odd_hatchの読書ノート

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埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-1

2021/06/29 埴谷雄高「死霊 I」(講談社文芸文庫)「第三章 屋根裏部屋」-2 1948年の続き

 

第四章 霧のなかで(第一日 夜)

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 黒川と別れた与志は、橋を渡って先に行く。工場地帯が近くにあるその街は「魔窟」と比喩される。労働者を見込んだ歓楽街があるわけだ(「処女の淫売婦」である「ねんね」はそこに出入りしている)。「魔窟」に行くまでに、霧の立ち込める街の道を二つの影が歩いているのをみる。「質問の悪魔」たる首猛夫と「睨みの悪魔」たる津田康造。首の「宣戦布告」から二人が一緒にいるのは奇妙であり、実際、二人の会話はかみ合わない。津田は革命家(首の自称)と一匹狼(これも首の自称)の関係を問う。首は一匹狼であり、革命家には陰謀型と叛逆型がある。革命は生の原動力であり、魂を肉体の枠から解放し、形而上学的不快を解消するのだ。それは行動的ニヒリズムであり、創造なき虚無を指向するという。まあ、革命というとレーニン主義の秘密結社であるとされた時代だ。革命家は革命が成立したら、後から続く「労働者@レーニン」や大衆によって乗り越えられて革命の成果を味わうことができないとされる。だから革命家が「創造なき虚無」を指向するのは理の当然といえよう(ちなみに、笠井潔「バイバイ、エンジェル」の革命家も同じようなことをいっている)。
 首猛夫は懐からピストルをだして、津田に見せる。現役警視総監に向かって行うには危険すぎる行為だが「アジア的思考様式」の権化である津田はもちろん自分の手でなにかをするわけではない。だが、ピストルは敵を撃つか自分を撃つかしか用途がないという首はなにをねらっているのか。彼のたくらみに関係しているのか。
 与志には耳鳴りの持病があって、時々静謐にあっても世界に何かが響いているのが聞こえる。町の通りを歩いている最中でも、霧で辺りが見えない中で、「細長い丈高い影」をみ、「わ-んと震動するさまざまな翅音」だったり「非常に遠い何処かの果てから、ゆるい、ひくい地響き」を聞いたりする。そのうちにふたつのからみあった影が現れ、実質のように濃くなる。影の会話の断片が与志に聞こえ、静まる。この影の声は、章の終わりに聞こえる赤ん坊の泣き声と比較されるであろう。なにかの比喩であるようで、実体(とはこの小説の中では何か)を指しているような世界に響く声。 

    

    

 

2021/06/25 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第四章 霧のなかで」-2 1948年に続く