odd_hatchの読書ノート

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埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-1 第2日午後。黙狂が「この世界の何ものに向っても決していってはならぬことを」聞かれぬように語る。

2021/06/07 埴谷雄高「死霊 II」(講談社文芸文庫)「第六章 《愁いの王》」-2 1981年の続き

 

第七章 《最後の審判》(第2日午後)

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 ずぶぬれになった一行(第六章)は、小橋のうえで身づくろい。津田夫人はだまってばかりの与志を詰問(「一人勝手でひとりよがり」)。岸博士がやってきて、明け方前の矢場の失踪時の状況を説明。矢場がどこにいるのかを知っているのは、第一章の病室にいた人間だけで、ひとりになったのは首猛夫だけだという。首はその問いかけには答えず、自分は三輪家のひとりであると暴露する。すなわち高志と与志は現在の広志と三輪夫人の子であるが、好色な広志はそとで複数の女を囲い、子供を産ませていた。それが矢場徹吾(弟)と首猛夫(兄)なのである。4人は母が異なる異母兄弟であった。

 

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(赤線は親族関係、青線は友人または知り合い)
 

岸博士と与志は矢場が印刷工場にいると考え、捜索に出て行った。首はそれに加わらず、空き倉庫にいく。事務所には少女がいた。この少女は第一章で登場し、病院に矢場がいるかどうかを尋ねたのだった。事務所の書類棚をどかすと地下室への入り口がある。それを降りると、一坪半ほどの狭いくらい部屋に矢場がいた。
 二日間一睡もしていな首猛夫は疲労を覚え、ベッドに横になり眠りにつく。そこから夢とも現実とも判別できない状態で、黙って黙りぬいている矢場が口を開く。「もしその言葉を一語でも発すれば、この世界の何ものに向っても決していってはならぬことをついにいいつくしてしまわなければならない(P43)」言っておきたいことを話す。それが《最後の審判》。
 長い長い話を終わり仮眠をとった首猛夫は事務室に上がる。そこには少女のほかにもう一人の男が来ていた。そして少女は父が異なる妹であり、もう一人の中背の男はその夫であった。中背の男もやはり首の後を追ってなにごとか(第五章 夢魔の世界で自動車を運転しクラクションを鳴らしていた)をなしていた。
 首は指示を与えることもなく、外にであると、すでに青白い月夜になっている。
 これが「現在」のストーリーで、全230ページのうち30ページくらいしかない。残りのページで書かれているのが矢場徹吾の語る「最後の審判」。「私が黙ってしまったのは、もしその言葉を一語でも発すれば、この世界の何ものに向っても決していってはならぬことをついにいいつくしてしまわなければならないから(P43)」。それは「壮大無比な悲哀と壮大無比な苦悩」を自己呵責とともに宇宙すべてにむけて語らなばならない「この宇宙のすべてへ向っての最後の最後の審判」。
 最後の審判の行われるのは「亡霊宇宙」。存在の約束から離れた亡者たちが集まる、厚さも広がりもないただ一点。そこに亡者たちが押し合いへし合いし、自分を食ったものを見つけ弾劾している。合言葉は「見つけたぞ」。
(ふと思ったが、衰弱死や事故死にあって自分を食われずに死んだものはどういう扱いになるのか。死体を食ったものを見つけ出して弾劾するのだろう。) 


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2021/06/01 埴谷雄高「死霊 III」(講談社文芸文庫)第七章 《最後の審判》-2 1984年に続く