odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

岩瀬大輔「生命保険のカラクリ」(文春新書)

 2009年にでた本書で、著者は生命保険に加入するポイントを書いている。生命保険の目的は、死亡後の配偶者他係累の保障、医療保障、貯蓄の3つ。収入や体調などにあわせて適切なものにしよう(詳細は本書で)。最後の貯蓄は「金利が上がってから」としている。出版後、金利は上がっていないどころかほぼゼロなので、生命保険を貯蓄目的にするのは無駄だというわけだ。実際、自分はすでに長年契約していた生命保険を見直して、死亡時と貯蓄をなくし、医療保障分だけを支払うようにしたので、本書のよい読者(すなわち保険会社のよい契約者)とはいえない。
 著者によると、日本の生命保険にはいくつもの問題点がある。ひとつにまとめると掛け金が高く、仕組みが複雑であるということだ。そのために、生命保険会社の利益は大きいのであるが(バブル時代には日本の会社が世界のトップ10のうち3つを占めた)、消費者のメリットはとても少ない。大きな問題は、支払う保険金が会社の維持に使われ(最大時50万人といわれる営業)、その会社は投資が下手であり、市場が閉鎖的であって古い慣習が残っている。端的には競争に乏しく、閉鎖的で、企業のコンプライアンスが行われていない。日本の経済が失速した21世紀になると、保険金の不払いを起こす企業が出たり、経営破綻したりするところも出ている。少子高齢化の人口構造の変化に対応していないのも。
 そういう指摘があって、21世紀には規制緩和が行われ、新興企業や外資も参入するようになった。それでも生命保険業は改善が不足するということで、著者は新しいベンチャーを設立する。これまでは体面の営業を行ったのであるが、ネットで完結できるようにしたのだ。こうすると、人と物のリソースをなくすことができ、同じ内容の保険を安い掛け金で販売することができるのだ。本書が書かれたのは企業設立後1年半後のこと。若々しい意欲が充溢している。それから10年を越えていまだに営業を続けているのだから、まずまず成功なのだろう。重畳重畳。
 生命保険も気にかかるのであるが、それよりも国の健康保険が充実していることが重要。たとえば入院の費用では一定金額を超える高額であれば高額医療療養精度があって、一時的に建て替える必要はあっても、かなりの部分を健康保険が負担してくれる。それでもカバーできない部分を民間の生命保険がおぎなうことになる。とすると、優先するのは国の健康保険制度であって、いろいろ問題があってもこの制度を継続することに注力したほうが良いと考える。なので医療経済学や公共経済学の勉強は必要。
 つらいのは日本の経済が失速し、年金の運用に失敗している現状では、年金受給資格を持つ年齢になっても年金だけでは生活維持に不足がある。2019年の財務省の試算では2000万円以上の資産が必要とされているのだ(麻生財務大臣(当時)は否定)。日本の労働人口の賃金の中央値が300万円という時代に、これだけの資産を年金受給資格年齢までに蓄えることができるのか。そのようなお寒い状況で、生命保険はビジネスとして成り立つのか。業界や仕組みを知るよりもこちらのほうが気になる。
 なお、本書はPDF版(全編)を無料で提供した(発売当時)。何と太っ腹と思ったが、著者としては多少印税が減っても、本書によって立ち上げたばかりのサービスの加入者が増えれば、会社の利益が増え収入増になると考えたに違いない。はいらなかった印税分は広告宣伝費と思えばよいわけだ。これも本のビジネスが代わってきていることの証だろう。