odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

本田良一「ルポ・生活保護」(中公新書)

 日本では1970-80年代に貧困の話を聞くことはとても少なかった。まったくなかったわけではないが、メディアが報道することがなかったからだろう。佐和隆光/浅田彰「富める貧者の国」(ダイヤモンド社)が2001年にでたとき、「貧者」は景気回復が進まず、公共サービスが貧弱な日本のメタファーだった。それが21世紀になって、日本の最も大きな問題になった。生活保護を受けられず餓死したり、家をなくした人が急増したり。しかし社会保障費は削られ続け、最後のセイフティネットである生活保護が国会議員にバッシングされている。そこで21世紀の生活保護制度の現状をみる。

第1章 生活保護とは何か ・・・ 生活保護は事後救済であり、1.国家責任の原理、2.無差別平等の原理、3.最低生活保障の原理、4.補足性の原理が必須。日本の社会保障制度は西洋より遅れてできた。明治に救済法ができたが、当時の「隣保相扶」の考えが支配的。敗戦後は社会保障制度ができたが、財源不足・対象者増加などで上記の原理が損なわれている。
自民党公明党が「自序共助公助」といったり、厚労省が「年金とは別に二千万円必要」などというのは、釈迦保障制度をなくして、明治初頭の「隣保相扶」に戻したいということだ。浮いた財源は軍事力や国威発揚イベントに使いたいのだ。)

第2章 母子家庭と貧困の連鎖 ・・・ 母子家庭の貧困率が高い。要因は、収入水準が低い、多くが低学歴、政府の政策によって貧困率が上がる、社会保険その他の負担が大きい、政府負担が低いために教育費が大きい、奨学金負担が大きい。その結果、貧困が継承され連鎖が続く。
(多くは母子家庭の貧困を当人の「自己責任」とするが、国と男の無策・無責任・放置に大きな原因がある。)

第3章 こぼれ落ちる人々 ・・・ 病気やけがで就労できなくなる人。最後のセイフティネットが生活保護だが、厚労省自治体の指導で「水際作戦」がとられ、受給できない事例が多い。しかも、プライバシーがオープンにされ、財産処分を求められ、申請届をださないように指導されるなど、受給者の心理的嫌悪感(スティグマ)が強い。
(水際作戦の結果、餓死者がでたりしている。日本の生活保護の捕捉率は20-30%と先進国で最低。

第4章 格差と貧困 ・・・ いっぽう、就労者の収入が生活保護より低い場合が多発。貧困はあってはならない価値基準であり、人と社会を破壊する。
(しかし2006年の竹中平蔵総務相は「日本に貧困はない」と発言し、貧困者調査を行わない。)

第5章 負担ではなく投資 ・・・ 生活保護の問題は、1.自治体負担が増加(国の財政削減でまっさきに削られる)、2.雇用の不足、3.失業給付の不足、4.医療費負担増加(生活保護費の半分が医療費)、5.税と保険料の負担大。国の政策は「支給は少なく負担は大きく」。その被害者は勤労者。正解保護は最後のセイフティネットであるが、そこに問題があるのはその前の社会保障制度が不足・ダメなことが押し付けられているから。生活保護の受給期間は過半数が3年未満。
(適切な支援をするのは生活保護問題の解決になる、勤労できるように促すことができる。)

第6章 自立支援プログラム ・・・ 生活保護受給者にはさまざまな支援が必要。そのためのプログラム。自立には、日常生活・社会生活・就労(ないし準就労、社会参加など労働能力によって変える)。しかし実施するには、福祉事務所のリソース不足、自治体の財源不足などがある。社会や国は「惰眠化」を恐れるが、実態に即していない。支援プログラムには市民ボランティアの参加も大事。

第7章 どう改革するか ・・・ さまざまな制度の改革。最低年金保障、最低賃金、教育保障、住宅保障など。国の縦割り行政と「財源不足」名目の社会保障費削減が最大の問題。いっぽうで社会起業、ボランティアなどの市民参加も必要。

 

 本書にでてこない視点のひとつは、差別。生活保護受給者(日本人、外国人の国籍を問わす)へのヘイトスピーチがメディアやネットで流され放置され、行政も差別に加担することがある。
小田原ジャンパー事件

ja.wikipedia.org


 日本では江戸も明治政府も「隣保相扶」で貧困や公共サービスにはまったく関心・興味をもたず、常にコストを惜しんで、公の責任を放棄しようとしてきた。その際に「惰眠化」を口実にしている。かつては企業が政府の行わない福祉を行ってきたが、1990年以降の不況は企業から余裕をなくしている(加えて、1990年代の銀行の貸しはがしの経験があり、金融に資金を頼れなくなり、内部留保をためていることが理由。あわせて法人税を下げたことで、節税のために従業員に金を回す必要がなくなったため)。結果、病気、けがなどの理由で収入が途絶えたときに、すぐに貧困(これは相対的なものではなく、生活が成り立たないという絶対的な基準がある)に陥る。以後の説明は本書で補完。
<参考エントリー>
2011/06/13 橘木俊詔「企業福祉の終焉」(中公新書)

 そうすると、貧困にどう対処するかということになるが、アプローチはいろいろ。直接貧困者支援にさんかするのもいいし、行政や政治家に働きかけるのもいいし、政治家有名人がやっているデマ拡散に反論するのもいいし、路上の生活保護バッシングに抗議するのもよいし、さまざまな支援プロジェクトに参加したりカンパしたりするのもいいし・・・。自分の得意なこと、やりやすいことからやるのがいいだろう。自分には力がないと思い込んで、無関心で放置するというのがダメ。人には一人分の力があります、無力ではない。

 

 

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