) ・・・ 真珠の盗難事件。トミーはソーンダーク博士になりきって解決。

4 怪しい来訪者事件 (The Adventure of The Sinister Stranger) ・・・ ロシアの切手の貼った手紙が届き、今晩家に来てくれという大柄な男が依頼に来て、警官の相棒があいつはスパイだから張り込もうといい、トミーは深夜事務所にいる。イギリスの名探偵(全然知らない)のマネ。

5 キングに気をつけること (Finessing the King) ・・・ タイトルのコピーがついた広告を見て二人は舞踏会にでかける。そこでメリヴェール卿夫人の刺殺体。死ぬ前に愛人を名指しした。ほかの証拠も愛人を示していて、警察はその通りと高らかに宣告。タペンスは新聞を調べなおす。

6 婦人失踪事件 (The Case of The Missing Lady) ・・・ 2年間の世界周遊から帰ってきた貴族、フィアンセが行方不明になってしまったという。二人はフィアンセの手紙から行方を推測する。なるほどそういう理由なのか。これは男には思いつかない。

7 眼隠し遊び (Blindman's Buff) ・・・ 盲目探偵のまねをしてレストランに行く。そこで公爵が事件の依頼と称してトミーを誘拐。眼帯をしたままで部屋から逃げ出せとゲームを命じる。タペンスに渡した手紙の意図が小粋。

8 霧の中の男 (The Man in the Mist) ・・・ カトリックの神父の服を着ているタミーが女優からお話ししたいといわれた。その家にいくと警官が巡邏している。大男が悲鳴を上げて飛び出し、家の中では女優の死体がみつかる。ブラウン神父のパロディ。

9 ぱしぱし屋 (The Crackler) ・・・ 贋札が流れているので、ギャングのアジトを見つけてほしい。エドガー・ウォーレス風の犯罪アクション。

10 サニングデールの謎の事件 (The Sunnungdale Mystery) ・・・ ゴルフ場で死んだ男。状況は自殺、死因は殺人。隅の老人のまねで食堂の会話で事件解決。

11 死のひそむ家 (The House of Lurking Death) ・・・ ヒ素入りのチョコレートを食べて死にかけ、今度は別の毒物入りサンドイッチを食べさせられ、一人死んだ。

12 鉄壁のアリバイ (The Unbreakable Alibi) ・・・ 同時に二か所いたというアリバイを作りましたら、あなたはどうします?と美女に言われる。まあ、なんだ、この時代でも古すぎるトリック。

13 牧師の娘 (The Clergyman's Daughter) ・・・ ポルターガイストのでる家に住む娘。家を買いたいとしつこく迫られているので困っている。どうやら前の持ち主が資産を引き出して家に隠したためらしい。どこに隠してあるか、謎の鍵は暗号文。チズルリッグ卿の遺産 (ロバート・バー)@ 押川曠 編纂・翻訳「シャーロック・ホームズのライヴァルたち 1」(ハヤカワ文庫)かと思った。

14 大使の靴 (The Ambassador's Boots) ・・・ 駐英アメリカ大使のカバンが英外務大臣のカバンをすりかえられた。すぐに戻されたが、いったいなんでこんなことに。外務大臣のカバンから盗まれたものはない。カバンを見たという女性が来て、直後に悪漢がオフィスを襲撃。フォーチュン氏@ベイリーもどき。

15 16号だった男 (The Man Who Was No.16) ・・・ 国際探偵事務所の評判が高くなり、モスコーのスパイ組織が目をつけだした。タペンスが連れ出され、警察の監視下にあるホテルに連れ込まれる。ある婦人が宿泊する部屋にいたが、タペンスも連れ出した男もいない。婦人は縛られていて、施錠した窓から逃げ出したという。ポワロ@作者もどき。

 

 謎解きよりもトミーとタペンスの会話と冒険を楽しむ短編。トミーとタペンスの対等な関係、それぞれにリスペクトを感じながら、茶化しあうところがよいなあ。これが昭和4年(1929年)に書かれたとすると、日本とイギリスの男女の関係は相当に違っている。明智探偵の家政婦になっている妻・文代と比べると、ことに。
 もうひとつの趣向は、トミーとタペンスがイギリスの名探偵の物まねをしているところ。あいにく、ほとんどの探偵はこの国にはなじみがないので、パスティーシュとして成功しているかどうかは不明。まあ、この国で読む分には、とりたてて個性やユニークな外見を持っているわけではない、若い男女のコスプレを面白がればいい。こういうのもイギリスらしいなあ(中流階級以上では、男子の女装はたしなみですから)。
 これらを換骨奪胎してこの国でやってみたのが都筑道夫。近藤・土方コンビや片岡・もののべこんびや、何よりも「名探偵もどき」で試している。ことに最後にあげた「名探偵もどき」がこの作のパスティーシュであることにようやく気が付き、この国に対等な男女の物語が根付くには40年の歳月が必要だったと感慨深い。

 都筑道夫「名探偵もどき」(文春文庫)