odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-2

2022/05/23 田中宏「在日外国人(第3版)」(岩波新書)-1 2003年の続き

 

 前回は1エントリーで終わった感想が今回の再読では2エントリーに増えた。最近の動向をすこしは知るようになったので、メモしておくべき事柄が増えたのだ。

差別撤廃への挑戦 ・・・ 1970年の日立就職裁判などの就職差別。自治体、士業の国籍条項撤廃運動。ほかに入居差別、「Japanese Only」表記による入店拒否など。
(就職時の差別はある程度なくなってきたが、21世紀には就職後の勤務における差別が問題になっている。フジ住宅差別裁判など。サッカーサポーターによる「Japanese Only」ダンマクは掲示者がスタジアム出禁処分をうけた。スポーツ界とサポーターの差別も問題になっている。差別撤廃法の必要性が訴えられている。)

「黒船」となったインドシナ難民 ・・・ 日本は一貫して「外国人」排除の政策をとっていたが、無視できなくなったのはベトナム戦争後のインドシナ難民受け入れ(も当初はしていなかった)から。彼らの受け入れと定住を認めるようになると、歩調を合わせるように国内の「外国人」とされた在日朝鮮人の差別政策も撤廃された。社会保障の国籍条項撤廃など。(21世紀の不況時代になると、排外主義が起こる。そこで上記の政策に対するバックラッシュといえる排外主義が起こる。外国人生活保護反対、移民受け入れ反対など。次の黒船は国連であり、日本に差別撤廃や人身売買撤廃などの勧告が行われるが、日本は無視している。)

国際国家のかけ声のもとで ・・・ 1980年代に留学生を誘致する政策になるが、日本語教育などの支援は不足。外国人労働者の子供への教育支援も不十分。なにより、在日外国人のつくる民族学校だけが支援を受けられない。(2012年の安倍政権になってから外交政策イデオロギーで無償化が除外され、司法も追随している状況がある。また2020年のコロナ禍では、朝鮮学校だけマスクの無償配布から除外された。抗議があってから配布された。)
外国人労働者と日本 ・・・ 在日朝鮮人帰化する人が出ているので、総数は減少。そのかわり戦後に日本に来る人が増えた。2019年には200万人を超えて、在留外国人によるコミュニティもできている。彼らに対する就職と就業差別が横行し、低賃金の奴隷労働が横行している。社会保障も彼らには届かない。
(日本での外国人労働者の就業環境がひどく、ひどい差別にあうのは、すでにアジア諸国に知れ渡り、日本に来るのをためらうようになっている。賃金が高い中国や、差別に不寛容な韓国を選ぶようになっている。)

ともに生きる社会へ     ・・・ 2010年代のトピック。外国人参政権。入管での長期収容・差別・虐待・ネグレクト。路上のヘイトスピーチヘイトクライム頻発など。
外国人参政権の参考エントリー>
宮島喬「ヨーロッパ市民の誕生」(岩波新書) 2004年

 

 極右やネトウヨは、「日本は日本人のもの」「社会保障は国籍保有者のみ対象。それ以外は出身国が負担」とほざくが、2010年代になって登場した屁理屈なのではなく、昭和のころからあるモットーであり、政策なのだった。バカな連中の妄言かだれかが行ったことのコピペかと思っていたが、昔からある「普通」な感覚なのだった。物事や正義をきちんと考えていない人の俗耳にはこれらの「愛国」的な言葉は入りやすいのだろう。
 背景にあるのは、日本が単一民族国民国家であるという戦後に生まれた幻想。実際には、単一民族であるどころか、常に少数民族を抱える多民族国家であった。民族的マイノリティは日本の文化に理解が深いが、マジョリティの日本人もマイノリティの文化に深く影響されている(例えば食文化)。にもかかわらず、単一民族であるという幻想が強いのは、文化的衝突による差異を認めるよりも、同質化・同一化を強要する仕組みが長年日本に根付いているからだろう(おそらく江戸の鎖国政策以来)。結果、外国人はいないものとされるか、同化を強要するものとするか、排除するものとなる。
 そのままではまずいのであって(経済的にも政治的にも道徳的にも)、是正していかないといけない。自分は意識が変えれば社会が変わるとは全く思っていなくて、まず行動を変容させなければならないと考える。そのためには法整備が必要で、行政と司法が法に則った運用をすることで、市民の行動を変える。ではどこの法整備からか、というと本書にあるように問題はどこにでもあってほとんどが手つかずの状況だ。問題のアウトラインを把握して、自分のできるところを見つけていこう(ということで、ヘイトスピーチをなくす運動にかかわっている)。